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「アネモネ…全171話完+α」
第四章 Glass Heart

アネモネ167

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 「…牧野って、類」
 「おいおい」
 司の動向をビクビクと伺いながら、総二郎とあきらが二の句を告げずに口ごもり黙り込む。
 爛々と敵意と嫉妬を目に類を睨み据える司も、自分がなぜ気乗りしたわけでもなかったのに、今日この場にやってきたのかを初めて自覚する。
 「でも、ずっとOKもらえなかったからさ。俺も日本離れられないでしょ?」
 「…それって」
 とりあえず司が暴れだす気配をないことを確認して、おそるおそるあきらが話の穂を繋げる。
 「まさか、牧野、お前と一緒にフランスに行くことに承諾したってことか?」
 「返事はもらった」
 「「「……っ」」」
 三者三様、場の緊張感を感じていないわけではないだろうに、飄々と類が、次の酒を勝手に手酌で継ぎ足して、今度はゆっくりと口に含んで喉を潤す。
 皆が固唾を飲んで、そんな彼が次のセリフを吐くのを黙って見守っていた。
 「はあ、喉渇いた。今日、かなり暑かったよね。あっちは日本と違って湿度が少なくて、夏が過ごしやすいからそれだけは良かったよ」
 ガタン。
 全員の視線が、立ち上がった司へと集まる。
 もはやなんの表情も浮かべていない冷たい眼差しで、司は一同へと視線を流して一言告げた。
 「帰る」
 「…え?もう?」
 「そ、そうか」
 結局、気まずくなってしまった空気を打開できずに、総二郎とあきらも諦め、司を黙って見送る。
 「…帰るんだ、司」
 「ああ、お前とは違い、ギリギリまで仕事があるからな」
 「いいの?」
 含んだ物言いの類の言葉に、司は黙したままで鋭く眼光を返す。
 並の人間だったら怖じけてしまう眼力も、幼馴染みの類には通用しない。
 いや、総二郎やあきらでさえたじろぐことがあるというのに、この男だけは昔から司の言動に動じたことなどあっただろうか。
 氷と炎のように。
 まるで真逆な個性と性格の二人だったのに、不思議に互いの虚無と孤独がよく似通っていた。
 だが、司はいつまでも闇の中に留まって虚無に膿み生きることに飽いて、荒れすさんだ。
 一方、周囲を拒絶して静以外の人間に興味も示さず、壁の内側に蹲っていたはずの類は、その唯一執着していた『静』からでさえも巣立ち、光を手に入れ前へと前進していたのだ。
 …なぜ。
 そう思う。
 …どうして。
 その疑問の答えを、司はわかっていた。
 だが、だからと言って、自分の中の不可解な感情や焦燥を司は認めることができない。
 なぜなら、それは今の自分の崩壊を意味している。
 現在の自分を壊して、手探りで新しい自分を受け入れることなのだと本能で理解していた。
 人は自分を変えることは容易にはできない。
 変わる恐怖に耐えられず、変わろうとすることよりも今の自分に固執する方が楽なのだから。」
 「それでお前はいいの?」 
 「…なに言ってんだか、わからねぇな」
 「本当はわかってるくせに、わからないフリするのは臆病だからだろ?昔のお前はもっと勇気があったと思うけど、今のお前はまるでダメダメだね」
 フザけた類の物言いに、司の唇の端に嘲りが浮かぶ。
 いや、嘲ろうとしたのに、固まった唇が震えて舌打ちするのみで、顔を背けて踵を返した。
 「…本当は、俺に会いに来たんでしょ」
 踏み出しかけていた司の背が、ピタリと止まった。
 「いや、違うか。牧野のことが気になって、彼女のことが聞きたくて、この忙しい時期にわざわざあきらの呼び出しに応じたんだろ?」
 総二郎とあきらが無言で顔を見合わせ、司の背を見守る。
 「どうして、追わないの?」
 「……」
 「そんな顔色してさ、お前、ホント、退化したよね。バカじゃない?」
 嘲る言葉にも振り返らない。
 それでも構わず、類は一人言葉を続ける。
 「俺は、あいつが笑ってる顔が見たいし、泣いてる時は抱きしめてやりたい。それが『愛』ってやつなんじゃないの?」
 ピクリと動いた顔が、くくく、と嘲笑う。
 「愛だとかなんだとか…アホらし、勝手にやってろよ」
 「牧野、泣いてたよ。顔は笑ってたけど、悲しんでた。…俺、あいつの本当に笑った顔また見たいんだよね」
 だが、司はもう、類のその言葉に二度と振り返ろうとはしなかった。
 頑なな背中が拒絶していた。






