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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第七章 裏切①

昏い夜を抜けて302

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 「一緒に、ご飯行こ?」
 にっこり。
 「え?いや、でも…」
 そう言う間に、類の後ろからまり子が姿を現し、困った顔でつくしへと会釈をしてくる。
 つくしも会釈を返すが、類の方は彼女の戸惑いも、周囲の困惑にも我関せず。
 「あ、そっか。今日もお弁当持ってきてるんだ。じゃ、それ、俺にちょうだい?」
 もはや、要望ではなく確定事項だ。
 つくしが二の句を継ぐ前にさっさと懐から1万円札を取り出し、眞子に手渡し、先ほどつくしに依頼したはずのコーヒーの注文を繰り返す。
 「おつりは適当に茶菓子でも買ってきてよ、任せるから」
 「わぁ、豪勢ですねぇ。お菓子、他の秘書課の子達にもおすそ分けしてもいいですか?」
 「うん、いいよ、お任せ」
 あっさり話がついて、踵を返す類にいつの間にか手首を掴まれていて、ギョッと仰け反る。
 …こ、こんなところ、他の人たちに見られたら。
 当然、社のエントランスでのこと。
 自社の御曹司の動向が注目されていないはずもない。
 「せ、専務!お、お使いは江島さんにお願いされたなら、あ、あたしは執務室に戻らせてもらいたいんですけど」
 「打ち合せするから却下。ランチしがてら、話したいことあるからこのまま行くよ」
 「で、でも…」
 「三田村も承知してるから平気。江島もいいよね?」
 確認を取られた眞子が、ホクホク顔で頷いている。
 「で、でも…」
 『打ち合わせ』と銘打たれてしまえば、彼の秘書であるつくしには否やを言えるはずもない。
 けれど、その存在をまったく無視されているまり子の所在な気な様子に、つくしとしてはそのまま類の言うがまま手に手を取り合ってその場を去ることなどできなかった。
 「…その、藤堂さんとのお話は」
 さりげなく類の手を手首から外して、おずおずと申し出てみる。
 だが、類の方は首を傾げ、肩を竦めてさらりとまり子へと視線を流すのみで特に感銘を受けたようでも、思い直したようでもなかった。
 「もう話終わったよね?」
 「…はい。急に伺ったりしてすいませんでした」
 「まあ、今回はうちの母があえてと言って頼んだみたいだし、むしろあんたには迷惑をかけてと俺からも謝るよ。でも、悪いけど、あんたにしろ母にしろ、会社に押しかけてくるのは勘弁してくれる?あんたからも、そう言っておいて」
 「でも、小母さまは…」
何かを言いかけたものの、類の凍えるような眼差しに口ごもり、まり子は言葉を飲み込む。
 「いえ、わかりました。では、私はこれで…」
 おそらく周囲の目を慮る意図もあったのだろう。
 まり子はそれ以上居座ることもなく、改めて一同に会釈をしてその場を去っていった。





