FC2ブログ

「昏い夜を抜けて…全483話完」
第七章 裏切②

昏い夜を抜けて319

 ←昏い夜を抜けて318 →昏い夜を抜けて320 
◇更新情報他雑文 『こ茶子の日常的呟き』へ
【君を愛するために】オススメ作品!?
ランキングもよろ(・ω-人)
ブログランキング・にほんブログ村へ
いつも応援ありがとう♪
**************************************

 「………忘れないで。たとえあんたがどんな道を選んでも、あたしはあんたの味方だから。今度こそ、あんたを支える。何も力になれないかもしれないけれど、それでもあたしはあんたの親友。他人のためじゃなくって、あんたとあんたの愛する人の為に、今度こそ頑張って」
 ドアの影に隠れながら、涙ながらに語らい、抱きしめ合う二人の女を見守り、桜子はそっと溜息をつく。
 一度は本当に眠るつもりでベッドに入ったものの、どうしても二人の友人の様子が気になって眠れなかった。
 …ちょっと飲み過ぎてしまったし、飲み物でも。
 そんな言い訳を自分にして、先ほど後にした居間へと戻ってきた。
 案の定、重く切ない語らいに、入る機会を見いだせず、再び勝手に借り受けた客間のベッドへと戻る。
 「ハァ~、冗談じゃありませんよ。夜更かしなんて、この上なくお肌に悪いっていうのに…」
 それでも、すぐには寝付ける気がしない。
 ベッド脇のサイドテーブルに投げ出してあった携帯電話を手に取り、メールを確認する。
 本来なら、けっして彼女の携帯になど送られてくるはずもないメッセージ。
 それでも簡潔に連絡事項のみのそっけない事務的な文面だ。
 「…6/28 pm.、あと10日」
 どうするつもりなのだろう、彼は。
 そしてもう一人、いまのつくしの心を勝ち得ているはずの男の動向は?
 「どうするつもりなんですか、花沢さん」
 いまだ桜子も混迷の中にあった。
 どちらの男も一長一短。
 世間的に見ればこの上なくハイスペックな男たちなのは間違いなかったが、彼女の大切な友人の為にはどう動くべきか。
 とりあえず、スマホの画面を繰り、一枚の画像を選択する。
 事務的な文面に対する返信に添付して、あえて返信する意図を彼は気がついてくれるだろうか
 「…これでちゃんと私のメールを見てくれてるか、確認になりますね。いつも一方的な命令ばかりで、利害関係なんてほとんどないのをわかってらっしゃるんだか、どうなんだか」
 ポチリと送信ボタンをタッチする。
 それは、久しぶりの女子会の楽しさと、摂取したアルコールの開放感が作り出した一つの笑顔の画像。
 ほんのりと頬を染め、明るく笑うつくしは、ここのところの苦悩を忘れ純粋に今を楽しんでいるように見えた。





 「どういうことなの」
 綺麗に磨かれた爪を口に含んで、ギリリと噛み締める。
 爪の形が悪くなるからと、若い頃に克服したはずの癖がここのところまた復活してしまったようで、醜く傷ついてしまった爪に顔を歪め、気持ちを落ち着けるために大きく息を一つ吐き出す。
 …類が戻ってこない。
 元々、志保子自身、日本にいても花沢の本宅に滞在するとは限らなかった。
 それでも息子が子供の頃は、それなりに帰ることを心がけていたが、幼馴染みの静の後ばかりを追い、少しも自分に懐かず無表情に見つめるだけの彼に焦れて、自然に足が遠のいた。
 だが、息子自身は自分の住まいに執着することもないかわりに、こだわることもなかったらしく、母親であるにも関わらず志保子への無関心は年を追うごとにひどくなっていったが、彼女が邸に滞在しようとしていまいと、あの庶民出の女と暮らし出すまでは本宅を本拠地にしていたのに。
 そしてつい最近、その忌々しい女とは別れ、女と同棲していたという汚らわしいマンションを出たと本人からも聞いていたし、実際、息子を探らせていた調査からもその実証を得ていたというのに、類の所在が知れないのだ。
 いや、正確には、転々と所在地を変えている、と言ったほうが近いのか。
 日本にいることは確かだ。
 東京の本社に毎日在所しているし、ほとんどこの本社に寝泊りをしていることも確認をとれている。
 問題はそれ以外の時。
 彼女の詮索と干渉を嫌い、思いつきで宿泊先を変えているとしか思えない。

