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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第七章 裏切②

昏い夜を抜けて331

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 「あふぅ…」
 時間は深夜0時。
 早寝早起きが基本のつくしなので、この時間ではさすがに眠気が辛い。
 けれど今日は潮風にあたったし、デートのラストに入ったカフェでマナーの悪い喫煙客のせいで、かなり髪や服にタバコの臭いが移ってしまい、どうしてもシャワーは浴びたかった。
 眠気と不快感を天秤に迷って迷って、結局ため息一つ、シャワーを浴びることにする。
 「…シャワーだけ、ちゃちゃっと浴びちゃおう」
 部屋隅のバスケットで眠るベベが、チラッとつくしを見て、彼女のつぶやきに同意した気がした。
 …帰ってきた時、臭いかぎまくってたものね。
 とりあえずスーツを脱いで、ハンガーにかけようとして、ポケットから携帯電話が滑り落ちた。
 「…あ」
 ガツンといい音がした。
 「やだ、壊れてない?!」
 薄手のスマートフォンは持ち運びには軽いが、高性能なだけに衝撃に弱い。
 とりあえずタッチパネルに触れて、故障していないかを確認する。
 見たところなんともないようで安堵したが、留守電とメールが何件か入っているのに気がつき、着信記録を確認した。
 「西門さん」
 総二郎から2度、電話が入っていた。
 退社時間に一度、二度目はちょうど東京タワーの展望台にいた頃だろうか。
 総二郎に連れられて土壇場で逃げ出した会合のとき以来、彼とは会っていない。
 お茶の手習いを辞めてしまったこともあるし、つくし的には、騙し討ちのように皆に引き合わせて、彼女の退路を断とうとした総二郎に何を言えばいいのかわからなかったからでもあった。
 怒っていたわけではない。
 ただ、彼の行動に対する答えが、以前のつくしにはまだなかっただけなのだ。
 それでも総二郎は、まるで何事もなかったかのように、連絡をしてきた。
 案の定、次の食事のお誘いだった
 類のことがなくても、もう彼女の中で総二郎への返事は決まっていた。
 彼の申し出に揺れたのも事実。
 けれど、もう逃げる自分を赦すことはできないのは明らかなことだ。
 電話で…。
 話せることではない。
 総二郎は親友なのだ。
 求婚者である前に、彼は仲間で、大切な友人だった。
 だから、わかってもらえるだろうとわかっていた。
 だが、彼を退ける痛みを怖れ、それでもつくしは前へと進むことを選ぶ。
 総二郎からのメールには今日会えなかったら、明日は予定が立て込んでいて、明後日の午後から京都に行くので次に会えるのがずいぶん先であることが記されていた。
 帰京は二週間後。
 決めたのなら、つくしは先延ばしにはしたくなかった。
 …明後日、am.。
 総二郎も京都への出発の準備で忙しいことだろう。
 けれど、それだけに他の用事が立て込んでいるということもあるまい。
 その日は、花沢物産の株主総会の日。
 おそらく高階の副社長就任、類の東南アジア総括への転勤が発表されるだろう。
 それらに対する対策や準備は第一秘書の三田村以下、腹心の部下たちが行っている。
 本来ならつくしも参加することになったのだろうけれど、現在はフランス行きが内定している為、秘書というより雑用係がメインになっていて、引き継ぎ以外の重要案件からは外されていた。
 つくし自身も、もはやのんびりはしていられない。
 株主総会が終われば、類が東南アジアへ旅立つ準備を始める必要があるのと同様、つくしもまた9月からの新生活に向けて準備しなければならないのだ。
 もし、本当にフランスに行くとするのなら…だったけれど。
 …ううん、行かないにしても、もうこのままじゃいられない。
 のるかそるか。
 フランスに行くか、花沢物産を辞めるか。
 両親の借金のこともある。
 けれど、今はただ心のままにすべてを決めたい。
 明後日、類以下、主だった関係幹部たちは株主総会の開かれる会場に出払っていて、社内でつくしがどうしてもいなければならないような事態はないだろうし、それならば半日くらい社内にいなくても問題はないだろう。
 本来第二秘書の立場であるつくしの業務を引き継ぐ眞子も、留守番に残ることになっている。
