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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第七章 裏切②

昏い夜を抜けて330

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 タクシーが停車すると、類がわざわざ反対側から先に出て、つくしに手を貸してくれようとするので、それを待たずにさっさと先に出る。
 レディファーストの精神はわかるが、毎回そうしてくれなければ気がすまないお嬢様でもあるまいし、かえって面倒臭い。
 そのまま車を見送ろうと思っていたのに、類が出てきてしまっていて、つくしは戸惑い、正直困惑していた。
 「…えっと、その、今日も御馳走様でした」
 深々と頭を下げ、結局は夕食をご馳走になったことの礼を言う。
 さっさと家に帰らせて、日頃の疲労回復に努めてもらいたかったのだが、我が儘王子様のおねだり攻撃にはあっさり陥落させられ、気がつけばしっかり海辺の公園のお散歩も楽しんでの帰宅となり、もうまもなく午前様という時間帯となってしまっていた。
 …明日も仕事だっていうのに。
 ため息をつく。
 けれど、心配している当の相手は、日頃の激務にも関わらず案外ケロッとしている。
 眠り病なのではと疑わしい眠たがりも、もしやポーズなのではないかというくらいに、今日の類はスッキリしていて、このあとの展開をどうすればいいのかと実のところ、つくしはかなり真剣に悩んでいた。
 「…別に悩むこともないでしょ」
 「へ?」
 「俺、今日けっこう移動多かったから、昼間に仮眠してて、まだそんなに眠くないだけ」
 やはり、多少は眠かったらしい。
 ではなくって…。
 「えっと、…もしかして、あたし」
 タクシーのドアに顎を乗せ、ニッコリ笑う類は、いつもの天使の微笑みではなく、どことなく意味深で性悪さを垣間見せていた。
 言わずもがななつくしの問いには答えず、
 「夜明けのコーヒー飲ませて、なんて言わないし」
 「バッ、な、なんてこと言うのよっ」
 ギョッと飛び上がって運転席の方を伺う彼女のキョどりように、類はぷっと噴き出し、ケラケラ笑いながら、さっさとマンションに入るようにとつくしを促した。
 「…もう遅いし、お前も明日仕事なんだから、さっさとマンションに入りな」 
 「あ、うん」
 迷いつつ、足を踏み出しても、自分を見送っている類を振り返らずにはいられないのは、まだどこかこのまま別れてしまうのは名残惜しく感じているからなのだろうか。
 …どうせ、明日また会社で顔を合わせるのに。
 この甘い時間を引き伸ばしたい自分がいる。
 「え、えっとね」
 エントランスホールの玄関ドアをくぐる寸前。
 開いた自動ドアの手前、類を振り返る。
 透明なビー玉みたいな彼の目が彼女を見つめ、首を傾げているのに迷う。
 けれど、意を決した彼女の顔は、きっと真っ赤だろうと自分でも自覚していた。
 「……その、ね」
 「うん?」
 「その…夜明けのコーヒーは、…えっと、なんなんだけど」
 我ながら何を言いたいのかわからない。
 これでは、きっと類にも通じないだろうと思いつつ、半ば声をかけたことを後悔しているのに、後半分はきっと彼女が望んでいることなのだ。
 「お、お茶、飲んでいかない?そ、その…、もし、よかったらだけど」
 真っ直ぐに類の顔が見られない。
 どう思われただろうか。
 そればかりが頭の中をグルグルと回る。
 けれど…。
 「ありがと。でも、やっぱり今日はやめておく。帰るよ」
 「そ、そっか。明日も仕事だもんね」
 類が言った言葉を繰り返し、ついシュンとしてしまった自分を悟られないようにと、空々しく相槌を打つ。
 空元気を出してぎこちなく笑うつくしへと、類がうっとりするような微笑みをくれる。
 「今、部屋に上がったら、俺、きっと我慢できないと思うからさ」
 「えっ!?」 
 「それとも、夜明けのコーヒー、飲ませてくれるの?」
 カッと頭に血が上ったのが先だったと思う。
 けれど、気がついたらブンブンと首を振っていた。
 「そ、そ、そそそ、それはダメ!その…」
 好きだと告白して、好きだと言われたのにと、自分でも思う。
 イイ年をした男女で、今まで何度となく抱き合ってきたというのに、いまさら躊躇している理由を類が理解してくれるだろうかと心配する彼女に、類が優しく頷く。
