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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第八章 開花②

昏い夜を抜けて395

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 「元々は学生時代にお遊び程度に、起業した会社でね。それなりに業績はだしていても、以前は本気で大きく育てるつもりはなかったんだ」
 「……」
 以前は、ということは今は違うのだろう。
 類には資金、頭脳、人脈、その他有象無象の無形資産もある。
 何かをしようとして、なんでもやれないことはない男なのだ。
 ただ、そこに野心がないだけ。
 執着心がないだけ。
 そんな男が事業を起業していたなどと驚きだったが、それをさらに大きく育てて、生まれ育ち後継者として定められていた花沢を出て本業にしようなどとは驚き以外の何ものでもなくって。
 だが、それがなぜなのか、その理由を目の前の淡白で、何事にも無関心な男が熱い眼差しと声で語ってくれる。
 …夢なのかな。
 そんなはずはなかった。
 少女の頃に夢見た王子様の夢よりも、現実はずっと厳しく、ほろ苦く…そして愛しい。
 「その程度だったから、俺の親にも会社の幹部にも知られてない。…あきらたちにも特に喋ってないしね。だけど、俺の腹心の何人かがそっちにも参加してる」
 「…もしかして」
 思い浮かんだのは、類に忠実な秘書の顔だ。
 花沢物産の御曹司、専務としての彼に仕えているだけにしては、三田村の忠誠はつくしの目にも強く堅いように思えた。

 「三田村もそうだね。他にも何人かそっち方面に精通しているのもいるし、その連中がまた引っ張ってきた人間もいてそれなりに成長してるかな」
 「……」 
 「最終的には、別の展望もあるんだけど、詳しくは省くね。とりあえず牧野は、そんなような会社を俺が経営していて、そっちの方へと転換するつもり、そう思ってて?」
 「……大丈夫なの?」
 堅実に生きてきたつくしにしてみると、どうも投資会社だの、買収ファンドなどと言われると胡散臭いものにしか思えない。
 類が賭博やそうしたものに興味があるとも思えないが、どうしても類が言う業種にはそうした偏見がぬぐい去れない。
 「みずほやりそななんかの銀行系、伊藤忠なんかのテクノロジー系列の会社も経営している、ちゃんとした業種だよ。当然、花沢や道明寺も系列では噛んでたりもする。司なんかも、個人的にそうした会社を保有してるしね」
 「……」
 「とにかく、これが俺の決定。だから、お前が自分のせいだとか、責任があるとかまったく考える必要もないし、この先、牧野には俺の進退を変えることはできない」
 「類…」
 「それの方がいいでしょ?」
 口を出されたくない、ではなく、その方がいいだろうと聞く類の言葉の意味が身に染みる。
 「…いいのかな」
 「いいんだよ、だって、俺が決めたんだから」
 「……」
 「……」
 二人の間に沈黙が落ちる。
 「俺の話はこれで終わり。お前にどうこうしろとか、して欲しいということではなくって、誤解がないように宣言しておくだけだから。お前は今までどおり花沢物産で勤めればいいし、俺がいなくなればお前をどうこうするような男じゃないしね、彰は」
 そういう意味では高階は甘すぎて、その能力を過小評価される要因となっている。
 けれど類からすれば、能力とはさまざまな領域にまたがっていて、一概に処理能力や判断力ばかりでなく、そうした一見『甘さ』と見られがちな人間味もまた経営者の魅力のうちの一つだと思う。
 思うこととそうあれることはまた別問題だが、類もそれは認めている。
 特に在米企業のドライで実利主義的な経営手法とは異なり、日本ではそうした冷徹さよりも非合理主義的人情などが尊ばれることも少なくなく、実務能力は一目置かれていたが、怜悧さばかりが目立ち、人間味がないと忌避されがちな類よりもよほど彰の方が社内では人気があった。
 「…あたしのことは、心配してないよ」
 「そう?」
 「うん。あたし一人のことならなんとでもなる」
 虚勢ではなかった。
 類との関係、両親の借金、時にそれらがつくしの両手足を縛っていたが、だが思い切れてしまえば、それらさえなんとでもなる。
 …いざとなれば、パパたちのことはパパたちに任せよう。
 それこそ、晴男と千恵子はつくしの両親であって、つくしの庇護されるべき子供ではないのだから。
 「…そう、わかった。牧野が俺の意思を尊重してくれたように、俺もお前の意思を尊重するよ。助けが必要な時には、俺に頼ってくれるんでしょ?」
 つくしの性格では本当に困ったことがあったとしても、たとえ類が相手でも容易に頼ったりすることなどできはしない。
 それでも、そう言ってくれる類が嬉しく、素直に頷くくらいの可愛げはある。
 「…うん、お願いね」
 「そう言って、いざとなったら、隠しちゃうんだよね、お前は」
 「そんなこと」
 見透かされ、言い訳しかけるつくしを遮り、類が話を進めてゆく。
 「まあ、それはいいよ。俺が気をつけていればいいだけのことでしょ?そういう性格なのはわかってる。それを無理に変えろって言うのも無理な話だよね」
 「……ごめん」
 頼ることに慣れていない。
 それでも、すべてを理解されているような、不思議な安心感に包まれる。
 「で?牧野にはないの?俺に話すこと。話したくないのなら、…無理には聞かない。でも、そういうことでお前は平然と嘘をついたり隠したりできる女じゃないよね?」
 つくしがハッと類を見返す。
 透明な眼差し。
 そこには嫉妬も蔑みも、疑いも何も浮かんではいない。
 少なくても、つくしにはそう見える。
 けれど、どこか哀しげで…苦しそうだと思うのはつくし自身の心を彼に投影してしまっているだけなのだろうか。
 「テンパって、一人で苦しむくらいなら、ここで俺に言っちゃいな?お前を信じるって言ったよね?」
 「…類」
 「そりゃあさ…俺も聖人君子じゃないから、嫉妬すると思う、当たり前だよね」
 つくしから反らされた苦しげな顔が赤いと思うのは、つくしの目の錯覚なのだろうか。
 以前の彼の言葉には温度がなかった。
 たとえ嫉妬を語ってもどこか他人事で。
 生の感情。
 そこにあるのは、今現在、彼が感じている感情を顕にしていて。
 それなのに不安や嫉妬を素直に認めるのは、類のように感情のままに振舞うことに慣れていない人間にはさぞ羞恥心を伴うことに違いなかった。
 綺麗だけれど、どこか人形じみて冷たかった横顔がこんなにも変わるなんて、誰が知っていただろう。
 …もう間違えたくない。
 何が大切なのか。
 信じるということはどういうことなのか。
 子供ではないからこそ、もう弱く愚かしいままの自分ではいられない。
 そうでなければ、簡単に手の中の大切なものは壊れてしまうものだから…。
 「たとえ、…たとえ、お前が司と会うことに決めたのだとしても…俺は」
 「会わないよ。もう、道明寺とは…会わない」 





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