 明後日の予定を打診するメールを総二郎へと送信して、浴室へと向かう。
 RRRRRRRRRRRR、RRRRRRRRRRRR、RRRRRRRRRRRR
 「え?」
 てっきり次の日あたりに返事が来ると思っていたのに、即座に電話の着信が入り、慌てて戻って画面をタップする。
 『…牧野か?』
 「あ、うん、ごめん、こんな夜中に」
 深夜とはいえ、まだそれほど凄い時間というわけでもない。
 三年寝太郎の類や、模範的優等生生活を地でゆくつくしでもあるまいに、総二郎が起きていても不思議はない。
 けれど、今までこんな夜分遅くに、総二郎が非常識な電話を寄越してくることはなかった。
 …何か感じてる?
 穿ちすぎだろうとは思う。
 『いや、俺こそ、悪い。けど、お前、今日どうしたんだよ?メールの他にも2度も電話したんだぜ?』
 「…そうみたいだね、ごめん。社内でバイブにしたまま、うっかり忘れて気がつかなかった」
 本当のことではあったが、どこか疚しいのは、たとえバイブにしていなくても気がつかなかった可能性の方が高く、その理由が類と一緒だったからだという自覚がある。
 『…たく、相変わらず、お前は。何のための携帯電話なんだつーの』
 毎度仲間たち皆に言われるセリフだ。
 その頻度が一番多いのが桜子で、その次は現在、総二郎だった。
 類の場合、毎日顔を合わせているので、電話で連絡を取り合うことがほとんどない。
 たぶんそうでなくても物臭な男だ。
 こまめに電話連絡してきたり、メールしたりすることはないだろう。
 …あ、でも、秘書になる前はけっこう連絡してきたかも。
 『聞いてるか?』
 「あ、ごめん。ちょっとぼうっとしてた」
 『……お子チャマは寝てる時間だもんな。どうせ、目を開けたまま寝てたんだろう?』
 総二郎の失礼な物言いに、つくしがヒクヒクと顔を引きつらせる。
 「いったい、どういう器用な人なのよ、あたし。て、いうか、もう真夜中なんだから、さっさと用件言ってよ!」
 『明後日、お前、仕事休みじゃねぇだろ?出てこれんのか?』
 「あ…うん。半休とるし、大丈夫」
 『ふ~ん、クソ真面目なお前が、半休とってまで、たかだか2週間東京にいないだけの俺に会いたいって?』
 「……」
 たぶん、見透かされているに違いない。
 もし聞かれたら、正直に言うつもりだった。
 できることなら電話等ではなく、直接会って、真剣に向き合いたかった。
 そして…。 
 『まあ、いいや。普段そっけねぇお前からのお誘いだし、午前中は俺も出かける準備だけでそれなりに時間あるからな』
 「うん、急にごめんね」
 『まったくだぜ。俺から連絡した時は、ガン無視。誘ってきたかと思えば、唐突だし?』
 「ガン無視って!わざとじゃないわよっ」
 『わかってっよ。じゃ、明後日11時に、メイプルのカフェな。ちょっと時間早いけど、昼飯食おうぜ』
 …メイプル。
 都内有数のイベントホールを有する超高級ホテル。
 つくしにとって因縁深く、さまざまな思い出を有する場所だった。
 そこで明後日、花沢物産の株主総会が行われる。
 株主総会に顔を出せるわけではなかったが、多少なり類の進退を伺い知ることができるだろうか?
 『少しは色気のある格好してこいよ?』
 「なんで、そんな格好しないといけないのよっ!」
 『それはお前、あれだ。上には部屋もあるし、突然お前がその気になっても、お前の色気ない格好見たら、俺の方が萎えるかも知れないからだろ?』
 笑い含む声が冗談だとわかっている。
 「ふざけんなっ!エロ門ッ。誰がその気になるのよっ」
 『はは、じゃあな、つくしちゃん』
 つー、つー、と切れた電話の音に、奮然と携帯を置く。
 けれど、すぐに苦笑が浮かんできて、ほうっと息を吐いた。
 いつもと同じ会話。
 いつもと同じ空気。
 つくしの緊張を総二郎は感じ取っていただろうか。
 そして、もしかして総二郎も緊張していたのかもしれなかった。
 明後日…メイプル。
 せめて、明るい格好をしていこう。
 午後からは出勤するつもりだったから、スーツは外せないがそれでもダークスーツは避けたい。
 「ありがとう、西門さん」
 彼の気遣いに…。
 そして、彼の友情に。
 今度こそ、つくしは浴室へと向かった。





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