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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第八章 開花②

昏い夜を抜けて383

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 カツン、カツン、カツン。
 まるでメトロノームの刻むリズムのように規則正しい音だったが、集中して書類に没頭している中でのそれはかなり耳障りだ。
 窓際に置いた椅子に陣取った類が、書類片手にもう片方の手に握ったペン先を書類にブツけて呆けている。
 実際には呆けているわけではないかもしれなかったが、少なくても書類に集中できているわけではないのだろう。
 類の心尽くしでの特別待遇の病室。
 しかし、ワーカーホリック気味の三田村にすれば、かなり不便な仕事部屋と変わりはなかったし、ここまできて仕事三昧したいわけではなかった類にしても、見舞いに来るたびに書類の決済を求められれば仕方がないとこなすのはもう当然の状態だった。
 「……専務、それほど気にされるくらいでしたら、あえて仕事をいれずとも牧野さんとお過ごしになればよろしかったのでは?」

 溜息混じりの三田村の呼びかけに、チラッと類が視線を投げかける。
 憮然としていると思うのは、単なる三田村の穿ちすぎだったのか。
 一見して怜悧な表情に変化はなかった。
 「だってさ、大河原だし」
 「……」
 言葉足らずの説明不足は、類の専売特許。
 しかし、三田村も慣れたもの。
 第一、類の一の言葉で十を知るくらいでなければ腹心など勤まりはしない。
 「ホント、牧野って人たらしっていうか、権力者ホイホイっていうか」
 「良いことではないですか。元々、牧野さん自身にも力を持たせてさしあげたかったのでしょう?人脈は力だというのが、専務の自論だったと思いますが」
 「そりゃ、お前の受け売りだろ?」
 三田村自身、それを実践して人の輪を広げ、類の意思を通すための地盤固めの一翼を担っている。
 「専務もそれに一利を感じてらっしゃるから、牧野さんになるべく顔つなぎになる有力者に引き合わせてこられたのでは?」
 「…まあね、でも今となってはあえてそうする必要性なかったかな」
 以前つくし自身にも話したことがあったが、元々つくしには得ようとしても得がたいツテがあった。
 それが類であり、あきらであり、総二郎であり。
 また本人には遠慮もあっただろうが、何より司自体が大きなツテで、つくしが望めばどんな無理難題にも力を貸しただろう。
 そして、その後も得ようとしても得ることが難しい人間たちを次々に味方につけていた。
 美作夫人しかり。
 西門夫人しかり。
 そして、倉敷老人を筆頭に類が引き合わせた人たち。
 気がつけば、つくしは自らの魅力で人を集めていたのだ。
 …牧野の持つ『力』に道明寺楓が気がついていれば、彼女が俺の元に落ちてくることはなかった。
 本気でそう思う。
 あの司でさえ、家の都合に逆らえず、結果、人生で出会うことすら稀有な女を失うことになった。
 最終的には司もまた類と同じ結論に達するだろう。
 そこがあきらや総二郎と異なり、類が恐れる所以だ。
 …結局、究極的には司も牧野以外の全てを捨てることができる。けど、お前の場合は、最後の最後…それこそ瀕死の状態になるまで手の中のものを一つだって諦めたりしないだろう?
 そこが司と類の違い。
 司がそれを意識しているかどうか。
 たぶん理解していないだろうと類は皮肉に思う。
 もし気がつかれていれば、今つくしは彼の手の中にはいなかっただろうから。
 「…牧野さんの持つ力…あえて、力と申しますが、それを専務が利用なされば、どれだけの強みになるかと私などは惜しくも思うのですが」
 「必要ないよ」
 確かにつくしを頼れば、彼の為ならばその人脈に頼ることさえしてくれるだろう。
 自分のためには他人に頼ることができない女だ。
 けれど大切な誰かの為ならば自分を曲げることもできるのがつくしという女で、その捨て身な献身には過去全面降伏を余儀なくされたことは今でも鮮烈に記憶している。
 だが、彼女のその『力』はハイリスク・ハイリターンの一面を持つ。
 つくしを守るための力は、彼女の無欲故の勝利で、それを第三者が不用意に利用しようとすれば、逆に彼女を囲い込んだその人間自身を滅ぼすものとなるに違いない。
