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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第七章 裏切②

昏い夜を抜けて342

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 「あ、美味しい~」
 つい口にしたソテーの美味さに顔を綻ばせ、素直な歓声を上げてしまって顔をハッと上げる。
 正対した司がペリエ片手に、和やかに見つめていて、熱くなってしまいそうな頬を堪えて何食わぬ風を装う。
 …何見てんのよ。
 昔のように気軽に言えればどんなにいいだろうか。
 つい流されてこうして一緒に食事をとることになってしまったが、やはり道明寺家とは二度と関わらないと約定したはずの自分がここにいる違和感を拭えず落ち着かない気持ちを持て余す。
 「昔からお前、うちの飯気に入ってたろ」
 「…そうだね。なまじな一流レストランなんか目じゃないほど、あんたんちのご飯は美味しいもの」
 「だろ?それなら、いつでも食いに来いよ」
 「いや、さすがにそれは…さ」
 司とて彼女が何を躊躇しているかわからないわけではないだろうに、容易に誘ってくる意図がわからず、つくしは口ごもって、黙々と食べ物を口に運ぶ。
 …美味しいは美味しい。
 でもそれでも、やはりその美味しささえも半減してしまいそうな懸念にため息をつき、さきほど遮られてしまった言葉の続きを言おうと口を開いた。
 「…あのさ、さっきも言ったんだけど、あたしあんたに話したいことあるんだけど」
 「おいおい、飯の最中だぜ?そんな辛気臭い顔するような話、今する気かよ、勘弁しろよな」
 「……あのね」
 そんなことを言うが、先程もはぐらかされてしまったのだ。
 さすがに若いながら、経済界にこの人ありきと言われる気鋭の経営者だ。
 口を開こうとするたびに、
 『そういえば、お前、○○氏と交流あるそうだな』
 『…あ、うん。○○の件で○○さんにお引合せしてもらって』
や、
 『えっと、さっきの…』
 『花沢も○○方面に力入れてるんだろ?お前もなんかそっち方面につくつもりなか?』
 『え~、いや、それは…』
などなど、違う話にいつの間にか変えられてしまい、気がつけば遠慮するはずだった昼食の席につくハメに陥っていた。
 ここまでくれば、司が確信犯なことくらいつくしにだってわかる。
 そして、そうまでして話をはぐらかす以上、彼女が彼に何を語ろうとしているのかわかっているのだろうと、つくしにも悟ることができた。
 「…あんた、絶対わざとでしょ?」
 「ふん?なんのことだかわからねぇな」
 「白々しいわね。やっぱりあんた変わった。昔はそんな小細工するような男じゃなかったのに」
 苦々しく告げる苦情は負け惜しみなのだと、つくしは自分でもわかっている。
 はぐらかされてしまう自分が悪いのだ。
 でも、どうして…。
 「…変わったか?」
 「うん、当たり前のことなんだろうけどね。やっぱり、昔のあんたとは違うんだろうって、話してるとすごく感じるよ」
 たぶん、こんなふうにタメ口をきくことすら許されるべきことではないのだろう。
 たとえ高校時代何があったにせよ、、司自身が許しているにせよ、彼と彼女の立場はあまりに異なり、分をわきまえるべきなのだ。
 「…だが、変わってないこともある」
 「え?」
 目を瞬かせるつくしに、柔らかく微笑む司の顔は切なげで。
 そんな風に笑うこともできる男だったということを、改めて思い出して、けっして心躍るものではない痛みを胸の奥に感じて、つくしは皿の料理へと視線を落とす。
 …もうそんな目で見ないで。
 鈍感なつくしでも、その眼差しの意味を感じ取らずにはいられないほどの熱感。
 けれど、けっしてそれに気がつくわけには行かない。
 今の彼女には、そんな資格はない。
 だが…。
 「さっき、滋…さっきの女が言った意味、お前、なにげにスルーしてるけど、本当はわかってんだろ?」
 「……」
 「……」
 「……」
 「……」
 気まずい沈黙が横たわる。
 再会してからずっと、互いの性格に似合わぬ、どこか奥歯に物が絡まったような上滑りな会話の意味を、突如として司に突き詰められ、つくしはゴクリと唾を呑み込んだ。
 「あのね…」
 「…俺の携帯の待受は、お前だぜ」
 「っ!?」
 「俺の気持ちは今でも変わってない。今のお前がどうであろうと、昔の因縁がどうであっても、俺はお前を取り戻しに日本に帰ってきたんだ」
 息を飲み、顔を上げたつくしへと真っ直ぐに据えられた視線。
 いつでも彼はストレートだった。
 彼女に恋した時も、想いを告げた時も、彼女に傷つけられた時も…。
 だから、つくしも誤魔化すことはできない。
 また再び彼を傷つけてしまうことになってしまうのだとしても、嘘をついた過ちを何度となく後悔して、今、この時があるのだから。
 だが…。
 「…そろそろ、時間だな」
 時計を見る司の仕草に、彼のリミットを知る。
 「道明寺」
 「残念だが、ランチはここまでだな」
 「道明寺っ」
 「…俺は社に戻るが、お前、夕食も食ってけよ。使用人連中にも、お前の顔馴染みがいるだろ?タマはいねぇが、旧交ってやつを温めていけ」
 司が手に持ったナフキンで汚れていない口元を拭って、立ち上がる。
 「道明寺っ!聞いてよ」
 「…聞かねぇ。お前の謝罪なんか聞きたくもねぇ」
 「っ!?」
 驚くつくしに、司の顔が複雑な笑みを浮かべる。
 けっして楽しげな笑みではなかった。
 ここ数年、彼が浮かべることが習い性になったシニカルで冷たい笑み。
 けれど、その冷淡な仮面の中に、つくしがよく知る泣きそうな少年の顔を内包して。
 「とにかく、多少遅くなるかもしれねぇが、夕飯時には戻ってくる」
 「…ダメだよ、道明寺」
 「ダメなんかじゃない。お前にはそれくらいの義理があるだろ?謝罪してお前はスッキリ俺から卒業?するつもりかもしれねぇが、俺が謝罪を聞かないうちは、お前は俺から逃げられないはずなんだ」
 