 司の去った後の彼らの間に、なんとも遣る瀬無いような、気の抜けた空気が流れた。  溜め息を吐き、あきらが人数分のウィスキーのロックを作って、それぞれに手渡す。
 「…サンキュー、でも今日はこれでもういいよ。さすがに疲れたから、俺、そろそろ帰るし」
 「マジかよ、今来たばかりじゃねぇか」
 引き止めるあきらの言葉に、類は肩を竦める。
 「つーか、類、お前こそ、司に会いに来たんだろ?」
 穿つ総二郎の言葉には、類も誤魔化すこともなくあっさりと頷く。
 「まあね、不抜けたアイツにはいいかげんうんざり」
 「…お前、牧野にプロポーズしてるんだろ?」
 「俺、お前らに言ったっけ?みんなよく知ってるよね」
 「何言ってんだか。前回の飲み会の時に、女どもにお前が言ったじゃねぇか。あの時の司の顔、凄かったんだぜ」
 あきらも思い起こして同意する。
 「だよな~、どう見ても、昔の嫉妬バリバリの奴の顔そのまんま」
 「あいつらってさ、ホント鈍いよね。傍から見てれば一目瞭然なのに、どうして本人たちが一番わかってないのかな」
 だが、そういう類のことこそ、総二郎やあきらにはわからない。
 司への言葉は類の激励だったのではないか。
 しかし、類もまたつくしを愛しているのではなかったか。
 プロポーズしたくらいなのだから、…いや、そうでなくても、彼がずっとつくしを愛してきたことを仲間内で知らないものはいなかった。
 時々…司ではなく、類をつくしが愛したなら、初恋の想いを復活させることができたなら、と仲間たち皆が思わなくもなかった。
 きっと、そうであればつくしも幸せになれただろう。
 類は男として司に劣る男ではなかったし、つくし自身も類に好意を抱いていたのだ。
 司は大切な親友。
 けれど、彼らにとって類もまた大切な親友であり、つくしは大切な仲間だった。
 「さっきの…、司に言ったセリフ」
 「ああ、あれ?」
 ふっと類が思い出し笑いのように噴き出す。
 けれど、そこには複雑なものが含まれていて、どこか儚く寂しげだった。
 「昔、司が俺に言ったセリフ」
 「…司が?」
 「そう、昔、フランスに行った静とどうなってるのかって聞かれて、彼女の邪魔したくないし、押し付けるのが愛情じゃないって言ったらさ」
 「そうしたら?」
 「お前は間違ってるって怒鳴られた。で、さっきのセリフ。それが愛情なんだってさ」 「へぇ」
 「司がねぇ」
 昔の司は本当に今の彼とは違っていた。
 だが、それさえも、つくしゆえに変わっていった結果だったのだろう。
 一人の女と出会い、一人の女ゆえに成長して、誰もが目を見張るほどに輝いている男になった。
 それが一瞬で変わったのだ。
 まるで蝶が蛹から羽化した姿を逆回しに見たかのように。
 一人の女の存在がこんなにも誰かのことを変えてしまうことがあるなんて。
 …けど、それが司だからだったんだろうな。
 そして、つくしだったからこそ。
 二人の運命を信じたいと思うのは、彼らのエゴなのか。
 「でも、お前は?類、お前はどうなんだよ」
 「なにが?」
 「お前がそういうふうに、自分が牧野を抱きしめてやりたいってそう思ったことはないのかよ?」
 「…ないわけないじゃん」
 できることなら、類自身がつくしを抱きしめたいと何度思ったことか。
 笑わせてやりたいと思い続けてきた12年間。
 実際に笑わせてやれた時も確にあっただろう。
 けれど、どんなに類が努力しても、つくしの笑顔は昔の輝くような笑顔には戻らなかった。
 どこかいつも寂しそうで、苦しそうで…明るい笑顔の裏側に、哀しみが滲んで。
 …笑ってよ、牧野。
 昔の笑顔が見たい。
 本当に屈託がなくって、楽しそうに輝くような笑顔。
 そんな笑顔を引き出せる男は、司しかいないのに…。
 「押し付けるのが愛情だとは今も思わないけど…でも、牧野はそんなあいつに惚れたんだ」
 「…類」
 「……」
 「牧野が泣くたびに、無理して笑うたびに、あいつが俺のことを好きだったら、て、そう何度も思ったよ。でも、泣いてる理由ですら、司のせいなんだよね」





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