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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第八章 開花①

昏い夜を抜けて361

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 「さっきも言ったとおり、まだ詳しい情報は入ってきていないんだけど、専務自身は命に関わる怪我をしたとか、重傷だとかそういう状態ではないみたいなの」
 「え?そうなの?」
 その一言で、ドッと体を締め付けていた緊張感から解放され、つくしはホッと息をついた。
 「…むしろ、専務を庇った三田村さんの方が大怪我しちゃったみたいで」
 眞子が四国統括の幹部から聞いた話によると、高速道路での玉突き事故だったらしい。
 かなり大きな事故だったのだが、幸い、今日類が乗っていたのは装甲も厚く頑丈なリムジンだった。 
 あまり派手好きではなく、小回りの利く比較的小型の高級車を好む類だったが、飛行機での移動が主だったとはいえ、さすがに車での移動距離も長い出張ということもあり、人員を乗せる関係や乗り心地等を配慮した現地の者たちが手配したらしい。
 事故の報と生命に別状はなかったということだけは確認されていたが、同乗していた運転手やSPも病院に当事者として運ばれてしまっていたため、それ以上の詳細がまだ判明していないのだ。
 …行きたい。
 …類のそばに行きたい。
 無意識のうちの意識。
 明確な思考となる前に、気が付けば、卓上カレンダーを確認していた。
 …ダメだ、今日はまだ木曜日だから。
 日帰りで帰るにしても、いまからだと病院の面会時間に間に合わないだろう。
 さすがに妻でもあるまいに、恋人の立場で会社を休んでなど駆けつけられるはずもない。
 ましてや瀕死の重傷だというのならばともかくとして、眞子の話ではそこまでの状態ではないようだし、ましてや自分が勤める会社の上司だけに他の社員たちや世間の目もある。
 「あれ?つくしちゃん」
 「…はい?」
 眞子に差し示された机の上。
 無造作に置いておいた携帯電話のバイブが着信を告げていた。
 焦って手に取り、目を見開く。
 画面の表示は…。
 …類ッ!?
 着信ボタン表示をタップして急いで耳に当てる。
 「類ッ!?」
 つくしの叫びに、横にいた眞子の方が驚いて、意外そうにジッと見つめられる。
 他人の前…特に会社関係者の前で、つくしが類を呼び捨てにすることなどしなかったし、あえて他人行儀を装ってきたのに、今の彼女にそんな気遣いをする余裕はなかった。
 『………』
 「類?類?」
 反応がない。
 確かに類からの着信なのに…と、焦燥感が胸を焼いて、耳から電話を離してもう一度、着信名を確認する前に、なじんだ声音が苦笑する声に呼びかけられた。
 『…牧野、声大きすぎ』





