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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第八章 開花②

昏い夜を抜けて386

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 ピキーン。
 膝にのの字を書かれながら、つくしの内心は冷や汗ダラダラで。
 「…誰とでもいいからHしたいってわけじゃないんだよね」
 「……」
 そりゃそうだろう。
 「誰かに愛されるってどんな気持ちなんだろう。身も心も一つにしたいほどの情熱ってどんななの?」
 「……滋さん」
 切なげな声は、昼間のおきゃんで明るい滋とは全く別の屈託を抱えているようで、一見して誰よりも恵まれていて悩みなど何一つ抱えていそうには見えない彼女なりの苦しみを露呈していた。
 …そうだよね。
 彼女は婚約者に婚約を破棄された。
 おそらくそれも彼女自身の非ではなく、まったく関わりのない理由の下に。
 …あんたバカだよ、道明寺。
 彼を思うとき複雑な気持ちに胸に鈍い痛みを感じるが、それとこれとはまったく別の感慨に小さく憤る。
 人と人との出会いは、まさに一期一会。
 かつて総二郎も言っていたが、その言葉は、人と人との出会いの機会は二度とは訪れない希少なものであると心得て、誠意を尽くすべきなのだという意味を持つ。
 何気なく出会って別れる、人生の中で経験するあまたの人との関わりは、もう二度とは巡ってこないたった一度の貴重なものなのだ。
 司とつくしの出会いがそうであるように。
 類との出会いもまた、一見してもう一度巡ってきたチャンスのように思えるけれど、やはり高校生のと時に訪れたあの時の出会いと今とでは全く別のものなのだろう。
 それを思えば、司は滋との出会いを大切にし、ちゃんと向きあうことをしたのだろうか。
 つくしは、出会ってホンの少ししか、まだ滋と時間を共に過ごしてはいない。
 けれど、滋はただ大財閥の令嬢であるという以上に、とても気持ちの良い、一人の男性が心を尽くして愛するに足る美質を持った女性のように思えた。
 それなのに、滋の話や司の態度から、二人がとてもそんな互いを知ることのできる密な時間を過ごしてきたようには思えない。
 たとえ、司にどんな事情があろうとも、いまだにつくしに心を残しているのだとしても、一度は自ら受け入れ婚約した間柄なのだ。
 小さな子供ではない、一人前の男がなした決断でありながら、滋をあえて傷つけた司の愚昧を咎めて、つくしは滋への同情に胸を痛めた。
 …本当に、道明寺への気持ちは過去のものになったんだな。
 そんな自分の女の薄情を苦々しく思いつつも、自分自身の心の奥底を悟る。
 今の彼女は司にかつて恋した女としてでなく、この目の前の新たな女友達のために憤る一人の友人として立っているのだとあらためて感じて。
 「…あたしも同じだからさ」
 「何が?」
 「ここにあたしはいるのに、他人はあたしを見ない」
 つくしが滋の顔を見下ろす。
 「みんなが見ているのはあたし自身なんかじゃない。あたしの後ろにある大河原という家を見て、あたしに阿ってへつらうんだよね…」
 「…滋さん」
 つくしの視線を感じて、滋が伏せていたつくしの膝から顔をあげて小さく微笑む。
 泣き笑いのような顔は、かつでどこかで見たような、年相応でいて、それでもどこか見なくてもよい人の昏い深遠を覗き込んで疲れてしまったような表情。
 「男の人もね、たいがいの人が、あたしの肩書きを目当てて近づいてくるの。顔を見ると、逆玉だってさ、わかっちゃうのが辛いんだよね…」
 「……」
 「だからかな、司とならわかりあえるかも、って。なんていうか、ああいう自分に自信満々で他人なんて気にしちゃいねぇ…的な俺様だけど、なんか目がね、辛そうだなってさ」
 滋の吐く息が熱く、弱々しい。
 泣き顔なんかじゃないのに、彼女がひどく傷ついて弱っているのがつくしにもわかってしまった。
 それは…、果たして、そうした周囲の欲望からなる人間の醜さへの絶望からだったのか。
 いや、おそらく滋は司よりはるかに強く逞しい。
 古来から、女は男たちよりもずっとしぶとかった。
 ガラス細工のように傷つきやすくデリケートな男たちとはまた別種の生き物であるかのように。
 それならば、滋の哀しみと苦痛は司が与えたもの以外の何ものでもないのだろう。
 「…滋さん、道明寺のことが本当に好きなんだね」
 「そう…かな?」
 「……うん」
 「そうだよね、やっぱり、つくしもそう思うよね」
 滋がふうっと大きくため息をつく。
 「あ~あ、そうなんじゃないかなあ、って自分でも思ってたけど、嫌になっちゃうな~。アプローチしようにも、あいつ女嫌いだし…つくし以外にはまったく興味なさそうだし」
 「…そんなことは」
 「いやいや、そんなことあるって」
 言われても、つくしにはなんとも答えようがなく、口ごもるしかない。
 「あ、でも、これは別につくしにあてつけてるわけじゃないから、気にしないで。たださ、婚約も破棄されちゃったし、今のところうちの親やら司のママの猛烈プッシュで、あいつの意向を翻意させろって世田谷の屋敷に送り込まれちゃったけど、正直途方にくれてるんだよね」
 
 本当に困っているのだろう、憂鬱そうだ。
 元々がカラッとした性格の滋のことだ、ただでさえ報われぬ恋に辛い思いを抱えてもいるのだろうに、周囲の無理解で強引なプッシュは苦しいものだろうと察してあまりある。
 「…つくしを見習えれば、少しは司の好みの女にもなれるかなって気持ちもあったけど」
 「ええっ?」
 「……あたしじゃあ、つくしの代わりにはなれないのかなあ」
 苦しそうな滋の声音に、胸が痛んだ。
 誰かが誰かを真似て、誰かの代わりになるなんて、そんな哀しいことがあるだろうか。
 たとえ愛する人に愛してもらえる可能性があるのだとしても、自分ではない誰かを重ねられて代わりにされてしまう不幸を思う。
 「滋さん、滋さんはあたしになんかなれないよ」
 「…つくし?」
 つくしに語りかけているようで、実際のところは独り言のように呟いていた滋が、目を瞬かせ、つくしを見返す。
 「…滋さんは滋さん。あたしはあたし。世界中でたった一人の滋さんが誰かを真似なければ愛されないなんて、そんなの間違ってる」





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