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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第七章 裏切②

昏い夜を抜けて324

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 類とつくしのつかの間の逢瀬は、類の多忙によって意図も容易く中断させられることになった。
 志保子が来訪する間、つくしを会社から遠ざける用件を作った三田村などは、さすがにつくしのあまりに早い帰社に驚いていたが、結果的にはこれまた本来出張に出ていて社内にいないはずだった高階との偶発的な遭遇によって、事なきを得ることとなったようだ。
 定時より10分を過ぎた頃、経費削減をどんな大企業でも謳われる昨今、基本、ノー残業を推奨している花沢物産。
 当然役員待遇ではなく、一平社員でしかなく、その方針を遵守しているつくしが時計を見つつ立ち上がると、退社の挨拶を口にする前に、類から声がかかった。
 「…牧野、帰る?」
 「あ、はい。お先に失礼しようと思ったんですが、何かありますでしょうか?」
 類は東京本社での残務処理に入っていて、概ね突発的な仕事が入ることはそうそうなく、よしんばあったとしてもほぼ第一秘書の三田村で事足りてしまうので、つくしが急遽呼び止められることなどほとんどない。
 そして…、
 「ん、俺ももう少ししたら帰れそうだから、今日良かったら一緒に飯食わない?」
 「え…」 
 同室に控えた三田村と眞子を気にして、つくしが躊躇う。
 「ついでに、三田村と江島も奢ってあげてもいいよ」
 にっこり。
 どこまで本気かわからないが、どうやら部下への慰労を兼ねたお誘いだとわかってつくしがホッとする。
 が…。
 「いえ、すいません。私はまだ仕事が残っていますので、今日は遠慮させていただきます」
 三田村の仕事が残っているのなら、その上司である類の仕事も当然残っているのではないだろうか?
 「あ~、あたしも~。え、えっと、今日は、と、友達の彼氏のお兄さんの従姉妹のお姉さんの誕生日プレゼントを選んであげる約束をしていますので。ん~、残念~」
 友達の彼氏のお兄さんの従姉妹の…そこまで数えたところで、わけがわからなくなる。
 第一、職業柄もそうだが気が合うことも手伝って、何かと一緒に行動したり立ち話する機会も多い江島から、そんなことは一言も聞いていなかった。
 …江島さん、今日、早く帰れたら飲みに行きたいね、みたいなこと言ってたような。
 改まって誘われていたわけではなかったが、暑い→ビールが美味い、の延長でそんなことを言われた覚えがある。
 「そっか、残念だね。じゃ、牧野、30分後。特にやることないようだったら、休憩室でお茶でもしてて?あんたの好きなロイヤルミルクティ、奢るから」
 「…はい」
 どう贔屓目に聞いても類の声音は、三田村と江島の返答をちっとも残念そうには言っていなかったが、つくしには彼の誘いを断る正当な理由がないので素直に応じる。
 いや、そんなことではない。
 彼を断る理由などいくらでもひねりだせるだろう。
 社外の友人と会う約束がある。
 あるいは、疲労が溜まって体調が良くないから、等々どうとでも言い抜けられる。
 そして類も、たとえそれがあまりに見え透いた嘘だったにしても、今の彼だったらそんな彼女を許して、しつこくは無理強いしてこなかっただろう。
 類は変わった。
 待つ…彼女にそう言ったとおり、二人の関係を精算してからの類は、時折こうしてアプローチしてくるものの、それで何かを彼女に強制することがなかった。
 確かに優柔不断な彼女だったから、いささか強引に押してくることはある。
 けれど、それもギリギリで彼女が許せる許容範囲内。
 いや、彼女が類を許せない、そんな事柄など何もないのかもしれない。
 彼を赦せないことが、果たして彼女の中に存在するのか。
 ふと、湧き上がった真理。
 赦せないとか、赦せるとか、そもそもつくしの中に類への怒りはあっても、彼を憎めなかったように、彼を赦せないことなど何一つなかったことに気がつく。
 「…牧野?」
 「あ、いえ、わかりました。えっとその…じゃあ、ロイヤルミルクティ、ご馳走になりますので、お願いしますね」
 缶ジュース一本でも遠慮するつくしの珍しい応答に、類が目を瞬かせ、そして柔らかく微笑む。
 「うん、いいよ。50本でも100本でも好きなだけ、飲んで」
 「……いや、普通に一本でいいですから」
 浮世離れしている人は、やはり冗談にしても言うことが普通ではなかった。