 頬を染めた看護師に脈をとらせながら、耳に携帯をあて、見るともなしに外を見る。
 もうそろそろ、退社準備をしている頃だろうか。
 本当だったら、今頃そろそろ自分も車から飛行機に乗り換えている頃で、あるいはすでに帰途についていたかもしれない。
 そう思うと、知らず知らず溜息が零れて、このままフテ寝してしまいたい気持ちになった。
 …順調にいっていれば、牧野と夕飯食べることだってできたかもしれないのに。
 心配事もある。
 それもあって、無理をしてでも今日は東京に帰りたかったのにと、返す返すも間の悪さに、類にしては感情のままに不機嫌さをあらわにし、仏頂面で看護師の指示に従いベッドを移動した。
 『類?』
 「そう、もう、俺の声忘れちゃった?朝、別れたばかりなのに、ひどいね」
 『……』
 与太を飛ばし、
 「ちょっと、待ってね」
 電話の向こうのつくしに断り、入ったばかりのベッドから降りる。
 部屋周りを整えている看護助手たちを横目に部屋を出て、ドアを固めていたSPたちに声をかけた。
 「…俺、少し出てるから、三田村が意識取り戻したら、連絡入れて」
 「「承知いたしました」」
 「いいよ、ついてこなくって。すぐそこにいるし」
 言葉の通り、声が届かない程度の範囲に移動して、SPの視線が見守る中、中庭を見下ろす全面窓に寄りかかって、再び電話へと意識を戻す。
 「さっき、すごい耳キーンと来た。その様子だと、もしかしなくても、連絡行っちゃったんだよね?」
 『……』
 つくしは黙り込んでしまって、類に返事を返さない。
 怒っているわけではないだろう。
 その証拠に…。
 『……っ』
 小刻みに震える呼気を飲み込み、小さく長く繰り返された深呼吸の吐息が電話の向こうから聞こえて、類の胸に不思議な感慨を湧き起こす。
 「……もしかして、泣いてる?」
 『泣いて…ない』
 鼻声だったが、嘘ではないようだ。
 考えてみれば、まだ就業時間には多少間がある。
 とすれば、SPとして彼女につけている同僚の眞子が、すぐそばにいるのだろう。 
 意地っ張りなつくしが、人前でそうそう泣きむせぶようなマネをするとも思えない。
 泣く…そうそれは、間違いなく彼を心配してのことであることは、通話が通じた時、意気込んで彼の名を呼んだつくしの焦った声がなくても、容易に察することができた。
 「心配させて、ごめんね」
 『っ!………ぅ、………』 
 「俺はたいして怪我してないから。ちょっとかすり傷程度?」
 『……ホント?』
 抑えた嗚咽が。
 彼女の類へと向ける愛情が。
 心に染み入って、彼の心に小さな灯を灯す。
 女が泣いてるのに、それが嬉しいなんて。
 …俺がサドだから?
 今目の前に彼女がいないことが、ひどく口惜しい。
 「本当だよ。大丈夫、すぐお前のところに帰るよ」
 『……うん』
 「いま、すごいお前に逢いたい」
 『……うん』
 うん、としか言わない彼女がこの上なく愛しくて、顔を見たくて、すぐにでも抱きしめたい。
 そんな自分の熱い情動に、類はホンの少しの戸惑いと、だがけっして不快ではないほんのりとした温もりを感じていた。





 車から見上げる空にはすでに太陽の姿はなく、日が長いこの時期にしてもそろそろ夕闇も深くなりつつある。
 時計を確認すると、気が付けばもう18時半ばを回っている。
 さすがに退社時間ピッタリには人波もそれほど多くなかった花沢物産の玄関前も、ごった返す人で埋め尽くされ、知人が通り過ぎたとしてもそうそう見つけるのは難しそうだった。
 「…まり子お嬢様?」
 「はい」
 「そろそろお邸にお帰りなりませんと」
 「そうです…ね」
 運転手に呼びかけられ、膝の上に置いてあった雑誌を閉じて溜息をつく。
 まり子は昼時につくしと面会をして、一度は帰宅したものの、つい再びここへと戻ってきてしまっていた。
 類に会いたいわけではなかった。
 会えるとも思っていなかった。
 けれど、つくしに会うことを口実に、たとえ何が理由でも類が顔を見せてくれるのではないかとひそかに期待していた自分にも気が付く。
 つい伺ってしまった社内での類の気配。
 彼が出張で出かけていることを聞いて、落胆してしまったことをつくしには知られてしまっただろうか。
 …類さんには、牧野さんがいらっしゃる。
 とても素敵な人だと思う。
 明るくて、親しみやすい彼女の性質はいまだに人見知りがちなまり子にも、魅力的で好意をもつには容易な女性だった。
 …類さんが好きになっても、不思議ではない人。
 類のつくしを見る愛しげな眼差しが、彼女の知らない彼を伺い見せて、胸がチクリと痛んだ。
 「ごめんなさい、もう少しだけ。後、少ししたら、帰りましょうか」
 どのみち、類が帰ってきても、彼がまり子に理由なく会ってくれることなどないだろう。
 そもそも彼女が原因で、彼との婚約が破棄された時に、類との縁は切れてしまったのだ。
 …それなのに、私が頻繁に伺っては迷惑がかかってしまう。
 そう理性では理解しているというのに。
 再び、膝の上の雑誌に手をかけ、窓の外へと視線を向けた。
 「…あれは」
 黒光りする長大なリムジンが、まり子の視線の先を横切って、帰社途中の花沢物産の社員たちのどよめきをよそに、エントランスの真正面に横付けされる。
 お仕着せの制服を着た運転手が即座に車を降りて、後部座席のドアを開け、中から長身の男性が姿を現した。
 クルクルの特徴的な髪形の、遠目にも美しいギリシャ神像のごとき姿形の持ち主。
 まり子もよく見知った人物…。
 「…道明寺、さん」





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