 まり子を再び類の婚約者として、その隣に立たせたいというのにこれではとりもちようもなかった。
 類はまり子との復縁に対して激しい拒絶や反抗も見せないが、どちらかといえばそれは無視にも近く、あからさまに志保子の意向を軽んじて受け入れようとしない。
 それに業を煮やし、先日も会社に自分が会いにいく旨を告げ、まり子に適当な用事を頼んで代わりに差し向ければ、ケンモホロロに追い払われたようで、頼まれた用件を果たせなかったと謝罪を受けるハメになったのだ。
 今まで、類はまり子に興味を示すこともなかったけれど、さりとて、西門の子息とのことが持ち上がるまでは、ある程度受け入れていたように思う。
 茶道家元という由緒正しい家門の次期後継者でありながら、あの男の所業には志保子も顔を顰めていた。
 それでも西門は茶道家では確固たる地位を築いていたし、志保子の実家とも縁が深く、あれでも息子の幼馴染みだ。
 よもや総二郎に張り付いていたパパラッチに、根も葉もない醜聞をでっち上げられるとは。
 多少、そうしたまり子の軽率な行動に対する腹立ちもあった。
 けれど、今時の娘たちにはないまり子の従順さが気に入っていたし、何よりあの生意気な静に瓜二つの容貌でありながら、志保子を尊重する謙虚さも好ましかった。
 …どうして類は、まり子さんに興味を示さないの?
 あれほど静に執着していたのだ。
 あの美しい容貌に惹かれないはずはないし、あんな賢しげな女よりよほど息子に相応しい。
 「奥様?」
 息子の素行調査を頼んでいた男が不審げに尋ねかけてくる。
 「…いえ、少し考えことをしてしまいました。では、類はあの女…いえ、牧野つくしさんと本当に個人的には会っていないのですね?」
 「会社内に入ることは私もできませんので、社内のことはわかりかねますが、社外ではまったく…その兆候はありません」
 男は一瞬だけ目を泳がせたが、使用人や雇い人を対等にみなしていない志保子は、報告させる時も相手の様子を伺ったりしないので、その躊躇にもまったく気がつかない。
 ただ自分の思案にくれるだけだ。
 社内の様子は、類によってある程度側近を整理されてしまったので、以前のようには志保子の耳には入らない。
 ましてや、昨今では高階彰の目も光っている。
 …忌々しい。
 それでも、類がつくしを引き入れた専務室には、他に彼の第一秘書の三田村も出入りしているはずだし、つくしの他にももう一人女性秘書が三田村の補佐についている。
 個人的に会話することができないということもないだろうが、他に耳目がないわけではないのだ。
 西門の息子でもあるまいに、類は社内で恋愛沙汰を展開するような男でもないだろう。
 …それに。
 と思う。
 類は自分の母親のことを知っている。
 あえて彼女が語ったことはないが、息子も…そして夫も、彼女の二十数年前の罪を知って、だからこそ彼女を疎んじているのだ。
 …後悔なんかしていない。
 するはずもない。
 けれど、時折軋るような痛みが胸を走り、息子や夫の蔑むような…嫌悪に満ちた眼差しを感じるたびに、笑い出したくなってしまう。
 …私が悪いんじゃないわ。
 そう思うのに、ただ泣き咽いで、足元に額づいて自分を見てくれ、…いやそんな目で見ないでくれと懇願してしまいそうな誘惑に、ゾッと怖気を感じる。
 あの日からまるで二人の自分がいるようだ。
 冷たく心を凍えさせ、花沢の当主夫人としての誇りに満ちた自分と、孤独と罪悪感に押し潰されて情けなくも地をのたうち回っている哀れな狂女。
 …もし、また私の誉れや誇りを奪うものがいれば。
 脳裏に絶望の涙に濡れた女の顔が浮かんで、手が震え出す。
 血縁の濃さとは裏腹に、自分によく似た女の美貌。
 …あなたが悪いのよ。愛していたのに。
 「引き続き、類の動向を探ってちょうだい。下がっていいわ」
 一礼して部屋を辞する男の姿を見送ることもなく、志保子はコーヒーテーブルの上に置いてあった携帯電話を手に取る。
 「こんにちは、先日はごめんなさいね。ええ、ええ、いえ、いいのよ。久しぶりの日本は馴染めなくって。そうなの。申し訳ないけれど、付き添ってくださるかしら?」





