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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第八章 開花②

昏い夜を抜けて393

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 類の知人の別荘だというその場所は、鳴門市内の海を見下ろす小高い場所に立つ小ぢんまりとした隠家的な建物だった。
 季節柄華やかな花々が咲き乱れ、夜の訪問なのが残念だったけれど、瀟洒で可愛らしい外観は、それだけでたいていの女性の乙女心をくすぐるような風情だ。
 「…うわぁ」
 玄関を一歩入り、無垢材の巨大な梁が渡してある天井を見上げて、つくしが歓声をあげる。
 2階建てのログハウス作りで、玄関ホールは吹き抜けになっていて、天井の灯りとりからは月明かりが幻想的な光を投げかけ、類が電気のスイッチをつけた時にはむしろ残念なくらいだった。
 「…星も綺麗だよね、きっと」
 「そうだね。2Fの寝室は海が見える作りになってるって言うから、星明かりで海を見ながら寝るのもいいかもしれないね」
 「素敵」
 内部は新しい家独特の木の香りが漂い、薬品臭など不快な臭いはさすがにぬぐい去られていて、知人が貸してくれたということだったが、類クラスのセレブの持ち物にしては小規模な物件だった。
 「……ここってまだ、出来て新しいんだよね?」
 腰を抱かれて、広いLDKへと案内される。
 1Fで唯一の部屋なだけあって、天井の高さと相あまり、十分に広くて開放的だった。
 …凄い。こんなところに住めたら素敵だろうな。
 「…こういう家もいいね」
 「え?」
 「お前、好きだろ?」
 「……うん」
 類や司の住むマンションや邸はあまりにレベルが違いすぎて、今だに落ち着かないばかりだけれど、目の前にある別荘はつくしが夢見る範囲で十分現実的なものだ。
 けれど、それを類が理解してくれるとはまったく思っていなかっただけに、つくしの言葉にしない気持ちを言い当てられて同意されるのが意外で、たとえ彼女への機嫌取りにすぎないのだとしても嬉しい気持ちになった。
 いつからだろう。
 つくしへと心を開き出してからの彼は、時々彼女そのものを理解しているかのような錯覚さえも抱いてしまいそうな言動をすることがある。
 …見透かされてるってことなのかな?
 頭の回転が早く、観察眼に優れている男だったから、そういう見方もできる。
 しかし、それよりもむしろもっとウェットな部分で添われていると思いたかった。
 「いっそ、ここに住んじゃう?」
 「………は?」
 「まるごど家屋だけコピーしてもいいし」
 「ここって、類の知り合いの人の持ち物なんだよね」
 「あ~、そうだったね」
 「……」
 もうすでに言ってることが怪しい。
 促されソファに座りつつ、ジト目で見るつくしへと類が苦笑する。
 そしてそのまま続きのキッチンへと立った。
 「あ、お茶、あたしが入れるよ」
 腰を上げかけたつくしを制して、類がケトルを火にかけだす。
 「長時間の移動で車の冷房が寒かったでしょ?温かい飲み物飲もう?…そんな疑わしい目で見なくても、お茶くらいは俺でもいられるよ?」
 思い起こしてみれば、彼が本当にできないことなど今まで何もなかった。
 ある意味、あえてやらないだけで、もしかしたら料理や掃除をすることさえできるのかもしれない。
 あっという間に沸いた湯をティーポットに入れるコポコポという音だけが、静寂の中にある唯一の音で、その静けさが気まずいのではなく、心地のよい沈黙だった。
 やがて、カップを二つ持ってつくし対面側のソファへと腰を下ろした類が、コーヒーテーブルに紅茶のカップを置いてくれる。
 「どうぞ?」
 「あ、ありがと」
 「……」
 しばし、二人、温かい紅茶を口に含み、口をつぐむ。
 「……」
 「……」
 「あ、あのね。テ、テレビでも見る?」
 さっきまで沈黙が心地よいと思っていたのに、向き合う形で対面側に座られただけでつくしはドキマギと落ち着かない気分になった。
 もちろん、類はいつもの彼のままだったけれど。
 「今日は牧野が好きな番組があったっけ?」
 「あ~、う~、それはどうだろ?こっちだと東京とはまた違うテレビ番組構成っぽいよね」
 そもそもここまで来て、テレビを見たいはずもない。
 単なる場持たせ的、会話のきっかけを探しての話題にすぎなかった。
 「まあ、テレビはとりあえず後でいいよ。お前だって、どうしても見たいわけじゃないんだろ?」
 「…それは、うん」
 「それより、俺も…お前も話すことあるよね?」
 「…それって」
 「まず俺から話そうか?それともお前が話したい?」
 半分ほど紅茶を飲み干した類が、伏せていた目を上げ、紅茶のカップをテーブルに置いた。
 「どうする?」
 息を呑むつくしに対して、類はどこまでも平静で、ただつくしの出方を待っている。
 「あの、…あのね」
 「……」 
 「その…」
 聞きたいことはたくさんある。
 そして話さなければならないことも。
 けれど、何から口にしてよいのかわからず、つくしは真っ直ぐな類の眼差しを受け止めきれずにあれやこれやと迷って口ごもった。
 「じゃあ、俺から話してもいい?」
 「……うん」
 何を言われるのだろう。
 もしかして、やっぱり縁談の話は断りきれないとか、そんな話なのではないかと、無意識のうちに浮かび上がった自分の思考につくしはグルグルとしてしまう。
 「…なんて顔してるの?」
 困った顔の類に否定する言葉もなく、だがいつまでも逃げているわけにもいかない。
 「ううん、大丈夫だから、話して?」
 「まず言っておくけど、たぶん今牧野がしてるだろう心配はまったくの杞憂にすぎないってことを信じて」
 「……うん」
 そろそろとあげた顔が出会った類の表情は、苦笑していたけれど呆れてはいない。
 自分でもどうして、彼に対してはこうも女々しいのかと、高校時代までの自分の勝気さを遠く懐かしむ。
 だが、思い起こしてみれば、いつも類の前では思ったことの半分も言えたことがなかった。
 ドキドキして、嫌われたくなくって、いつもその顔色を伺って、少しでもその横にいることを許されている時間を長引かせたかったように思う。
 …あたし、まだあの時のままなのかな。
 あれから時が過ぎて、さまざまなことがあったというのに。
 類はずいぶん変わった。
 それなのに、どうしてこうも自分は変わらないのだろう。
 彼に憧れる気持ちから恋に変わって、愛へと成長途中のつくしには、まだまだ手探りで不安ばかり。
 だが、類は違う。
 なぜなら、膝を抱え閉じこもっていた昏い闇の底から這い上がってきた時に、すでに覚悟は決まっていたから。
 いや、それは覚悟でさえない、ただの思い込みでしかなかったかもしれない。
 それでも…。
 「何があろうと、俺には牧野がいればそれでいいって言った言葉は、この先も変わることはない。…俺は自分にとって必要なものくらいわかっているし、つまらない義理やしがらみ、それにお前のことに関してではプライドなんかまったく持ち合わせてない」
 「類…」
 「だから、お前が俺の生き方を尊重すると言った時、改めてハッキリと決めたんだ」
 「……」
 類の眼差しが真っ直ぐにつくしの目を射る。
 「俺は花沢を出る。家を捨てるよ。…かなり以前から何人かの側近を連れて、新しい会社を興してるんだ。今のところはさすがに花沢規模の会社からしてみれば足元にも及ばないけど、少なくても俺の意思を無視して、俺の人生や未来を支配しようとするものから決別するための武器の一つにはなるはずだよ」





