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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第七章 裏切②

昏い夜を抜けて340

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 千客万来。
 手の中の携帯電話を握り締め、そう思う。
 けれど、堀田から電話があった時から、類には予感があった。
 …牧野は、私用でそう簡単に予定を変更して、急に会社を休むような女じゃない。
 履歴から司の名を呼び出す寸前、入ってきた着信。
 「……はい」
 『俺だ。お前んとこのSP、突っ帰らせたぞ』
 悪びれない司の物言いに、苦笑する。
 どうせ文句を言ったところで、糠に釘。
 司は類の言うことなど、耳を貸さないだろう。
 この親友は、自分のやりたいこと、欲しいものを我慢することがない。
 欲しいもの、欲しくないものも、幼い頃からふんだんに与えられ、執着するものがほとんどなかったが、それだけに、一度欲しいと思ったものを諦めることがなかった。
 …そう、物でも女でも。
 かつて、彼の手から奪われ、引きちぎられたクマの縫いぐるみのように。
 『おい、聞いてんのか』
 「そこに、牧野、いるんでしょ?」
 『誰にかけてるのよ?もしかして、類にかけてるのんじゃないの!?』
 司の声に被って、つくしの声が聞こえている。
 『昼飯、付き合わせるから、仕事、午後も休みにさせろ』
 『ちょっとぉッ!?なに、勝手なこと言ってんのよ!!』
 『お前、うっせ――耳元でって、おいっ』
 『貸してッ』
 『寄せっ!』
 『貸しなさい、たらっ!!』
 ガサガサ、ガシャッという雑音と、小競り合うような賑やかな声が入り混じる。
 おそらくつくしが司から携帯電話を奪い取ろうとでもしているのだろう。
 そんな電話の向こうの様子が、類にも容易に想像できた。
 だが、それだけに、二人の気安さが、何年ものブランクを感じさせない親密さが、携帯電話を握る彼の手に力を込めさせる。
 『…こらっ、暴れんなッ』 
 ガガッ、カツッ――、ガサ、ザーッ。
 『あ!バカ、離せッ。仕事、休まないわよ!!うぐっ~~、ん!!』
 『ま、そういうことだから、言っておいたぞ』
 「ハァ―――ッ。何が、そういうことなんだか。牧野は納得してるようじゃないみたいだけど?」
 状況を察して、おおげさに溜息をついてやるが、当然司は鼻を鳴らすだけだ。
 『ん~~!!んん~~ッ!!』
 「……そのまま連れ去って、監禁でもするつもりじゃないよね」
 『まさか、お前じゃあるまいし』
 「……」
 氷を含んだような冷たい声音に、司の心情が含まれている。
 『とりあえず、…牧野が言うから、筋は通した…うげっ、噛み付くなッ』
 『ああッ!切ら……』
 プツッ。ツーツーツー。
 別れの言葉もなく切られた電話の音声に、類はもう一度溜息をついた。
 「……専務」
 いつの間にか、歩み寄っていた三田村が申し訳なさそうに会釈して、背後で待つ取締役たちの元へと促す。
 どんなに他に気になることがあろうと、今、彼にはまだやることがある。
 未来のために―――。
 ふと見た大広間の窓から覗く空が、いつの間にか…暗雲を運んで、まるで類とつくしのまだ見えぬ未来のように、白く煤けた東京の空をジワジワと覆い始めていた。





 「…少しは変わったかと思ってたのに」
 羽交い締められていた腕を邪険に突き飛ばし、機嫌よく笑う司からなるべく身を遠く離す。
 手のひらに噛み付いてやったので、「いてぇ!」なんて言ってるが、楽しそうに笑う顔は無邪気なもので、経済誌などで見かけるここ数年の彼の冷たい顔とは雲泥の差があって、まるで高校時代に戻ったかのような錯覚につくしも戸惑ってしまう。
 「お前も、見た目はずいぶん女らしく変わって綺麗になったと思ったけど、中身はそんなに変わんねぇな」
 「…綺麗って、あんた、さっきはまったく違うこと言ってなかった?」
 思わぬことを言われて赤面しかけるものの、あえて素知らぬ顔でつくしが言い返せば、今度は揶揄で返されず、司に優しく微笑まれて今度こそ赤面を抑えられなかった。
 「うそ、すげぇ綺麗になってるなって、見惚れた」
 「……何言ってんのよ。あんたは西門さんかっつーの」
 「ははは、照れるな、照れるな」
 言い当てられ照れ隠しに憮然と再びそっぽを向くと、いつの間にか見慣れた界隈を車が走っているのに気がつき、つくしは目を瞬かせて窓の外を見回す。
 「え?ここ…」
 「美味いもの食わしてやるって言っただろ?」
 そこは高校時代の一時期、何度となく行き来した場所。
 背の高い樹木と鉄柵の連なる大豪邸への道行き。
 「……あ」
 途中、目の前の男の存在と相余って嫌な思い出のある一角を通り過ぎる。
 …あの日はひどい雨だった。
 ふと振り向いた視線の先、司も同じくその場所を見つめていた。
 彼女の視線に気がついて、司に見返されそうになって、とっさに視線を反らす。
 そうこうしているうちに車は、そこら一帯でももっとも広大な敷地へと入り込み、まもなくまだ記憶にもハッキリと残っている荘厳な玄関先へと車は到着した。
 
 到着と同時に、司が先に車を降り、差し出された手に躊躇していると、逆に手を掴まれ外へと引き出される。
 壮麗で威風堂々としたコロニアル調の大邸宅…道明寺邸。
 懐かしいと言うには悲喜交々の思い出が蘇って、感無量に立ち尽くす彼女の手を握ったまま司が歩き出す。
 「「「「「お帰りなさいませ」」」」」
 エントランスの両側に陣取った大勢の使用人たちが、司へと向かって一斉に頭を下げる。
 頷きもせず轟然と顔を上げ、その真ん中を歩く司に半ば引きずられながら、視線を巡らす彼女の目に、懐かしいいくつかの顔が涙ぐんで会釈してくる。
 かつてはその筆頭に、優しくも厳しい老婆の顔があった。
 タマがいないことがひどく寂しく、切ない。
 けれど…。
 「司ッ!!!」
 明るく溌剌とした若い女の声が邸の奥から上がって、司へと駆け寄り飛びつく。





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