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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第七章 裏切①

昏い夜を抜けて306

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 「よ!」
 ガクッ。
 よりによって定時退社のエントランスは、帰宅途中の社員でごった返していた。
 意外にも不景気なこの折、大企業の花沢物産はむしろ残業は多くない。
 もちろん、それも部署によりけりだが、隣でつくしとおしゃべりに興じていた眞子が興味深げにつくしと総二郎へと視線を行き来させていた。
 「…無理だって言ったのに」
 「無理じゃねぇだろ?普通に、定時に退社してるじゃん」
 「きょ、今日はここにいる江島さんと、飲み…」
 「じゃあ、つくしちゃん、また明日ね」
 にっこり微笑まれて、口にしかけていた言い訳を飲み込んだ。
 『お邪魔すると申し訳ないから、先に帰るね』
と耳打ちされ、つくしは心の中で涙する。
 …江島さ~ん。
 だが、仕方なく明るく手を振る同僚に会釈で返した。
 「お疲れ様でした…」
 名残惜しくいつまでも見送るつくしを皮肉げに見下ろし、
 「なんか、問題あるか?」
 「…ありまくりなんですけど」
 人々の好奇心が撫でてゆく中、下手に抗えば返って目立つことになると、総二郎に促された高級車の助手席へと腰を下ろす。
 どうみても只者ではない男、普通ではない派手な車は他人の印象に残るだろうとつくしは頭痛を覚えた。
 …類にもわかっちゃうかな。
 車窓越しに、今も仕事をしているはずの類がいる最上階を見上げる。
 けれど、すぐに車が発進して、窓の明かりを確認できずにため息を落とす。
 「もう、本当に強引なんだから。メール見てくれなかったの?」
 「見たぜ?どうせ、また適当な言い訳こいて逃げるつもりだと思ったら、案の定じゃん」
 「……」
 何も言えない。
 「で、なに食う?」
 ため息一つ。
 けれど、曖昧のままではダメなことだけはわかっている。
 総二郎を友人として好きだからこそ。
 「…この前も言ったでしょ?」
 「何がだよ?」
 信号待ちのわずかな時間、チラッと視線を走らせた総二郎の目は確信的で、問いかけてはいても実はつくしが何を言いたいのかわかっているのだろう。
 …そりゃそうだよね。
 百戦錬磨は伊達じゃない。
 つくしが口先だけで何を言ったところで、彼女の心の迷いなど見破られているのだろうと思う。
 それでも…。
 「西門さんの申し出は受けられない」
 「飯食いに行くだけなのに?」
 「…わかってるくせに、わかってないフリしないでよ」
 「わかってないフリしてんのは、お前のほうだろ?お前は俺がどんなやつか知ってる」
 「……」
 「知ってるくせに、そうやって頑なに拒むのは、俺に靡いてしまいそうな自分が怖いからなんじゃねぇの?」
 「しょってるわね」
 「お前に関しては、意味は違うが、まあ、遠からず?」
 実際、総二郎との時間は気安く楽しかった。
 彼の言うとおり恋愛ではないからこそなのかもしれない。
 彼に嫌われるとか、彼にどう思われるかとか、そんな気遣いが一切いらない関係。
 「恋愛感情なんて一瞬の夢だ」
 小さく笑う総二郎はどこか自嘲的で、ずっと刹那の恋しかしてこなかったような彼にもいろいろな思いがあるのだろうことを浮き彫りにしていた。
 だが、つくしはそんな彼の個人を知りたくはなかった。
 総二郎はつくしにとって陽気な遊人で、そのくせ凛とした佇まいと真摯な姿勢で茶に向き合う尊敬できる師匠。
 そして友情に厚い古い友人で…。
 それ以外の彼に興味を持ちたくない。
 同じ間違いを繰り返すことは罪なのだともう知っているから。
 けれど、そんな彼女を知りながら、総二郎は言うのだ。
 「互いが納得してんだ、どこに問題がある?」
