FC2ブログ

「昏い夜を抜けて…全483話完」
第七章 裏切②

昏い夜を抜けて326

 ←アネモネ118 →昏い夜を抜けて327
◇更新情報他雑文 『こ茶子の日常的呟き』へ
【君を愛するために】オススメ作品!?
ランキングもよろ(・ω-人)
ブログランキング・にほんブログ村へ
いつも応援ありがとう♪
**************************************

 「えっと、その…あのぅ……」
 類の真摯な目に何を言えばいいのかわからなくて、目をキョドらせ、つくしが俯く。
 特に返事を求めての言葉ではなかったらしく、あっさり話題を変え、類が昇り始めた月を眺めて首を傾げる。
 「…ちょっと、曇ってるね」
 「え?あ、うん」
 「うっかり出てきちゃったけど、車、地下に停めてるんだった」
 そういえば、類のような幹部クラスは高級車に乗っていることも珍しくはなかったので、警備の万全な地下駐車場を割り当てられていた。
 「ま、いっか。…少し歩く?」
 雨が近いせいか、昼間の熱気が嘘のように気温が下がっている。
 たまに吹き抜ける生温い風が気持ち悪いが、こうして二人で歩くのは本当に久しぶりで、もう少しこうしていたい気持ちが手伝って、つくしも類の提案に頷いた。
 「あ…でも…」
 つくしにもそうだが、基本、類には護衛がついている。
 類とは別れたのだからボディガードを付けてもらう筋合いではないとは思うのだが、山崎のことがあり、そして、美也子のこともあって完全には拒絶しきれなかった。
 どちらにせよ、彼と完全に切れたとみなされる…彼が日本を後にすれば必要なくなるだろうことだったので、つくしも許容していた。
 「えっと、申し訳ないんじゃないかな?」
 つくしの逡巡の理由は類にも伝わったらしい。
 あっさりと流され、
 「ん?平気。みんな車ばかりで体がなまっちゃうし、ちょうどいいんじゃない?」
 それは違うと思うが、四六時中警備がついている類にしてみれば、常に他人の思惑を気にしてなどいられないのは当然のことであろうと彼女にしてみても推測できるので、あまりしつこくは言い張れない。
 「…少し、街をブラブラして、それから何を食べるか決める?」
 「時間、大丈夫なの?」
 「もう帰るだけだもん」
 終業直後ほどではなかったけれど、帰宅途中の社員たちが二人を驚いたように見て、会釈をしては通り過ぎてゆく。
 「こんな時間に、帰るなんて久しぶり」
 「…そうだね。一介の平社員のあたしたちとは違って、あんたはサービス残業が基本だもんね」
 高校生時代の寝てばかりいた彼のイメージと重ならない。
 社会人になった彼は本当に勤勉で、経営者としていつも多忙だった。
 「…牧野、東京タワー登ったことある?」 
 「へ?」
 「東京タワー」
 東京に住んでいれば否が応でも馴染みの観光スポットだが、地元であるだけに、意外に訪れる機会などそうそうない場所だ。
 まだ完全には日が沈んでいないので薄墨色に景色に沈んでいたが、もう少しして周りが闇に包まれれば、煌びやかなライトアップが点灯されるのだろう。
 「登ったことある?」
 「…ん、確か小学校の遠足で一度だけ」
 そんなものだろう。
 だが…。
 「俺、登ったことない」 
 「え?」
 キラキラした目が、つくしを見下ろしている。
 とてもそんな俗っぽい観光スポットに行きたがるような男だとは思っていなかったが、期待している目に、つくしも否やを言えず仕方なく頷く。
 「じゃ、行ってみる?」





