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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第七章 裏切②

昏い夜を抜けて329

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 「……」
 会いたい…。
 だが、その言葉には不思議に懐かしさはあっても、情念がなかった。
 すべてを呑み込み、昇華した静かな目。
 「もうあいつはあたしのことなんて忘れちゃってるのかもしれない。あるいは、もう二度と顔なんて見たくないって思っているかもしれない。でも、それがあたしのけじめなの。道明寺に会いたい」
 「会ってどうするの?」
 「…さあ?わからない」
 あやまりたいのかもしれなかったし、ただ今の彼を知りたいだけなのかもしれなかった。
 赦されるなんて、そんな都合のいいことは思っていない。
 これもまた単なる彼女の自己満足にすぎないのだろうことは、つくしにもわかっていた。
 罵られてもいい。
 殴られてもいい。
 …それどころか、こんな女なんか知らない、と無視されても良かった。
 それでも…。
 ただ、あの時の真実を伝えたい。
 あんたを好きだった、と。
 ただすべてをとりはらって、司が司だったから好きだったのだ、と。
 「あいつが会いたくないって言うのなら、それはそれでいいの。でも…」
 「信じるよ」
 「…え?」
 つくしの方がむしろ驚いて、類を呆然と見上げる。
 「俺はお前を信じる」
 愛するということは、信じることなのだともう類は知っていた。
 つくしを信じる。
 彼女の温もりを、優しさを、心を、魂を。
 彼女の全てを信じて。
 たとえこの先、裏切られることがあるのだとしても、それが今、類にできる精一杯の真実。
 「どんなことがあっても、お前を信じる」





 高階にドアを開けてもらい、車の助手席から降りると、七生は改めて長身の彼に向き合い深々と頭を下げる。
 「今日も御馳走様でした」
 何年つきあってもこの律儀なところは変わらない。
 そんな彼女の生真面目さが可愛くて、愛しくて、高階は柔らかい笑みを零す。
 彼女といるだけで心が安らぐ。
 常に気を張り、策略に身を投じる彼にとって、彼女といられるこの時間が唯一心を休められる貴重なものだった。
 「なな、コーヒー、飲んでいけって誘ってくれないのか?」
 「…この時間から?」
 溜息をつきつつ七生が覗き込んだ時計の針は、すでに23時を回っている。
 一人暮らしの女のアパートの部屋に、男をあげる意味合い。
 当然、高階もそんなことはわかっていて、彼が望んでいることなんてもちろん七生だってわかっていた。
 けれど…。
 「泊まっていきたい」
 ストレートなおねだりに、七生が迷ったように視線を彷徨わせる。
 もうひと押し。
 けれど、そんな高階の思案を読んだように、二人の間に割り入った小さな携帯の呼び出し音が、気まずい不協和音を生み出す。
 なぜか、予感があった。
 高階にも、そして、七生にさえも。
 RRRRRRRRRRRRR、RRRRRRRRRRRRR、RRRRRRRRRRRRR。
 「……電話よ、出たら?」
 どうしてバイブにしておかなかったのだろう。
 そう思いつつ、会議中ならばともかく、プライベートのおり、秘書の呼び出しもあり得るのだ、電話に気がつかないようでは困る。
 その習慣の結果だったが…。
 「いや、後で確認するからいいよ」
 「そう?…コーヒー、悪いけど、今日は帰って自分の家で飲んで」
 「なな」
 「明日も仕事でしょ?あたしも今日はもう疲れたし」 
 そう言われてしまえば、高階にはそれ以上言い募る言葉はなかった。
 自分の卑劣さを自覚していながら、彼女になお要求できるものなどあっただろうか。
 …いくら厚顔無恥な俺でも、な。
 自嘲する高階の様子を切なげに見つめる彼女の顔が真っ直ぐ見れない。
 「送ってくれてありがとう、彰」
 「ああ、また」
 踵を返す七生の後ろ姿を名残惜しく見つめる自分のなんと未練がましいことか。
 彼女が振り返ってくれないか。
 あるいは、彼女がもう一度思い直して、彼を自分の部屋に上げてくれるのではないかと期待する浅ましさが疎ましい。
 それでも…。
 また、と未来を感じさせる言葉を返してくれない彼女を恨める筋合いではないのだとわかっていても、それが恨めしい。
 『…お前はいいわけ?』
 以前に類に言われた言葉が耳元に蘇る。
 …帰り際に、類と牧野さんなんて見たから。
 二人の寄り添いあう姿が、まだ心が通じ合っているわけでもないだろう彼らの姿が、妙に胸を焦がして高階をイラつかせた。
 『もしお前が花沢と…自分の幸せってやつも両方手に入れようとしてるなら、虫が良すぎると言っておくよ』
 つい最近まで人形のように、ただ流れゆく時の流れに身を任せるだけだった男が、目に力を宿して言い切った言葉。
 『俺は必要なものも、大切なものもたった一つでいい』
 あの女の息子がそれを言うのか。
 すべてを手にしてなお貪欲に権力や名誉、地位、それらすべてを求め、固執する志保子の息子がそれを言う皮肉がおかしくて…憤しい。
 RRRRRRRRRRRRR、RRRRRRRRRRRRR、RRRRRRRRRRRRR。
 再び鳴りだした携帯の音に、知らず舌打ちを打つ。
 それでも業務連絡かもしれないのだ。
 いまこの微妙な時期に、電話を無視することなど高階にできるはずもない。
 …株主総会のことか。
 あるいは、他の業務上のトラブルでも起こったのか。
 半ば予感がありつつ、携帯の着信を確認して、大きく息を吐き出す。
 が…。
 【…Allo、俺です】
 『Bonjour. (こんにちは)彰、セリーヌよ。こちらは良いお天気だけど、東京はどう?』
 【東京ではもうBon soir. (こんばんは)ですよ。エステの帰りですか?】
 『ええ、青い空を見ていたら、あなたのことを思い出して、今、どうしてるかなって、電話してみたの。あら?じゃあ、今、会議中じゃないのね?』
 【ええ】
 先ほど電話に出なかったことを不審に思っているのだろう。
 女の声に、不満が宿る。
 『いつも私の電話には絶対に出て、って言っておいたのに』
 【すいません、ちょっと、取り込んでいて】
 女の我が儘には慣れている。
 けれど、今は、彼女の機嫌を損ねるわけにはいかなかった。
 ヨーロッパ市場におけるキーマンの一翼であるバルビエ家の娘。
 有色人種への差別意識が今なお根強いヨーロッパ社会において、珍しくリベラルな考えをもつ彼女の家は、花沢での確固たる地位を望む彼にとって、必要不可欠の後見となり得る。
 『まあいいわ、いよいよ、明後日ね。婚約発表もじきのことだし、いよいよパパの後押しも受けて、次期花沢の当主の座にあなたは王手をかけたわね』





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