 「ん~、いい天気」
 打ち合わせのはずが、なぜかつくしの作ってきたお弁当と、途中のベーカリーショップで購入したサンドイッチ持参で、公園のベンチに腰を下ろしている。
 平日の昼日中、さすがに会社員姿の人間は類とつくしくらいなものだったが、それそこにベビーカーを押した若い女性や老人たちが行き過ぎ、長閑な昼下がりを演出している。
 類の買ってくれたサンドイッチをつまみつつ、チラチラと視線を向けるものの、何をどう彼に声をかければいいのか、実際のところつくしはいろいろと迷っていた。
 「…で?何か聞きたいこと、あるんじゃないの?」
 「え?あ…いや、別に」
 「そう?さっきから、気になることがいっぱいです、って顔で俺の顔、見てる気がするのは気のせいなのかな?」
 もちろん気のせいではない。
 けれど、つくしの立場で、あきらかに彼のプライベートに抵触する質問をしていいのかという迷いがあって、聞くに聞けないのだ。
 …まり子さんがなんのようで訪ねてきたのだとしても、あたしには関係ない。
 …まり子さんと類との関係がどうなのだろうと、あたしには何かを聞く権利なんてないんだ。
 つきつめれば、そんなところだろうか。
 だが…。
 「藤堂まり子」
 「へ?」
 「さっきの彼女の名前。知ってるんでしょ?」
 「うん」
 つくしの弁当を食べ終わった類が、つくしが食べ余していたサンドイッチを手に取り、その一部をちぎって、周囲へと撒き散らす。
 すると、傍でたむろっていたハトがホケホケと歩いてきて、つついて食べだすのを薄らと微笑み、眺めてはまたパンを撒き散らすことを繰り返している。
 「なんか、あんたみたいだね」
 「……はい?」
 うろんな目でその秀麗な横顔を見据えると、振り返ってニコッと綺麗に微笑み返され、不覚にも赤面してしまう。
 が…。
 「食べ物見ると目を輝かして、一心不乱になるところ?」
 「……」
 この男は、人をリスだの犬だの、やたらと動物に例えたがるのはどういうことなのだろうか。
 …そりゃ、あんたみたいに天から二物も三物も与えられたような人からしたら、あたしなんて人間以下みたいなものなのかもしれないけどさ。
 憮然とした顔で睨むつくしに対して、類は上機嫌だ。
 「くっ、すぐそうやって真に受けるんだから」
 「あんたの冗談はわかりにくいのよ」
 「ま、本心だけど」
 「……」
 「悪い意味じゃないよ、俺、小動物も鳥も好きだし」
 「別にいいけど…」
 つくしも持て余していたパンを細かくちぎって、ハトに向かって投げてやる。
 穏やかな時間。
 特に何をしていないでも、そうした時間がひどく優しくて。
 思えば、これだけ見た目が王子様のように整って華やかな容姿をしていながら、類はこれといって派手やかなことよりも、こうした平凡な時間を好んでいた。
 ただ、日当たりの良い場所で昼寝をして。
 時に、散歩をして、風を感じて、季節を楽しむ。
 あまり人間臭さを感じない男だったが、極めて地に足がついていて、他のF4の三人たちとは持っている空気からして全然違っていた。
 「…面倒臭くなければ、それでいいって思ってたからさ」
 「え?」
 「静じゃないなら、別に誰と結婚したって、子供作ったってかまわない。ただ昼寝して、なんとなく毎日が過ぎていけばそれでもいいかって思ってたんだよね」
 類の言葉につくしは目を瞬かせた。
 人からみれば羨まれこそすれ、そんな厭世的なセリフを吐くような立場にいる男ではないだろうに、つくしにしてみればそんな彼が容易に納得できる。
 特に欲望もなく、ただぼんやりと毎日を過ごしている『花沢類』。
 静だけが、そんな彼の毎日を唯一彩る花で。
 「だから別に藤堂まり子でもいいかと思ってたんだ」
 「……」
 「苗字からもわかると思うけど、彼女、静の従妹なんだよ」
 「…うん、顔も似てるよね」
 「そうかな?」
 「年が近かったらもっとそっくりだと思うけど、最初お会いした時驚いた」
 「そ?」
 「…うん」
 そして、類と並んでいる姿はあまりにお似合いで、いつか見た…類と静、二人の世界を彷彿とさせ、胸に軋むような痛みを蘇らせた。
 「ま、確にあんたと静よりは似てるかもね」
 いつの間にか俯いてしまっていたつくしがハッと顔をあげる。
 そんな彼女を見る類の顔は、揶揄るわけでもなくもちろん蔑むものでもなかった。
 「でも、そんなの顔の皮一枚のことでしょ?あんた、俺の顔が好きなの?」
 「ええっ」
 驚くつくしをよそに、だが、そこを特に言及したかったわけではなかったらしく、類はあっさりと話題の方向性を戻す。
 「母や総二郎たちなんかは、なんか誤解してたみたいだけどね」
 「……でも、少しは心が動くことはなかったの?」
 「ないよ、俺、面食いじゃないもん」
 そういう意味ではなかったが、じゃあなんだと言われても、さきほど顔の皮一枚のことだと言われたのだ。
 黙ってしまったつくしに、類が目を瞬かせ、
 「でも、あんたは可愛いよ」
 「…いや、そんなこと気にしてないし」
 してないわけではないが、いまさらだ。
 「そんなこんなで、母としては彼女の容姿で俺を釣りたかったみたいだね。ちょうど、家柄的にも釣り合いがとれてるし、母の意のままになりそうな彼女の性格が気に入ったんだろう」
 「……」
 「でもま、いろいろあって、彼女との縁談が破談になって、あんたも知ってる高坂美也子を父に勧められて…、ああいう結果になったわけだけど?」
 詳しい経緯は知らないが、そこに総二郎が関わっていたらしいことはなんとなく聞いていた。
 世間の噂から、雑誌等の情報から。
 もちろん、彼らを個人的に知っているつくしとしては、あの総二郎が親友である類の婚約者に手を出すとも思っていなかった。
 けれど、じゃあ、どうしてと言われれば。
 「高坂美也子のことは元々母の預かり知らぬことで、婚約が破談になっても藤堂まり子の方を母は押していた。高坂美也子との婚約破棄を契機に、どうやら母は俺と藤堂まり子との復縁を画策しているらしいね」





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