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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第七章 裏切②

昏い夜を抜けて323

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 「…ふぅ」
 志保子とまり子の後ろ姿を見送って、類がため息をつき執務室へと戻る。
 類と一緒に女二人を見送った高階にしても、とても類と雑談するつもりになれなかったのだろう。
 類の執務室に足を踏み入れることもなく、誰にともなく挨拶代わりに片手を上げて踵を返す。 
 そもそも出先で高階がつくしと出くわしたのも偶然だったのなら、顔見知りの彼女を帰社するついでだからと車に乗せてくれたのも偶然。
 そしてたまたま化粧室から出てきたまり子と出くわしたのは、なんの恣意のなせる技だったというのか。
 高階を見送ることもなく、類に促され、つくしが部屋へと入ると類自らドアを締め、類はそのまま無言でソファへと腰を下ろした。
 特に類の顔にはどんな感情も浮かんではいない。
 けれど、先ほどドアが開く寸前に聞こえた志保子の声が、耳に残って、つくしは口を開きあぐねていた。
 『あなたなんか産まなきゃ良かったっ!!』
 …たしか、そう聞こえた。
 聞き違いだったかもしれない。
 そうは思いつつ、ソファの背もたれに片腕をかけ、ぼんやりと全方向位の窓を見る類の横顔に否定しかね、つくしは息を潜めて彼からのアクションを待った。
 「…ずいぶん」
 「えぇっ?」 
 だというのに、いざ声をかけられると、ビクリと肩先があがってしまったのは、あまりに過剰な反応だっただろうか。
 自分で自分のひっくり返った声音に驚いて、つくしがキョトキョトと視線を彷徨わせる。
 アンニュイな横顔を見せていた類が、そんな彼女の珍妙な行動にキョトンと目を瞬かせ、ついでぷっと噴き出し、気まずい空気を振り払った。
 「…ぷくく、相変わらず、面白い行動するね」
 「面白い…って」
 「昔から、あんたって挙動不審っていうか、突飛というか」
 それは類といたからだ。
 彼の一挙一動にドキドキして、どうしていいかわらかなくなって、いつも彼の言葉一つ、行動一つに大げさなまでに反応してしまっていた。
 けれど…。
 「ま、ああいう場面に出くわしたら、あんたでなくっても気まずいか」
 …わかっていたらしい。
 「聞こえちゃった?」
 「…う~ん」
 答えているようなものだったが、さりとて嘘をつくわけにも行かず、かといって明るく同意するわけにもいかず、つくしは曖昧に首を傾げた。
 類がクスッと笑う。
 「そんないかにもどうしよう、って顔してないで、横座りなよ?」
 「え…」
 「ここ」
 ポンポンと類の横を指示され、悩む。
 「膝枕してよ」
 …やはり。
 「ここ会社だから」
 というより、類との関係はもう終わったのだ。
 ただの上司と部下がそれはおかしいだろう。
 「…ケチ」
 ぶーたれた顔で、ため息をつく横顔が寂しそうに見えて、一度は拒絶したものの、拒絶しきれずに類の前へと歩み寄る。
 見上げてくるいつもとは違う位置にある、綺麗な顔。
 いつものように怜悧な眼差しの奥に、違う何かがある気がして。
 「膝枕、してくれる?」
 「…それはダメだけど。その…何か、飲み物でも持ってこようか?」
 「いらない。それより…」
 「ちょっ…」
 手首を掴まれ、引き倒されるように無理矢理に彼の隣へと座らされる。
 そして…。
 「もうっ!!」
 「…肩を貸すくらい、いいでしょ?」
 身じろぎしようとしたつくしの肩へと、類の頭が乗って、体重がかかった。
 それでも、彼女が潰れてしまわないように、彼が力加減をしていることがわかる。
 じんわりとした温もりが肩先から染み入って、彼が人形などではなく、ちゃんと呼吸して、喜びも、怒りも…悲しみも感じる一人の人間であることをつくしに伝えているようだ。
 伏せた瞼が青く透けて、バサバサのうす茶色の睫毛が目の下に濃い影を作って、つくしに目の前の青年を非現実な存在のように感じさせる。
 …こんな綺麗な人がいるなんて。
 高校生の時に何度となく思った。
 ただ憧れて、憧れて…何を望むこともなく、ただ彼の笑顔が見たかった、それだけなのに。
 2,3度瞬きをして、目を瞑っていた類が、彼女の視線を感じたのだろう、ふと顔をあげる。
 間近で合ってしまった視線に、ドキリと心臓が音を立てつくしは息を飲んだ。
 「なに?」
 「え?あ…え?そのっ」
 「…もしかして、俺のこと可哀想だとか思ってる?」
 そんな風に思ったわけではなかった。
 けれど、それならなんだというのだろう。
 「俺、可哀想?」 
 表情のない眼差しは、彼女に何を訴えるわけではなく、ただ彼女がどう思っているか、ただそれだけを聞きたいだけにも思える。
 「…わかんないよ」
 「昔から、牧野には変なところばかり見られるね」
 「そうかな」
 むしろ、それは逆だったと思う。
 ひとり非常階段で日常の鬱憤を叫ぶことで晴らしていたところを見られ、苛められてひどい姿を笑われているのを庇ってもらい、レイプされそうになったところを助けられた。
 どうして、彼だったのだろう、と思う。
 本来ならけっして言葉を交わすことさえなかっただろう、まったく別世界に生きていた人。
 そして、おそらくこの先も…そう思うのに。
 ジッとつくしを見ていたビー玉みたいな目が閉じられ、チュッと小さな音を立てて彼女の唇へと唇が押し当てられる。
 気がつけば、目を閉じて、彼を受け入れてしまっていた。
 夢のような淡い感触。
 「よくあることだよ。半分本気で半分本気じゃない。…いまさら彼女が何を言ったところで、俺は傷つきはしない。彼女じゃ、俺を傷つけることはできないよ。俺を傷つけることができるのは…」
 …お前だけだよ。





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