 そうでなくても…。
 「しょっぱなから女に頼らないとダメな男なんて情けなさすぎるでしょ?」 
 「……あなたらしくもない。青いことをおっしゃる」 
 「だって、俺まだ若いし、最悪牧野がヒモになっても養ってくれるらしいから、それまではできるだけ頑張るのも悪くないじゃない?」
 お気楽な返事に、慣れた三田村もさすがに脱力する。
 「これ、上から2件目のやつと最後のやつを除いて、ダメだね」
 「ケリー・マッカーソンの提案は中々に有益性のあるもののようでしたが…」
 三田村が首を傾げる。
 あわわと欠伸をしながら立ち上がった類が、ベッドに腰掛ける三田村へと歩み寄って手に持っていた書類を手渡した。
 「ペテンだね。…凝ってはいるけど、採算性は難しいよ。偶然が重なって上手く行ってくれれば、そりゃ大したものだけど、一度歯車が狂うとだだ滑りで、こっちまでその巻き添えを食うほどの大損害を被る可能性大」 
 「……わかりました」
 大きく頷き、三田村は類の指摘した案件を書類の中から抜き出す。
 「他のものは?」
 「3日で検討しなおして再提出させて。東京に戻ってから見るから、FAXでいいよ」
 「かしこまりました」
 「…司もけっこう姑息な手段をとってくるよね」
 「今回の縁談は道明寺家の分家にあたる円城寺家からのお話でしたが、司氏の関与によるものなのでしょうか?」 
 三田村が類を伺う。
 それに確信をもって頷く類は、何を思っているのか。
 「そりゃそうでしょ、大したジャブじゃないけどね。猛獣も鍛えられて、猪突猛進だけの男じゃなくなってるかな。ある意味、うちの個人的な大株主に名前を連ねて、社長も司を無碍にできない。そこへ渡りに船な縁談持ち込まれたら、二つ返事で俺にもってきたくなるものじゃないの?」
 「……引き下がってくださるでしょうか?」
 「下がらないだろうね。以前までならともかく、父にはハッキリと宣言されてしまってる。俺のことが思うようにならないなら、牧野から引き離して、適当に花沢の利益になる名家の女をあてがって縛っておこうだなんて、あの人にしては短略的だよね」
 「……」
 実質的な権力を持たない志保子はともかく、馨が敵に回れば厄介だった。
 それなのに、類は飄々と笑うのだ。
 ただ、面倒臭い、と。
 それでもつくしのためには、その面倒臭ささえ類は厭おうとしない。
 …以前の専務だったら、唯々諾々と社長から押し付けられた縁談を受け入れただろう。
 一人の女が一人の男に及ぼす影響を思う。
 それはどんな大人物であれ、卑小な人間にであれ平等にありふれた事柄で。
 それでも目の前の、人形じみて感情すら希薄だった類が、そのごくありふれた人間模様によって自らを変えた縁の数奇さに三田村は感嘆していた。
 「だいたい彰だってごく一般的にみれば十分優秀なんだけどね。ホント、面倒臭い。あいつで満足してくれれば、互いの利害も一致してていて面倒もないだろうに、誰も彼も欲が深すぎると思わない?呆れるよ」
 それは『類』がその優秀な高階さえも、かすませるものを持っているからだろう。
 能力から言えば、彰と類にそれほどの優劣はない。
 むしろ類より年上で、叩き上げから自分を鍛えてきた高階の方が実績もある。
 だが、それでもなお類の父・馨や高階老人が類に執着する理由。
 それこそ、諸刃の剣であることを彼らは察することができないのだろうかと、類を理解してきた三田村などからすれば不思議だった。
 執着がないからこそどんな重要な場面にさえ冷静で、的確な判断をすることができる。
 人間はそこに自らの欲望を反映させてしまえば、とても客観的でなどいることはできないのだ。
 それは馨や高階老人、彰でさえ同様で。
 彼ら大企業を担い、その発展をのみに心血をそそいできたものたちにしてみれば、類は支配者としての理想形であり、その采配に夢を見すぎている。
 執着がないからこそ、滅びに大しても従順で。 
 類ならばあっさりと花沢物産を潰してしまうこともありえそうで、さすがの三田村も空恐ろしさを感じることがままあった。
 「…いっそ、花沢物産を巻き込むスキャンダルでも巻き起こしてやれば楽に足抜けできると誘惑されないでもないけど、牧野は嫌がるからさ」
 類の唯一の良心。
 彼を魔王ではなく、『人』に留めることのできる存在。
 …いや、この人は魔王にさえなれないだろう。牧野さんがいなくては。
 起きていても眠るように生きてきた類にとって、つくしの存在なくしての欲望はあまりに遠かった。





