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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第七章 裏切②

昏い夜を抜けて327

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 「……」
 「あんまり驚いてないね。知ってた?」
 呆然と類の顔を見上げて、つくしが目を瞬く。
 「……うん、桜子が」
 情報通の桜子だ。
 そしてその彼女が、親愛を寄せるつくしに教えないはずもないと、類も予想していた。
 だからこそ、口にできたのかもしれない。
 実のところ、類も自分で自分に驚いていた。
 司のことなど教えるつもりはなかったのに。
 なのに、どうして自分は彼女に司のことなど言ってしまったのだろう。
 「嬉しい?」
 「どうして?」
 尋ねるつくしの顔は本当に不思議そうだ。
 「あんたはどうなの?」
 「…うん?」
 逆に問い返され、類が目を瞬かせる。
 「もしまた静さんが日本に帰ってきてくれる、って聞いたらあんたは嬉しい?」
 意外な問いかけだった。
 思いもよらぬことだったから、答えられなかっただけ。
 だが、つくしはどう思ったのだろうか。
 ただつくしを見つめるだけで、戸惑い、問いに返答を返せない類に首を傾げ、視線を反らす。
 気を悪くしたようでも、哀し気でもなかったけれど、なぜか、そのままではいけない気がして。
 「…牧野、俺」
 「あいつとのことは…」
 「……」
 重なってしまったつくしの言葉に、思わず類が押し黙る。
 だが、つくしも又それ以上は続けず、再び窓の外へと顔を向けた彼女の横顔は、類には測り難く、いつも感情のままに溢れているわかりやすい表情がそこにはなかった。
 複雑な顔。
 いつのまに、つくしはこんな顔をするようになっていたのか。
 以前の彼女は、心の傷も顕に、口では司とのことは過去だと言い張りながらも、その表情はいつも苦しそうで…彼女が口にするほど、司とのことを過去にはできていないことは明らかだったのに。
 …あんた、司のことどう思っているの?
 夜毎魘され、謝罪を繰り返す彼女の心を占める男に、いつの間にか嫉妬を掻き立てられ、彼女を無視することができなくなっていた。
 温もりさえあれば、それでいい。
 たとえ心がなくても。
 そう思っていたはずなのに、狂おしいほどに欲しいモノができていたのは、いつからのことだったのか。
 人なんて、皆、自分勝手な生き物だからと。
 誰も彼も自分が一番大事で、どんな人間も類にとって静以外は醜くて、浅ましくて…哀れな生き物にしか見えなかった。
 それなのに、この目の前のちっぽけな女は、傷ついても傷ついても、裏切られても裏切られても、…他人の善意を信じることをやめないのだ。
 どうして、と思う。
 なぜ、そんなに強くいられるのだ、と。
 どんなに彼が薄汚く裏切っても、つくしの透明で無垢な信頼は、類の閉じこもっていた壁さえも打ち壊し、光の世界へと誘った。
 光が見たい。
 いつの間にか、人形のように何も感じなかった心が疼いて、気がつけば彼女に手を伸ばさずにはいられなかった。
 ただ、愛して…と。
 好きだから、そばにいて、と。
 そう言えば手に入るのだろうか。
 目の前の稀有な女の心が欲しい。
 …でも、まだダメなんだ。
 たとえ手に入れたとしても、きっと壊してしまう。
 少年の日の司が負けてしまったように、目の前の女が傷つかずにはいられなかったように、力が必要なのだと、今の類にはそれがよくわかっていた。




 どれくらいの時間がたったのか。
 ホンの数分、もしかしたら、数時間、いや、やはり数秒のことだったのかもしれない。
 「…道明寺とのことは終わったことだよ」
 やはり彼女の口からこぼれ落ちたのは、いつもと同じ答えで。
 それなのに、不思議にいつものように苦しげな顔ではなく、切なげなただ寂しそうではあるが、どこか諦念を浮かべているように思えるのは、どうしてなのだろう。
 「どうして、あたしが道明寺と別れたか聞いてる?」
 「…再会した時、その時の経緯をお前、説明してたじゃん」
 「そうだっけ」
 あの頃のことは夢の出来事のようで、どこか曖昧な記憶にしか残っていない。
 あるいは悪夢と言い変えられるのかもしれない。
 その後に類によって経験させられた衝撃的な出来事のせいで、さまざまなことが一変してしまった。
 彼女の立場も、境遇も、気持ちさえ…。
 「どんなに後悔したとしても、時は戻らない」
 「……」
 「あたしがどんなに道明寺にすまない、と思ったとしても、それはあたしの中の自己満足にすぎなくって、道明寺自身にはなんの効力も…彼の気持ちを裏切って傷つけたことに対する対価にはなりはしないんだってやっと気がついたの」
 つくしが苦しんで、過去を悔い続けることと、司が救われることは同じことではない。
 どんなに彼女が苦しいのだと自己憐憫に浸ろうと、それは司にとって何一つ救いにはなりはしないのだ。
 そんな簡単なことがわかっていなかった。
 ただ自分がこれだけ苦しんでいるのだから、赦して…と心のどこかで思っていた気がする。
 『どんな人間も他人のことなんて、本当の意味ではどうかしてやることはできないんだよ。それをできると思ってるなら、それは傲慢だ』
 タマの言ってくれた言葉。
 そして優紀の、
 『自分自身の心を無視して、他のことを理由に逃げ出さないで欲しい』
その言葉に自分の本当の罪を改めて知った思いがした。
 エゴイストと罵られて、否定できなかった自分に気がついたのだ。
 タマも、優紀も…。
 大切な二人が言ってくれた言葉。
 それはいたずらに過去を引きずるのではなく、その経験をバネに前へと前進せよ、と言ってくれたのではないか。
 そして、自分の中を見つめ直した時に、二つのことがわかった。
 一つは司への長年の想い。
 そして、今一つは、目の前でどこか不安そうな…探るような目をした惑う子供のような男への想い。
 「もう道明寺とのことは終わってしまった。もう二度と戻れない。過去にも…そして、道明寺への気持ちさえも」





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