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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第七章 裏切②

昏い夜を抜けて320 

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 「暑~」
 額に手を翳し、ギラギラと光る太陽を仰ぎ見る。
 カレンダー上は初夏とはいえ、まだ梅雨も明けておらず、異常気象なのか長袖を必要とする日もあるというのに、今日は異様に暑かった。
 取引先に顔を出す都合上羽織った上着が暑い。
 ただでさえ暑いのに、よりにもよって熱を集めやすいブラックスーツだ。
 …まったく、秘書なんてガラじゃないつーのッ。
 与えられた仕事は嫌いではなかったけれど、それでも時折、これまでのキャリアを斜め上をゆく現在の立場に、寂しさを感じないでもない。
 …まあ、お給料は前よりいいし、しょうがないか。
 以前の職種も一生懸命取り組んでいたとは言え、夢があったとかそういうことではなく、あくまでも糊口をしのぎ、口を養うことがもっとも最重要な家庭環境だ。
 キ~ッと止まった車の音に、つくしは見るともなしに車道を振り返った。
 「…あ」





 「いいかげんにしていただきたいですね」
 うんざりと目の前の自分によく似た女を見据えて、顔を顰める。
 いつかはやってくるとは思っていたが、類の立場を気にする割には、彼の仕事を考慮しようとしない母親の身勝手に、皮肉な笑みが浮かんでくる。 
 志保子は良くも悪くも『お嬢様』で、他人の思惑を気にすることもなく、周囲が自分に合わせてくれると信じて疑わない。
 それでも自己顕示欲はそれほど強くはないから、せめてものことだろうか。
 彼女が望むのはひたすら、今の自分の立場を守ることだけ。
 どうしてそれほどに…と人の心の機微には敏感でも、感受性が強くない彼には理解し難かった。
 客観的に『志保子という人間』を理解できても、彼女の執着は類には煩わしいだけで共感できない。
 それでも母親であり、この花沢物産の社長夫人だ。
 完全に無視できるはずもなく、いいかげん居留守も限界だった。
 「…いらっしゃらないのね?」
 「……」
 さりげなく周囲を見回した母が誰のことを言っているのか、当然類にもわかる。
 志保子が来訪することがわかった時点で、三田村に適当な用件をでっち上げさせ、社外に出していた。
 つくしと出くわしたからといって、人一倍世間体を気にする志保子が、他人の前で醜態を晒して、つくしをつるし上げたり嫌がらせをするとも思えない。
 だが、たとえそうにしても、つくしにしてみればどうみても友好的ではない彼の母親と会いたいなどと思えるはずがないだろう。
 …司の母親のこともあるし。
 それにどうやら先日、志保子もつくしに対して楓を彷彿とさせるようなマネをしたらしい。
 つくしはそんなことを彼に告げ口するような女ではなかったけれど、後日ご丁寧に総二郎から素敵な手土産と共に聞かされていた。
 …この人は、きっと自分が渡した嫌がらせの写真や調査書のうち、何が牧野の胸を突いたかなんてわからないんだろうな、と思い、場違いにもクスッと笑みを零す。
 息子のそんな柔らかな笑みに、志保子の方が目を瞬かせた。
 子供の頃の類はいつも彼女の前では無表情。
 大人になってからは、それに冷笑が加わるくらいでそんな顔を彼女に見せたことがなかったのだ。
 もっとも、志保子にしてみても似たようなもので、あまりに馴染まぬ表情に自分の用件も忘れて息子の顔に見入る。
 「何か?」
 「…いえ、牧野さんはまだ、あなたの秘書をされているのでしょ?」
 「ええ、そうですね。まだ、というか、この先も移動してもらう予定はありませんよ」
 少なくても…自分は、だが、あえて詳しく言う必要もないだろう。
 僅かに顔を歪め、それでも平静を装った笑みは昏く淀んでいる。
 自分によく似ていて、元々ナルシストではない類には興味が沸かないという以上に、この女の顔は単に笑みの仮面を被っているだけのようなもので、その心情を探るのに一顧だにする価値もなかった。
 「で、わざわざ会社までいらした用件は何なんです?」
 「なにって、決まってますでしょ?どうして、邸に帰らないのです」
 「……以前にも言いましたが、イイ年をした息子がどこにいようと、子供時代でさえ一緒に暮らしていなかったあなたが口を出す筋合いでもありませんよ」
 「ええ、そうね。でも、その行動くらいは把握しておく必要はあるはずでしょ?どういうことなんです?まさか、新しい女性を囲ってらっしゃるわけではないでしょうね?」
 そんなわけがないことは、わかっているはずだが、案外本気で疑っているのかもしれない。
 「ご存知でしょ?最近、俺に尾行をつけていらっしゃるんだし?」
 否定はしないが肯定もせず、サラリと志保子の詰問を流す。
 「将来を考えなさい」
 「もちろん、考えてますよ」
 ニッコリ邪気なく笑う美貌は、邪気に満ちて。
 「ただ、あなたの考えている未来像と、俺の未来像とでは大きく隔たっているというだけのことで」
 「まり子さんの何が不満だというのです」
 「本気で、静と容貌が似ているというだけで、彼女を娶りたいと俺が思うとおもってらっしゃるんですか?」