 「…あ、売り切れてる」
 ロイヤルミルクティと言ったら、これ!
 特に飲み物にこだわりのあるつくしではなかったが、飲み口の柔らかさ、ほんのりとした甘さが気に入って、このメーカーのものを愛飲していた。
 類もそれを知っての言葉だったが。
 つくしだけでなく、他にそう思っている社員が多数なのか、折も悪く売り切れ。
 それならば別の飲み物を買えばいいのだが、最初から飲むつもりでここに来たことを思うと、妙に飲みたくなってくる。
 …どうしよう。
 このミルクティはこの休憩所と、1Fのエントランスロビーの待合いの自動販売機にしか売っていなくてしばし悩む。
 どうせ、手持ち無沙汰に類を待っているだけなのだ。
 とりあえず行き違いになると困るので、1Fの待合いで待っている旨をメールし、まだ僅かに陽の落ちていな窓の外を見るともなく覗く。
 もうすぐ類と再会して一年。
 あの頃は、数年ぶりに会う初恋の君に再会する…というセンチメンタルな小さなトキメキと懐かしさが、そして、司に繋がる人に会うのだという緊張ばかりがあって、よもや今のような関係に類と陥ることになるとは思ってもいなかった。
 いまだに半信半疑なところがあるのは仕方のないことなのかもしれない。
 こうして眺める夕日は、おそらく今日も、昨日も、一昨日も…そして、数年前もきっと変わりはしなかったというのに見るたびにその様相を変える。
 それはきっと、彼女自身の心持ちだったのだろうし、その時々に抱える悩みや苦しみ…喜び、その他もろもろのことがあったのだろうと思う。
 この美しい景色を眺めても、そこにそれがあることさえ気がつかないこともあった。
 気がつけば…そこにあった。
 気がつけば…そこにいた。
 たとえ彼女が気がついても、気がつかなくても、常に変わらず存在する情景…人。
 『どうせ皆苦しむのなら、あんたにはあんたの選んだ道を選んで欲しい…』
 優紀の言葉を思い出す。
 自分ばかり…自分と司ばかりが傷つき苦しんだと思ってきた数年間。
 優紀や和也に申し訳ないと思う気持ちはあったけれど、よもや自分が良かれと思って行った行動に、彼らが傷つくことがあろうとは思いもよらなかった。
 自分が耐えればいい。
 …そして司が。
 司のことを傷つけた自覚はあったものの、果たして本当に自分は彼の苦しみを理解できていただろうか。
 いつも独りよがりだった。
 何様のつもりだったのかと思う。
 あの時、自分は本当に非力でどうにもできなかった。
 今、あの頃に立ち戻ってもそれは変わらない。
 それでも、努力することはできたと思う。
 けっきょく同じ結果だったのだとしても、もっと愛する人たちに誠実であることもできたはずだ。
 「ハァ~」
と、大きくため息をつく。
 どうして人はこうして惑うことばかりなのだろう。
 他人のことはよく見えるのに、自分のことになるととたんにわからなくなる。
 『また昔のあんたの強さを見せて欲しい』
 友の言葉。
 本当に自分はまたそんな風に立ち向かうことができるのだろうか。
 場所を移動しながら、刻一刻と沈みゆく夕日を見送り、つくしは自分の胸の奥底を覗き込む。
 いつも強くありたいと願いながら、果たすことができなかった願い。
 今度こそ…そう思うたびに、向かい来る嵐に怯え、立ち向かう勇気を忘れていたのかもしれない。
 エレベーターの回数表示を目で追いながら、これまでのことを思う。
 そして未来を。
 チーンと音を立て、1Fに到着したエレベーターを降り、見るともなしに再び沈みゆく夕日を求め、窓の外へと視線を向け…。
 「あ、あれ」





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