 「…どうして」
 「どうしてあたしなの?」
 恋愛ではなく、信頼と友情だというのなら、どうしてつくしに執着するのか、それがわからない。
 それこそ、桜子でもいいだろうし、…優紀でもいいのではないのだろうか。
 …でも、優紀は西門さんが好きなのかもしれない。
 それゆえなのか。
 つくしの懸念を読み取ったのか、総二郎が薄らと微笑む。
 「お前が好きだからさ」
 「…え?」 
 「お前ってさ、容姿も普通だし、スタイルも標準。頭はそこそこいいけど、天才ってわけでもない」
 けなしているわけではなさそうなのはわかるし、つくしだとて自覚くらいはある。
 けれど一体何を言いだしたのかと、怪訝にその秀麗な横顔を眺め、つくしは目を瞬かせた。
 「だけどなんだろうな、お前といるとおもしれぇんだよな」
 「…面白いって」
 「最初、ホント、司がお前を追い掛け回し始めた頃…」
 司の名前に、一瞬たじろぐ。
 けれどそこに他意はなかったようで、淀むことなく総二郎は話を続ける。
 「なんでああいう奴がお前みたいな女に執着するのかって、正直俺にはわかんなかった」
 「……」
 それを言うのならつくしの方だ。
 なぜ司が自分なんかを好きなのだろうと…。
 何度思ったか知れなかった。
 けれど、そう彼にぶつけるたびに揺るぎない目で、ただ彼女を好きなのだという司の目にいつしか自分も好きになっていた。
 本当にあの頃、司が好きだったのだと、こうしてなんの関わりもなくなった今だからこそ素直に思える。
 「けど、それがお前なんだよな。気がつけば懐に入っていて、どんなやつも変えちまう」
 「……」
 「どうせ決められた未来なんだと斜に構えて、適当に生きてる自分を変えたくなった」
 「あたし、何もしてないよ?」
 少なくても総二郎とはそんなに深い関わりを持ってこなかった。
 それこそ高校時代には。
 こうして身近く彼と言葉を交わすようになったのも最近のこと。
 つくしにとって、F4の中でも総二郎は一番遠い存在だったのだ。
 「お前、一生懸命なんだよ」 
 「一生懸命?」
 オウム返しにしか返せない。
 けれど、いつの間にか、横目でつくしへと微笑む総二郎から目を離せない。
 …西門さんてこんなふうに優しい顔で笑う人なんだ。
 初めて知る顔。
 「頑固で不器用で、生真面目で、バカみたいにお人好し。どうしてもっと要領よく生きられないんだと、時々どついてやりたくなる」
 「……それ、褒めてないじゃん」
 「褒めてねぇな」 
 …たしか、この人あたしのこと好きだって言わなかった?
 聞き間違いなのではないかと、自分の耳を疑い出す。
 「けど、スゲェって思う」
 「……」 
 「俺にはそんな風に生きられない。傷つくってわかってて、何かを頑張ったり突っ走ったりなんかできねぇ」
 「…あたしだって傷つきたいわけじゃないよ」
 「ああ、わかってる。でも、それで拗ねて捻くれたりしないのが、牧野つくしなんだ」
 時には逃げてしまうこともあるだろう。
 時には折れていまうこともある。
 けれど、それはいつでも自分のためではなく誰かの為で。
 唯一、つくしが見捨ててしまったのは司だけだった。
 それだけ司はつくしにとって…大切な存在であると同時に近すぎた存在なのだと総二郎は悟っていた。
 つくしが他人を決して見捨てられないのだとすれば、彼女にとって司は他人ではなかったのかもしれない。
 けれど、やはり司は他人で、そんな彼を傷つけたことをつくしは後悔し続けた。
 そんな彼女を身近に感じたのは、総二郎の独りよがりな思いだったのかもしれない。
 「お前なら信じられる。お前となら、俺も突っ走れる。そう思ったんだよ」
 「西門さん」
 「前にも言っただろ?信頼は永遠だって。そんなお前だから信じられる。恋愛じゃないからこそ、傷つけあうことなく支えあえるんじゃないか?」





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