 「本当にありがとうございました」
 車から降りて、改めて礼を言う。
 類の第一秘書・三田村から言いつかった『お使い』は大した用件ではなく、書類を届けるだけという子供にでもできるものだったが、秘守義務が厳重な書類だと言われ、かろうじて免許も持っていたが長年ペーパードライバーな為に電車を使わざる得ず、思わぬほど時間をロスしてしまっていた。
 …まあ、時間は気にしなくていいって言ってたし。
 普段はそういう類のお使いを仰せつかることなどなかったから必要性を感じていなかったが、やはりもう一度教習所に通って車くらいは運転できるようになるべきか。
 …ひ、費用がって、そんな場合じゃなかった。
 「高階常務のおかげで、早く会社に帰り着くことができました」
 「別にいいさ。こっちも社に戻るところだったし」
 ニッコリと類によく似た美貌に微笑まれ、うっかり赤面しかけて顔を引き締める。
 もっと近い位置の部下だった時には、いかにも叩き上げという感じの高階は類よりずっと精悍で、お坊ちゃま風ではなかったゆえにか、それほど相似性を感じなかった。
 しかし、最近の彼はより洗練されていかにも上流階級然とした態度が際立って、よけいに類とよく似て見える。
 年齢の違う双子と言ってもいいかもしれない。
 あるいは、類から異母とはいえ、兄弟だと聞いたからよけいにそう感じるのか。
 …お兄さんなんだものね。
 「なに?」
 「え?」
 「いや、顔をジッと見てるからさ。もしかして、見惚れてる?」
 「……」
 …どうして、こう顔のイイ男は自惚れた男ばかりなの?
 以前から気さくな人柄だとは思っていたものの、F4のような傲慢さや自惚れは感じなかったのに、本来の立場に返り咲いた途端のこの物言い。
 「ぷっ、冗談だよ。自惚れてるかな?俺」
 「は?!」
 またも独り言が洩れていたらしい。
 「い、いえ…す、すいません」
 「なんか、君も表情が豊かになったね」
 「…はい?」
 「類はなおさらだけど、君もね…。初めて会った頃に比べて、随分変わったよ。類の変化が君といたことが原因だというのなら、君にとってもということかな?」
 「……それは」
 「以前に言ったよね?類の闇に引きずり込まれたくないのなら、あいつに近づきすぎないことだと」
 あれは類に気に入られていることを嫉妬する女秘書にイヤミを言われている時のことだっただろうか。
 高階に庇われ、忠告された。
 「けれどむしろ君は、あいつの昏い闇から奴自身を掬い上げてしまったようだね」





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