 車を呼ぶのかと思えば、通りかかったタクシーを停め、現地へ。
 さすがに地下鉄やバスなどの公共機関を利用するということは念頭になかったらしく、自分だったら財布の中身を考えて躊躇するところだが、つくしも仕方がないと許容した。
 花沢物産本社ビルも高層階を有し、当然その頂点に近いところに位置する類の執務室もたいそう眺めが良い。
 しかし、つい先ごろまで日本一を誇っていた建物の展望台から一望する夜景は壮観で、見慣れている東京の景色がまるで一転してつくしの目に映る。
 東京で生まれ育って20年余り。
 知り尽くしたと思っていたこの土地で。
 けれど、違う角度や違う場所から見れば、また違う姿がある。
 それと同じで、この隣で一心不乱に外の景色を眺めている美しい青年にもまたさまざまな姿や事情があるのだろうと思う。
 ふと、
 「…やだ、なに見てるのよ」
 てっきり外の景色に見惚れているのだと思っていた類の視線が、景色ではなく、ガラス面に映ったつくしの顔を見ていることに気がつく。
 楽しそうに柔らかく浮かべた微笑みが、蕩けるように甘くて…優しいのに、頬が熱くなるのを感じて、照れ隠しにそっぽを向く。
 「別にいいでしょ?俺の見たいものを見たって」
 「だって、だったらなんでこんなところに来たのよ」
 わざわざタクシーを使って、こんなベタなデートスポットまで来た意図がわからない。
 「嫌だった?東京タワー」
 「…別に嫌じゃないけど」
 ある意味長年住んできて、ほとんど初めてに近い訪問に楽しくないわけではなかった。
 …類が一緒だし。
 ふと素直な気持ちが湧き上がってきて、そんな自分の心持ちに、類にわかるはずもないのに悟られたくないと、何食わぬ顔を装う。
 「俺は楽しいよ。この広い東京のどこかに、俺とあんたが暮らしたマンションがあって、ベベがいるんだよね。あの辺かな?」
 類が指し示す方向へと目をやる。
 似たような高層マンションが立ち並び、闇に沈んだ景色から判別するのは難しかった。
 「で、英徳はあの辺」 
 「……」
 「うちの本社はアレで、あそこにあるのが道明寺東京支社ビル」
 ハッとつくしが類の顔を見上げる。 
 「司、もうすぐ帰ってくるよ」





◇更新情報他雑文 『こ茶子の日常的呟き』へ





ブログランキング・にほんブログ村へ 💛 
いつも応援ありがとうございます^^!

web拍手 by FC2






関連記事


総もくじ 3kaku_s_L.png イベント
総もくじ 3kaku_s_L.png だから今日も I'm so happy…百回分の花をあなたに
総もくじ 3kaku_s_L.png ******【司×つくし】******
総もくじ 3kaku_s_L.png 愛してる、そばにいて
総もくじ 3kaku_s_L.png 百万回の微笑みを愛の言葉にかえて
総もくじ 3kaku_s_L.png 陽のあたる処でシリーズ(短編集)
総もくじ 3kaku_s_L.png Fly me to the havenシリーズ…36話完
総もくじ 3kaku_s_L.png アネモネ…全171話完+α
総もくじ 3kaku_s_L.png ******【類×つくし】******
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編+
総もくじ 3kaku_s_L.png パッション…①24話②22話完
総もくじ 3kaku_s_L.png 陽だまりの詩シリーズ(短編集)
総もくじ 3kaku_s_L.png ****【総二郎×つくし】****
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編-
総もくじ 3kaku_s_L.png ****【あきら×つくし】****
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編^
総もくじ 3kaku_s_L.png ***【その他CP】***
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編'
もくじ  3kaku_s_L.png 倉庫
総もくじ  3kaku_s_L.png イベント
総もくじ  3kaku_s_L.png だから今日も I'm so happy…百回分の花をあなたに
総もくじ  3kaku_s_L.png ******【司×つくし】******
総もくじ  3kaku_s_L.png 愛してる、そばにいて
総もくじ  3kaku_s_L.png 百万回の微笑みを愛の言葉にかえて
総もくじ  3kaku_s_L.png 陽のあたる処でシリーズ(短編集)
総もくじ  3kaku_s_L.png Fly me to the havenシリーズ…36話完
総もくじ  3kaku_s_L.png アネモネ…全171話完+α
総もくじ  3kaku_s_L.png ******【類×つくし】******
もくじ  3kaku_s_L.png 拍手小話+
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編+
総もくじ  3kaku_s_L.png パッション…①24話②22話完
総もくじ  3kaku_s_L.png 陽だまりの詩シリーズ(短編集)
総もくじ  3kaku_s_L.png ****【総二郎×つくし】****
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編-
総もくじ  3kaku_s_L.png ****【あきら×つくし】****
もくじ  3kaku_s_L.png 拍手小話^
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編^
総もくじ  3kaku_s_L.png ***【その他CP】***
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編'
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png ストック
もくじ  3kaku_s_L.png R短編集
もくじ  3kaku_s_L.png アネモネ R
もくじ  3kaku_s_L.png 恋愛の品格 R
もくじ  3kaku_s_L.png 愛妻生活 R
  • 【アネモネ118】へ
  • 【昏い夜を抜けて327】へ

~ Comment ~

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【アネモネ118】へ
  • 【昏い夜を抜けて327】へ
にほんブログ村 小説ブログへ💛
スポンサーリンク