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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第七章 裏切②

昏い夜を抜けて337

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 横合いからかけられた男の声に、つくしが振り返る。
 脇には分厚いA4サイズの茶封筒、肩から大きな一眼レフのカメラを下げたその男は、いかにもマスコミ関係者といった風体で、顔には親しげな愛想笑いを浮かべていたが、まったく見覚えがない人物だった。
 「…あの?」
 戸惑うつくしに構わず間近まで歩み寄り、人波を避けて円柱の影へと誘われる。
 不審に思いもしたが、相手の確信に満ちた声音に、つい従ってしまった。
 「いやぁ、こんなところでお会いできるとは、牧野さん」
 「…どちらかで、お会いしたことがあったでしょうか?」
 懐を探って差し出された名刺。
 「フリーライター・沼田正嗣、さん」
 やはり聞き覚えもない名前だった。
 つくしの顔に次第に警戒が浮かんでくるにあたって、苦笑した男が脇に挟んだ茶封筒から一冊の雑誌を取り出し、つくしへと差し出す。
 怪訝な顔のつくしがその雑誌を受け取り、パラパラとめくる。
 「世紀の政略結婚報道の影に泣いた二つのラブ・ストーリー」
 男の口にしたタイトルに、つくしがハッと顔を上げる。
 ちょうど開いたページは、類の前の婚約者である美也子と類とが対比して掲載されたスキャンダル記事―――。
 「…私が書いたんですよ。なかなかの秀作だったでしょ?」





 「…以上、花沢物産株主総会を閉会いたします」
 司会進行の声に、まばらな拍手が上がり、早々それぞれの心情のまま、人々が散会していった。
 意気揚々とした者はにこやかに、意気消沈した者、怒り心頭な者はしめやかにあるいは荒々しく。
 さすがに、花沢物産次期後継者と見なされていた取締役専務の左遷人事には、誰の顔の上にも驚愕や動揺は隠せなかったが、概ね高階の副社長就任は好感をもって迎えられた。
 そこには、おそらく社長である馨や当の高階、彼によって陣営に引き入れられた取締役たちの根回しがある。
 「…けっこう短期間で、頑張ったね」
 「まあな。安穏と虎の威を借りてるだけじゃ、副社長の地位も、早晩砂上の楼閣に早変わりするだろ?」
 実際、この数ヶ月、高階は花沢物産が難航させていた数々の大型物件の契約を締結させ、その実力を社内外に周知させていた。
 そこには実家の高階家の権勢ばかりではなく、縁組を目論んでいるバルビエ家の威光があることは間違いない。
 「しかし…道明寺司、とは」
 苦笑する高階の内心など、その隣で鋭い視線を投げかけてくる父親とほぼ同様なのだろう。
 「ホント、驚いたよね」
 まったく驚いている風ではない類の相槌に、さすがの高階の視線が一瞬、険を帯びる。
 「…本当に?」
 「なにが?」
 「お前が彼を取り込んだんじゃないのか?」
 いわずもがな、司と類は幼馴染みで、『F4』の名で並び称される親友同士だ。
 T&Tコーポレーションの代表取締役会長として登場した彼の出現には、会場が一時期騒然とした。
 よもや彼がフィクサーとして暗躍していたなど、誰が思い描いただろうか。
 類との濃いパイプを思えばありえざることではなかったが、道明寺財閥の人間は私情では動かないのが定石だったのに。
 「それってまさか、あいつが俺への友情からうちの株を裏から買い漁ってたって、そう言いたいわけ?」
 「…違うのか?」
 「ぷっ、それこそまさかだよ。あの司だよ?道明寺の連中はそういう私情で動いたりする連中じゃないのは、お前も知ってるだろ?」
 …もっとも、ある一人に限定される私情については、例外にされるだろうけれど。
 ある程度の司とつくしの経緯を知っている高階といえど、予想だにしないだろう。
 そして、父も…。
 女と会社とを天秤にかけて、女を取ることなど思いもよらない人間にはわからない。
 「…だが、あの男がうちの第8位の大株主となったとなると事情が異なってくる」
 「……」
 「……」
 父親の軋るような呻き声に、類と高階がそれぞれ異なる感情を胸に視線を向ける。
 「T&Tコーポレーションはどうやら司君個人の会社のようだが、道明寺財閥関連企業が我社に占める株式の割合と合わせれば第5位の大株主に匹敵する」
 そして、一見高階…彰に肩入れしているかのように見える彼の実家の高階翁。
 まだまだ類から離反することなく彼に重きを置く株主たちも少なくなく、類個人の人気も考えれば、浮動票をもつ無派閥層、不確定層も侮れない。
 それらを合わせれば馨に逼迫する、あるいは凌ぐ勢力となるだろう。
 そして、それが類の為…畢竟、彰を追い落とし類を返り咲かせる野心の為に動くのならば問題ない。
 けれど、馨にはとても類を信じることなどできなかった。
 そして、そんな父親の思惑などとっくに熟知している彰もまた父親と同じ心境で、彼ら二人が恐れているのは、類の野心などではなく―――――。
 「…道明寺を引き入れて、この花沢をどうするつもりなのだ、類」
 「類…」
 父と兄…二人の凝視を受けた類の視線の先、人々の注目を泰然と無視した司が、登場した時は裏腹に類の方へも視線を返すことなく、会場を去ってゆく。
 「どうするつもり、ね。どちらにせよ、これはあなたたちにとっても…俺にとっても…生きるか死ぬかの命運をかけた戦いと言ったところなんでしょうね」