 「わかってるよ。お前のケジメだろ?」 
 「…類」
 「お前は呆れるくらいに頑固で、融通が効かない女だって、俺もわかってるよ」
 「……うん」
 「そんな牧野が好きだからさ」
 しかたなさそうに笑う類の顔が、すごく綺麗だと見惚れるつくしに、再び帰るようにと類が促す。
 「ほら、帰りな。また明日ね、おやすみ」
 「…うん、おやすみなさい。また明日」
 また明日…と未来を約束するその言葉が嬉しいと、つくしがハニカミ、一度は閉じた玄関の自動ドアをくぐる。
 つくしを見送り、彼女の姿が消えると同時に、タクシーへと再び類は戻って、シートへと腰を下ろした。
 「…また、明日、か」
 今まで約束したい明日などあったことがあっただろうか。
 つくしと出会って、静と親友たち以外の人間を初めて意識し、今まで自分が知ることがなかった『人間』を知った。
 誰かのためだけに涙を流して、土下座することさえやってのけた少女。
 けっして自分の為には膝を折ることなく、多勢に無勢の敵だらけの中、絶対的権力を持っていた司にさえ逆らい立ち向かっていた女が彼の為にはプライドさえも投げ打ったのだ。
 彼に幻想を抱いて、淡い恋心を抱いていた女が、彼の為に彼を罵倒し、他の女を追い掛けろと奮起させた。
 初めて感じた感情。
 怖れ…感嘆。
 そして、不可思議な感慨。
 確かにあの時、感じたものは他の人間には感じたことのない『何か』だったというのに、自分はそれを無視して、見果てぬ夢を追い続け、勝手に傷つき拗けてしまった。
 『4人でいつもちんたらしているから、そんなこともわからないのよ』
 あの時言われた言葉をどうして忘れていられたのだろうかと、思う。
 それでも、再会したつくしは変わってしまっていた。
 彼へと向けた一途なまでの憧憬はその目から失われ、別の男を想って傷つき、疲れ果てていたのだ。
 だから、腹立たしかったのかもしれない。
 だから、赦せなかったのかもしれない。
 類への恋心を忘れて、彼へ向けていた眼差しを司へと向けてしまった彼女に理不尽な怒りをブツけて…。
 車の窓から見る外の景色は、未だ類にとって、壁の内側から見る景色と変わらず、いつもくすんで薄暗く見える。
 それは昼だとか夜だとか関係はなく、誰を見ても炉端の静止物とそう変わりはなかった。
 けれど、そこに彼女が…つくしが立っただけで、パッと世界が変わる。
 お人好しで、善良で、鈍感で、けれど誰よりも温かい女。
 そんな彼女がそこにいるだけで、まるで太陽が出現したかのように、彼の周囲を照らし、世界が様々な光や色に満ち溢れていることを教えてくれた。
 静が外には広い世界があって、そこには彼には理解できなくても、いろいろなモノや人がいて、光に満ち溢れていることを教えてくれたのなら、つくしはその光や色を実感させてくれた。
 人と物は違うということ。
 人の感情は時には面倒で、けれどひどく熱くて温かくて、優しく眩しいものであること。
 静の目を通して世界を知りたがった彼に、自分の手や目、耳、五感のすべてで喜びを感じることをつくしが教えてくれたように思う。
 空が青くて美しいと喜び。
 雨が降ったと言ってはシュンとして。
 風が気持ちいい。
 食べ物が美味しい。
 触れる手と手の温もりが嬉しい。
 愛する誰かと一緒にいられることが楽しいと、そんな当たり前のことを教えてくれた。
 くるくる変わる彼女の表情がすごく可愛いことに気がついたのはいつだっただろう。
 もしかしたら、初めて出会ったあの日から、そんなことはとっくに知っていたのかもしれなかった。
 「…信じるよ」
 本当に。
 もし世界中の人間に『お前は裏切られたのだ』と言われても、つくしに信じろと言われる限り、信じることを誓う。
 …司。
 今頃、日本に向かっているだろう、友を思う。
 彼と同じ女を愛し、同じ女によって教えられ、その女によって傷つけられた男。
 …お前が怖いよ。
 本当に怖くて、怖くて、つくしを盗られないように囲い閉じ込めたい誘惑に苛まれる。
 けれど、それではダメなのだと、今の彼は知っていた。
 だから…。
 ただ、祈る。
 『神』という不確かな存在ではなく、彼が愛する女へと。
 彼自身が再び、自分の脆弱さと幼さによって、彼女を傷つけることがないように、と。






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