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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第七章 裏切②

昏い夜を抜けて322

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 トントン。
 一瞬で、母と子の…いや、志保子の中だけでふき上がっていた炎が冷却する。
 けれど、自分の感情の噴出にも冷然とした態度を崩さず、彼女の悲哀など一顧だにする価値もないのだと言わんばかりの息子に、思わぬ程の憎しみを覚え、自分でも思わぬ言葉がこぼれ落ちた。
 「あなたはこの会社を継ぐためだけに生まれてきたのよ」 
 類の色のない目。
 それが無関心にチロッと志保子を顔を撫でただけですぐに平然と反らされ、よけいに彼女の憤りを煽る。
 「中々子供を産めなくて、…私がどんなに苦しんだか!私が息子をもっと早く産むことができていたら、絶対に夫を奪われたりなんかしなかったのに」
 女の怨嗟に満ちた声音がひどく醜く、聞くに耐えない。
 再びトントン、というノックの音に、
 「…誰か来たようだ。三田村にはしばらく近づかないように言いつけてますから、別の人間でしょう。みっともない醜態を晒したくないのなら、そろそろお帰りになられては?」
警告を言い起き、ドアへと出向き、類自らノブへと手をかける。
 「あなたのように不甲斐ない息子だとわかっていたら、絶対に私はあなたなんか産まなかった。息子を生んでやっとあの人が、私を顧みてくれると思っていたのに、あなたが出来損ないだったせいで、私がどれだけ苦渋を舐めることになったか!それをっ!!あなたなんか産まなきゃ良かったっ」
 ガチャリと音を立て、開け放った扉の向こう…驚いた顔のまり子と、その後方、眉根を寄せた高階、そしてその影に隠れるように控えたつくしが、類と志保子を見ていた。





 「…彰。なんて、間の悪い」
 はぁ~っと、さすがの類も、額を抑えて溜息をつく。
 「ジャストタイミングだろ?」
 皮肉に笑む高階の目は、志保子を見つめたまま笑っていない。
 類、志保子、高階…と、花沢家の人間たちのただならぬ剣呑な空気に、部外者のつくしとまり子が落ち着きなく視線を彷徨わせるばかりだ
 「…藤堂さん」
 高階に呼びかけられ、まり子が小さく飛び上がる。
 それでも動揺を抑えて、柔らかな笑みを浮かべているのはさすがだった。
 「え?あ、はい」
 「あなたが連れてきたのでしょう?」
 「……え、その」
 実際のところ、まり子は志保子に頼まれ付き添っただけのことで、親子の語らいの邪魔をしては…とあえて気をきかせて席を外しただけの間の、この緊迫感に戸惑うばかりだったのだが。
 「いいかげん、類の方もグロッキー気味でしょう。そちらの女性にしてみても、これ以上ここにいても醜態を晒すだけで、益になるとは思えない。そろそろ連れ帰って差し上げてくれませんか?」
 「…あなたに指図されるいわれはありません」
 先ほどの激情は収められていたものの、それでも高階を見据える志保子の目は、憎悪も顕に爛々と光っている。
 そして、なるべく目立たぬように高階の長身の影に隠れていたつもりのつくしだったが、高階を見て…、そして彼の体がまるで透明であるかのような自然な流れで志保子の視線がつくしへと流れる。
 「そちらの方…」
 「……」
 最初自分が呼びかけられていることに気がついていなかったが、
 「フランスへ社費留学されるそうね」
 「え?は、はいっ」
一同の注目を浴びていることに気がついて顔をあげた先の志保子の言葉に、背筋を正す。
 余計なお世話なことに、高階までもが前を退いたものだから、まともに志保子と相対することになってしまい、つくしの気分はまさに漫画で言う青斜線が顔に入る状態だった。
 …か、勘弁して。
 しかし、相手は類の母親なのだ。
 否が応でも彼と因縁浅からぬ関係を持ち、現在ある意味精算しているとはいえ、キッパリと気持ちを断ち切れていない以上、志保子を無視しきれない。
 …それに。
 チラッと志保子の横に立つ類へと視線を走らせる。
 冷たい眼差しで志保子を見下ろしていた類が、そんな彼女のわずかな視線に気がつき、瞬時に和らいで、困ったような小さな笑みを浮かべるのにホッと気持ちが緩められた。
 …ごめんね。
 そう言われた気がした。
 この事態…志保子とつくしの対面を、類が好んで実現したわけではないことは最初からわかっていたことだが、それでなおさら確信する。
 「一時期は、あなたと私の息子のことで誤解してしまって、失礼をしてしまったようですけれど」 
 「……」
 誤解ではないことは、志保子とつくしが一番よく知っている。
 高階への憎しみに満ちた眼差し、そのままにつくしへと笑みを浮かべる志保子の顔は、以前に会った時の、いかにも上流階級の奥様然としたアルカイックスマイルではなかった。
 楓のビジネスライクな…つくしを野辺の小石程度にしか見ていないという冷淡な顔ではなく、憎悪と憤怒に満ちた『女』そのものの情念に満ちた顔。
 「身の程を知らない者には思わぬ不幸が降りかかるもの。人には生まれながらの分というものがあるのですからね」
 ゾクッと身を震わせるつくしへと放った言葉は、彼女へと向けたもののようでいて、それでいて、違うようにも思える。
 「不幸が降りかかる…ね。では、あなたがその不幸を生みだす神ということなのかな?」
 冷え冷えとした声の敵意が高階から迸り…だが、
 「悪いけど、こんなところで家庭内紛争をわざわざ周囲に周知するつもりはないんだけど?」
 溜息をつきつつ、むしろうんざりしたように類が、母親の背を押し、一同を押し出す。
 「続きをやりたいなら、彰のところでどうぞ。とりあえずお母さんの俺への用件はもう終わったでしょう?」
 「…類ッ」
 「俺の方も株式総会やら転勤やら、なにやら忙しいので。今後は三田村を通じて連絡をください。あなたが俺の時間をこうして無駄にするだけ、あなたが一番危惧する彰に引けを取ることへと繋がるのでは?」
 類のもっともな言い分に、志保子が唇を噛み締め、顎を反らしつつも、素直に部屋の外へと出る。
 「…おばさま」
 それでも心配げなまり子に申し訳なげに頷き、付き添われながらその場を辞する。
 高階の横を通りしな、
 「…いい気にならないことね」
 「肝に銘じますよ。いろいろとね」
 言葉とは裏腹な毒を含んだ嘲る口調に、志保子は憎悪がそのまま目に見えそうな視線を高階にくれ、後はつくしを一べつすることもなく歩き去った。





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NoTitle

最高!!最も凄いシーンも入れてください!!

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NoTitle

胸が痛くなるほどの最悪女性ですね。こんな女性中々他の類、つくでもお見かけしませんねー.
さすがこ茶子様です。、、                        こんな母親を持つ類、こんな妻を持つ花沢社長、御愁傷です。        でも、他に子供を産ませた男が、一番悪い。                                                                                        こんな母親を、類どう懐柔していくのでしょうか    

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