 「しかし、牧野さん、あなたには驚かされるな。私はね…」
 無意識に唇を噛み締めたつくしが、沼田へと雑誌を返却する。
 「…すいません、私、この後仕事があるんで」
 まだまだ、話の続きがありそうな男の言葉をあえて遮り、軽く会釈して踵を返す。
 男の目的などなんだか知らないが、見せられた雑誌からしてもロクな用向きではないことは明らかだった。
 「ちょっと、待ってくださいよっ!」
 腕を掴まれ、ギョッとする。
 「あなた、昔、道明寺HD・副社長の道明寺司さんとも関係があったでしょ?」
 「なんのことですか?離してください」
 「私はね、あなたが高校生の時、道明寺さんと天草代議士のご長男があなたを巡って乱闘騒ぎを起こしたおりにも、取材に伺ったことがあるんですよ」
 記憶の遥か奥底、懐かしすぎるくらいに懐かしい過去。
 そして、ますます男の言うがままに、その言葉の続きを聞く気になれない。
 「…もう忘れました。しつこくしないでくださいっ」
 「そんな邪険にしなくてもいいじゃないですか?あなたがどう思ってらっしゃるか知りませんがね。大企業の御曹司なんていうものは、我々一般庶民にははかり知れない倫理観を持ってるものなんですよ?あなただって、昔を思い起こせば、心当たりがあるはずだ」
「…どういう意味ですか?」
「現実的になりましょうよ。なるほど、今はあなたに良い事を言って甘い夢を見せてくれているかもしれません。しかしね、自分の都合でいとも容易く、そんなあなたを裏切るに決まってます」
 ねっとりとした毒を含んだ男の言葉に、つくしの鼻の頭にシワが寄る。
 …あんたに何がわかるって言うのよ。
 類のことばかりか、この男は司のことも揶揄しているのだ。
 類の孤独も、司の哀しみも、彼女が流した涙も知らない第三者に勝手なことを言われたくない。
 「…離さない気なら、警察を呼ぶわよ」
 低い声の恫喝に、小娘と侮っていた男が一瞬真顔になり、鼻白む。
 「わからない人だな。私は、あなたにとっても悪くない提案をしようとしてるのに」
 「興味ない」
 「暴露本」
 「……」
 目を見開き固まるつくしに何を思ったのか、男が意気込んでくる。
 「あなたは一躍時の人になる。そして、それに見合う収益を得ることも。花沢さんの前の婚約者、彼女の顛末をあなたはご存知なんじゃないですか?私が書いておいてなんですが、本当に二つのラブストーリーなんか、あったのかどうか?どうして、次に悲劇に見舞われるのがあなたじゃないと信じられるんです?」
 「…離して」
 「今のあなたが道明寺司と一緒にいないのだって、結局飽きられたからなんでしょ?今度はその友人に?どこまで都合のイイ女に成り下がるつもりなんです?どうせ、遊ばれたんなら…」
 「離せッ!!」
 ついにつくしの我慢が頂点に達する。
 …離さないつもりなら、一発殴って目にもの見せてやる。
 自分の頭に血が上っているのを自覚しつつ、延々と類や司、自分を侮辱する輩に天誅を下す覚悟を決める。
 …何書かれたってかまうものか。
 『白昼堂々、噂のシンデレラ、雑誌記者をリンチ!』
 三文見出しが思い浮かぶ。
 「離さないと…」
 「………何してんだ。てめぇ、その手を離せ」





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