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なんかね・・・

 「…司もけっこう姑息な手段をとってくるよね」

女をレイプ・媚薬飲ませ・脅迫・監禁。
結婚する気もないのに婚約者と肉体関係もしときながら解消。
そんなゲスみたいなこと散々しといてよく言うわ・・・。
正直、こんな奴が上司なら、そいつの下で働きたくないな。
花沢物産の全社員が知ったらどうなるだろう。
被害者であるつくしが許しても世間は甘くないぞ?
PCの動画がウイルスか何かでネット流出したら面白いなぁ。
騒ぎが大きくなったら警察の尋問でつくしも正直に話さないと
収まりそうもないだろうし。
まあこの類なら案外開き直って認めそうな気もするけど。
いくらつくしが類を愛してても恋人が犯罪を犯したことに変わりない。
でもそうなると、さすがにつくしが可哀想か・・・。
レイプされた行為のあと、2度も「道明寺」となぜ呟いたのか未だに分らないけど・・・・。
司に助け?
純粋な気持ちを汚されたことへの謝罪?

「道明寺」と呟いたとこまで高階に撮影されてたら警察に勘違いされそうで怖いな。
たしか映画ハリソン・フォード「逃亡者」で似たようなことあったね。
被害者の現場の発言が証拠となってしまうケース。
警察も現在恋人である類がレイプ犯だと信じられないだろうし。
元彼(司)が嫉妬で狂ってレイプしたって
勘違いされたら話が違う方向にいってしまうな(汗)。

ていうかこの物語って、F4が昔のような仲良しに戻れないような気がする。
だってさ司じゃなくてもあきらも総二郎もつくしに特別な想いもあって大切にしてきたわけだし。
それをつくしがまさか類にレイプされたなんて知らないだろから。
知ったらどうなると思います?
個人的には、このダーク類をF3全員で殴りとばして欲しいんだけどね。
そこで仲間にも謝罪、反省してから、人の上に立つであろう身分の類が一線を退き、つくしとハッピーになって欲しいわ。
何も知らない周囲のままで、つくしをGETしたことで
平気な顔して過ごす類が許せないな。
幼馴染たちを何だと思ってやがるのだろうか。

「まさか監禁なんてしないよね?」

「お前と一緒にするな」と言った司がめちゃカッコええ!

いつもの人出てきましたね…

上で「いつもの人が〜」とコメントした者です。
考え直してみると、勝手に決めつけた失礼な発言でしたね。すみません。(;_;)
なんか文体的に、以前荒れた原因を作った方かなぁ?と勝手に勘違いしてしまい、、。
お気を悪くされたと思います。
ごめんなさい。
上の方の内容を読んでみると、確かにその通りだなぁと納得してしまいました。
司のことを姑息呼ばわりしてるけど、類くんのが下衆な気が、、(^_^;)
最近の類くんが天使なので初めの頃の悪い類くんを忘れてしまいました(^_^;)笑
私がつくしなら、司がいい男すぎて
ふら〜と揺れてしまうだろうな。

NoTitle

本当に、読む人によって感想って違うものですよね。
私はこのお話の類が大好きです。
逆に司はしつこくて嫌。
とはいえ、キャラクターの好悪に関係なく、面白くて目が離せません!

あっ、もちろん私も類くん大好きですよ(*^o^*)
同じくらい司も大好きですが。
いい男たちに愛されるつくしが羨ましいなぁ〜。

NoTitle

司はしつこくて嫌って方いるけど、嫌がるほどこの物語での登場ってそんなに頻繁にあったっけ?やっとやっとの遅い登場だったと思うけど?
むしろつくしにしつこく執着しては、山崎との平凡な幸せを狂わした。
山崎が悪者扱いで怒り狂ってつくしを責めたが、いかにも自分は悪くないような正義の味方ぽく助けても、そもそもその原因を作ったのは、だれ?
あまりに最近の甘い雰囲気で忘れがちだろうけど・・・風化しちゃいかんね。
子供の悪戯程度の話ではないってことに。

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こんにちわ〜 毎日更新ありがとう
ございます。
どっぷり茶子DAYめっちゃ楽しみですわ〜
どの作品も面白いのですが私が一番好きで
何度も読み直しているのが
愛してるそばにいてです。
続きが気になります。
夫婦になっていても司の不安や嫉妬に
深い愛情を感じてドキドキします。

アルモネは官能と司やつくしの心境の変化が絶妙織り交ぜられており、つかつく
ファンとしてはたまりません。
私がつくしならこう言うかな〜っと等想像
してても更新された小説を読むと結構内容が違っています。しかしその違いが面白い
のです。私には書く才能は無いのですが
二次小説の続きを想像する楽しさが
あるのです。
これからもよろしくお願いします。わ

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