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NoTitle

>かなり以前から何人かの側近を連れて、新しい会社を興してるんだ

その側近は、類が女性をレイプ脅迫監禁してたってこと知ってるのかな?
つくしが過ぎたことだと許しても、世間は認めないよ。
運悪く、真実が明らかになったとき類を信じて付いて来た社員はどうなる?
それにあきらや総二郎や司、桜子、弟の進もだれも知らない知られてない。
本当に類にとって好都合な展開。
知られてない・隠してるってだけで
ずっと仲間たちを裏切ってることには変わりないです。
このまま同じようにツルんでたら無関係の仲間も同類だと思われかねない。
それが世間の目というやつです。
つくしと幸せになるのはいいけど、その前にきちんとケジメをつけようぜ。
ドラマだといい加減な行動した司を類が殴ったこともあったよね。
司が類に土下座したことだってある。
そういう仲間同士でケジメをつけることは、この物語の世界観ではリンクされていないのでしょうか?
会社興すとか、人の上に立つ立場になるとか、ケジメをつけた後で好きにすればいい。
でかい口たたく前にマズやることしよう。
類つくだからといって、この物語では類の好都合な展開ばかりで
少々不自然さが気になってしょうがないです・・・。
犯罪を誰にも知られず、仲間も知ろうとはせず、仲間とこれまでと同じ親睦維持。つくしだけ許せば解決済みってそれは無理があるような気がします。
そもそもつくし本人もレイプはもちろん、不本意な妊娠で苦しんだこともあったはず。
本来ならPTSDになってもおかしくないのに・・・・肉体関係から絆されて愛していまう(たしか桜子に言ってましたよね?)。
これも類にとって好都合でやったもん勝ち展開(汗)。

本来ならダチ解消ものでは?まずケジメつけよう!
それを終えてから幸せになるなり二人の好きにしてくれって感じなのですが。

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