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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第七章 裏切②

昏い夜を抜けて338

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 …まさか。
 「こんな公衆の面前で、嫌がる女に痴漢行為か?」
 …まさか。
 「ち、違いますよ!私はただっ」
 「どうみても相手は迷惑してっだろ。見たところ、フリーランスの記者か?余計な騒ぎを起こして、うちのホテルや関係各所に出入り禁止にされたくなかったらさっさと引き上げんだな」
 …そんな、まさか。
 もごもごと謝罪らしきものをつくしへと口にした記者が、彼女の掴んでいた腕を離して立ち去ってゆく。
 あれほどつくしが訴えても応じられなかったことが、男の威圧一つで叶えられた。
 だが、今はそんな安堵よりも、間近に迫った突然の再会につくしは戸惑うばかり。
 無駄なことだと思いつつ、顔を見られないように顔を背けてしまったのは無意識の行動だった。
 「…おい」
 ビクッ。
 「たく、助けてもらっておいて、だんまりかよ」
 ため息混じりの低い声音が呆れている。
 記憶にある彼の声はこんな声だっただろうか。
 「おいっ、こっち向けつーてんだろうよ、牧野」
 呼びかけられた名前に驚いて、ハッと振り仰げば、25cm上にある美貌に目を見開く。
 きっと、そこにあるのは最低の女だと蔑む厭わしげな眼差しか、あるいはもう完全に忘れてしまったと無関心に通り過ぎられるばかりだと思っていたのに、…あの日…守ってやると言ってくれたそのままに、優しい眼差しで見下ろす司の顔が、柔らかく綻んでいた。
 「なに、惚けてんだ。年取っても相変わらず、色気のイの字もない女だな。俺の顔に見惚れて言葉もねぇのかよ」
 うっかり感極まってしまっていた気持ちが、司の悪態で180度振り戻って、無造作に顎にかけられた大きな手を邪険に叩き落とす。
 「女の顔に勝手に触れんな。つーか…そっちこそ、全然っ、変わってないわね。自惚れてんじゃないわよっ!」
 「ぶっ」





 ゲラゲラ笑っている男のこの緊張感のなさはなんなのだろうか。
 あんな別れ方をして、もし再会することがあったとしても、こんなふうな再会を想像しはしなかった。
 見上げるような長身。
 抜群のスタイル。
 秀麗な美貌。
 クルクルの髪。
 …何一つ変わってない。
 そう思う端から、真逆な感慨に胸を突かれる。
 あの頃よりずっとガッチリとした体躯。
 元から贅肉なんてなかったけど、ますます精悍になった。
 少年期の丸みが完全になくなって、シャープになった横顔。
 ただやたらに飢えたようで威圧感ばかりだった雰囲気が、確かな自信と経験に裏付けられた人を従わせずにはいられない貫禄への変貌を遂げて、やはり歳月の流れをつくしに強烈に感じさせずにはいられなかった。
 「ははは、やっぱ、お前はおもしれぇ女だわ。この俺にそんな口を効く奴なんて他にはいないぜ」
 「……」
 傲慢な物言いはそのままだが、実際そのとおりなのだろう。
 自分をジッと見つめるばかりで、何も言わない…言えないつくしへと再び視線を戻し、司が柔らかい笑みを浮かべて、改めて挨拶を寄越す。
 「…久しぶりだな」
 「うん、本当だね」
 「元気だったか?」
 「……まあね。あんたは?」 
 「まあ、ボチボチな」
 「そう」
 「……」
 「……」
 …会いたい。
 そう思っていたのに、いざ会ってしまえば、何を言えばいいのかわからなかった。
 …謝りたい。
 その言葉さえ、こうして穏やかに微笑みかけられ、何食わぬふうに声をかけられてしまって、どう切り出せばいいのかさえわからずつくしは困惑する。
 「あの…」
 「お前…」
 言葉が被って、互いに口を噤む。
 だが、いつまでもこうして顔を見合わせ、遠慮しあっていても仕方がないだろうと、つくしが意をけっして口を開きかけた。
 だが…。
 「…副社長」
 エントランスの自動ドアから出てきた、秘書だろうスーツ姿の男性が駆け寄ってくる。
 よくよく見てみれば、司から少し離れたところには何人かの黒服の、昔何度か見たいかにもSP(※原作準拠で、ここではボディガードの意)だろう男たちが遠巻きに二人の様子を見守っていた。
 「お待たせいたしました。13時半から予定していた、冲野ファイナンス担当との打ち合わせなのですが、東証商事との案件の兼ね合いで、15時に繰り下げて合同会議上にてすりあわせた後に、改めて機会を持つことになりました」
 「…15時。それまでは?」
 「はい、メルウィックからもアポの申し入れもありますし、明日明後日には博多メイプルでの南緯地区会議もございますから、内勤にて必要決済を行っていただきたくもあります」
 少し考え込む司の横で、つくしは居心地の悪さを感じていた。
 つい昔の感覚で話し込んでしまったが、忙しい男を引き止めてしまっている非常識をヒシヒシと感じて、どこで口を挟んで辞去を告げるべきか機会に迷う。
 …さすがに、助けてもらっておいてお礼のひとつも言わずに、黙って立ち去るわけにはいかないよね。
 「牧野」
 「…え?」
 「お前、昼飯食ったか?」
 「……あ~」
 すっかり忘れていた。
 気がつけば、覗き込んだ腕時計の針はすでに12時半を回っていた。
 「うげっ、ご飯食べる時間なくなっちゃった!ご、ごめん、あたし午後から仕事だから、ここで失礼するねっ。あの、さっきは…」
 「そうか、ちょうどいい」
 言葉の途中、つくしを勝手に遮って、秘書へと向き直った司が顎をしゃくる。
 「車回せ。メルウィックとの会談は九州から帰ってから予定を組め。必要書類の決済は、移動時間に寸暇を惜しんでやってやるよ」
 「…かしこまりました」
 「つーことで」
 なにが、『つーこと』なのか、いきなりさっきの記者よろしく、司に手首を掴まれつくしがギョッとする。
 …なに、なに、なに!?
 「昼飯付き合え。…メイプルは、アレか。美味いもん食わしてやる。少しは女らしくなってるのかと期待してたのに、昔と大して変わんねぇ鶏がらじゃねぇかよ」
 ニッコリと微笑まれ、その美麗さにうっかり見惚れて、その失礼な揶揄につくしのこめかみに青筋が浮かんだ。
 ピシッ。





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