 ずっと勘違いしていた。
 あの日、あの雨の日…。
 司を傷つけて、彼を裏切って、自分はずっとそんな彼への罪悪感を抱えて、赦されなくてもいい、ただ謝りたいのだと思っていた。
 けれど違った。
 本当はやはりただ赦しを請いたかっただけなのだ。
 こんなにも苦しんだのだ。
 こんなにも辛かったのだ。
 そう自分の苦悩を前面に押し出し、傷つけた彼女が、傷つけられた司に自分を赦せ、自分の心を軽んじてくれとせがんで、そんな自分のペシニズムに酔っていただけなのだと、彼の顔を見た瞬間、つくしは気がついた。

 本当に彼に申し訳なかった。
 彼の気持ちを裏切った償いをしたいと思ったのなら、なぜ自分は直接彼に会いに行かなかったのだろう。
 つくしにはそれができたはずだった。
 確かに、彼の連絡先を自分の携帯から削除して、消息をあえて絶ってしまっていた彼女には、只人ではない司やその友人たちに会う手段などほとんどなかったのかもしれない。
 けれど、確かに彼らはソコにいたのだ。 
 経済誌に、風の噂に、…そんな風に彼らの動向を知らされずとも、つくしは彼らの住む屋敷を知り、彼らが経営する会社を知っていた。
 もしかしたら、門前払いをされたかもしれない。
 もうお前など知らないと言われたかもしれない。
 でも、それでも良かったじゃないか、本当に司に償いたいと思っていたのなら、待つのではなく、自ら赴くべきだったのに。
 それなのに卑怯な自分は、そんな真実に…謝罪ではなくあの日の彼女の真実を告げるべきだと気がついてからも、やはり今だ心の中で彼に謝るばかりで…自分から動こうとしなかった。
 …類に会わせてもらうことだって出来た。
 それどころか、総二郎でもあきらでも…もしかしたら桜子でも可能なはずだったのに。
 これまでの彼女の歳月はいったいなんだったのだろう。
 なにものでもなかった。
 少なくても、司にとっては一粒の砂にも値しないモノに違いない。
 そんな自分の謝罪がいったい、彼の心にどれほどの救いを与えられるというのか。
 なのに、まだ彼女は謝罪しようとしてしまったのだ。
 自分の心を安らがせるために。
 そんな彼女の卑劣を司は感じ取ったのだろう。
 司の変わらぬ…傷ついた少年の横顔に改めて自分の罪を思い知る。
 それでも、自分は果たして彼を振り捨てて行くことができるのだろうか。





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~ Comment ~

司登場ですね~!!

最近アネモネばかり見ていてこっちを見ていなかったので遡って一気読みしましたが…司‼登場ですね~!!類つくもいいなぁって思って見てましたけど、司が出てくるとやっぱり元サヤに戻ってくれって思っちゃいますっ!!謝罪を受け入れない司、ストレートすぎる司、カッコイイ\(^o^)/続き楽しみです~(*≧∀≦*)

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