◇更新情報他雑文 『こ茶子の日常的呟き』へ





ブログランキング・にほんブログ村へ 💛 
いつも応援ありがとうございます^^!

web拍手 by FC2






関連記事


総もくじ 3kaku_s_L.png イベント
総もくじ 3kaku_s_L.png だから今日も I'm so happy…百回分の花をあなたに
総もくじ 3kaku_s_L.png ******【司×つくし】******
総もくじ 3kaku_s_L.png 愛してる、そばにいて
総もくじ 3kaku_s_L.png 百万回の微笑みを愛の言葉にかえて
総もくじ 3kaku_s_L.png 陽のあたる処でシリーズ(短編集)
総もくじ 3kaku_s_L.png Fly me to the havenシリーズ…36話完
総もくじ 3kaku_s_L.png アネモネ…全171話完+α
総もくじ 3kaku_s_L.png ******【類×つくし】******
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編+
総もくじ 3kaku_s_L.png パッション…①24話②22話完
総もくじ 3kaku_s_L.png 陽だまりの詩シリーズ(短編集)
総もくじ 3kaku_s_L.png ****【総二郎×つくし】****
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編-
総もくじ 3kaku_s_L.png ****【あきら×つくし】****
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編^
総もくじ 3kaku_s_L.png ***【その他CP】***
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編'
もくじ  3kaku_s_L.png 倉庫
総もくじ  3kaku_s_L.png イベント
総もくじ  3kaku_s_L.png だから今日も I'm so happy…百回分の花をあなたに
総もくじ  3kaku_s_L.png ******【司×つくし】******
総もくじ  3kaku_s_L.png 愛してる、そばにいて
総もくじ  3kaku_s_L.png 百万回の微笑みを愛の言葉にかえて
総もくじ  3kaku_s_L.png 陽のあたる処でシリーズ(短編集)
総もくじ  3kaku_s_L.png Fly me to the havenシリーズ…36話完
総もくじ  3kaku_s_L.png アネモネ…全171話完+α
総もくじ  3kaku_s_L.png ******【類×つくし】******
もくじ  3kaku_s_L.png 拍手小話+
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編+
総もくじ  3kaku_s_L.png パッション…①24話②22話完
総もくじ  3kaku_s_L.png 陽だまりの詩シリーズ(短編集)
総もくじ  3kaku_s_L.png ****【総二郎×つくし】****
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編-
総もくじ  3kaku_s_L.png ****【あきら×つくし】****
もくじ  3kaku_s_L.png 拍手小話^
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編^
総もくじ  3kaku_s_L.png ***【その他CP】***
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編'
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png ストック
もくじ  3kaku_s_L.png R短編集
もくじ  3kaku_s_L.png アネモネ R
もくじ  3kaku_s_L.png 恋愛の品格 R
もくじ  3kaku_s_L.png 愛妻生活 R
  • 【昏い夜を抜けて318】へ
  • 【昏い夜を抜けて320 】へ

~ Comment ~

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【昏い夜を抜けて318】へ
  • 【昏い夜を抜けて320 】へ
にほんブログ村 小説ブログへ💛
スポンサーリンク