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「アネモネ…全171話完+α」
第四章 Glass Heart

アネモネ165

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 「本日は、河野商事の川村専務との会食になっております」
 結局日本に帰ってもやることは、挨拶回りくらいなもので、だがそれだとて、新旧勢力を争う彼にとっては重要な顔繋ぎに他ならない。
 「…代表?」
 ここ2週間で、司の頬がこけた。
 元々余分な贅肉など持ち合わせがない男なのだ。
 病的に顔色の悪い青年の顔に、西田は既視感を覚える。
 『眠れねぇんだ』
 そう話したのは、ついひと月ほど前にも思えるが、思い起こせば、財閥の跡取りとして正式にNYへと来たばかりの時期こそ酷かったのだ。 
 不眠、不安、無気力。
 与えられた仕事や学業は卒なくこなすものの、まるで地獄からやってきた幽鬼のような生気のない顔にゾッとしたものだ。
 …あの頃は違った。
 楓に命じられ、つくしとの仲を裂くべくさまざまな調査を行ったのは西田だったのだ。
 写真の中の少年は、輝いていた。
 ホンの幼い頃からの飢えたような凶悪な顔をした少年はそこにはいなかった。
 年相応の明るさと生きる喜びがあった。
 一人の少女が。
 一見ごく平凡な一人の小娘が、この男に与えた影響はいかばかりのものだったのか。
 一人の人間の再生を目の当たりにして、そしてその光を失った時の人間の転落をも見せつけられたのだ。
 おそらく財閥的には、今の司の成長は望ましくないものではないのだろう。
 けれど、一人の人間としての彼は…。
 プライベートでさまざまな問題を起こしては、それをもみ消し。
 だが、やがてはその実力でそんな醜聞さえも捩じ伏せていった。
 今やその母である楓にさえ比肩する権力を携えて。
 しかし、そんな強大な獅子に成長したはずの彼を見るたびに、危うさを感じるのは西田だけはなかったはずだ。
 つくしとの仲を反対して、半ば引き裂いたはずの楓さえも理解していたのだろう。
 『…牧野さん、警察にいるんですってね』
 12年ぶりに楓の口から出た名前に驚いた。
 『司が日本に行くそうよ』
 どんな恣意がそこに働いたのかは西田にも知りえない。
 だが本来ならけっしてもう司の前に現れることもないはずの彼女が、再び現れた。
 生き生きとした女性に成長したつくしは、相変わらず地に足がついて、強く逞しく生きる喜びに満ちていた。
 そこにどんな哀しみがあったにせよ、あらゆるものを手にしながら歪んで闇に沈んだ司とは裏腹に。
 まるで花が開くように。
 太陽が東から西に登って沈むのが当たり前だというかのように。
 司がつくしに惹かれ、変わってゆくのを再び目の当たりにして、一人の人間のちからというものの凄さを西田も実感させられた。
 そして…。
 再び、彼女は去った。
 「…会食の後、予定を繰り上げて、今日はお早くお帰りになっては?」
 「なんでだ?どうせ、邸に戻ったところでやることがあるわけでもねぇよ。後2週間もすればまたNYに戻らなっきゃなんねぇし、できるだけの案件に目を通してゆくから、ドンドン持ってこいよ」
 指示を出す間も司の目は、書類から一時も離すことがない。
 見上げた経営者魂とも言えるが、ある意味病的だった。
 人間は機械ではないのだ。
 息をつくまもなく仕事に没頭することなどやりえない。
 それでも、司がこの12年間をやってこれたのは、浴びるような酒とエンドレスに吸い続けるタバコ、一時期は依存していた睡眠薬…ここ数年はそれらのかわりの女性との交渉、そしてこの非人間的な仕事のスケジュールだったのだ。
まるで、遅効性の毒のように、彼の精神と肉体を蝕む激務は司に何も考えさせない効用があった。
 眉を潜めつつも司は西田の上司であって、彼を心配する立場ではない。
 けれど…。
 そう思う。
 このままでは、いずれ注ぎすぎた酒が杯から零れ落ちるように、この男の破滅が目に見えるようで。
 「…あれ」
 「は?」
 ふと、車の窓の外へと視線を移した司の目が、一点を捉えて首を傾げた。
 珍しく仕事以外のことに気を取られ、目を眇める司に、西田も注意を向ける。
 「どうやら九州の物産展を行っているようですね。最近では、デパートも生き残りをかけてさまざまな戦略を展開するようになっています。催事場での物産展などは特に人気があるようですよ」
 門外漢ながら西田もある程度、さまざまな業種の事情や知識を持ち合わせている。
 物産展とは任意の地域を限定して、その産物を紹介・販売するイベントで、古くは1800年代に早くも登場していた。
 それが近年のサブライムショックやリーマンショックを発端とする未曾有の金融大恐慌の煽りを受け、国内消費の低迷に伴い売上の落ち込んだ百貨店各種が挽回策として力を入れ始めた打開策の一環だったのだ。
 だが、司が見ていたのは、そんな企業的戦略に関することなどではなく。
 「ラーメンとかもやってんのか?」
 「…ラー、メンですか」
 西田らしくもないことに、思わず言葉を途切らせたのは、むしろ意外な人物から意外な名称がでてきたからだ。
 「博多ラーメン。九州の七代ご当地名物とかいうやつなんだろ?」
 「はあ。おそらく、ラーメンなどは各地でかなり多彩な調理法を考案されている食べ物ですし、日本人の国民食と言われるほど人気の高いものですから」

 そうでなくても、北の札幌ラーメン、南の博多ラーメンと並び称されるくらいだ。
 九州と銘打った物産展で博多ラーメンが外されることはないだろう。
 「お寄りになられますか?」
 なぜかそう訪ねていた。
 あまり時間的余裕もなく会食の予定が入っていたというのに、なぜか司の横顔にそう言わずにはいられなかったのだ。
 「いや…聞いただけだ」
 「そうですか、よけいなことを申し上げまして、申し訳ございません」
 司と西田の二人。
 後は、黙々と互いの仕事へと没頭した。




 …馬鹿なことを。
 あれは、司の操縦するクルーザーでつかの間のふたりっきりでの海の散歩を楽しんでいた時のことだっただろうか。
 彼に膝枕をしていたつくしが、ふと岸辺を眺めて呟いた。
 『ラーメンが食べたかったな』 
 司にしてみればそんな庶民的な食べ物など馴染みもなく、ロマンチックな雰囲気をぶち壊すつくしの突拍子もない言葉に唖然としたものだった。
 …食い物だけだったな、あの女を喜ばせられたのは。
 テーブルマナーはさすがにかなり仕込まれそれなりだったが、美味そうに食べるその顔は見慣れた上流階級の女たちはまるで違って、いつも司の食欲までも引き出した。
 飯が美味いと笑って、彼が馬鹿なことを言うと笑った。
 彼が喜ばせようとどんなものを買い与えようと大して喜ばないのに、些細なことで嬉しがって、彼の言葉を楽しそうに聞いていた。
 顔を合わせれば口喧嘩ばかり。
 素直な女じゃなかったけれど、つくしは情の深い女だった。
 『女は情が深い方がいい』
 誰の言葉だったか忘れたが、聞いた時には鼻で笑ったというのに、つくしを思い起こす時にはいつもそんな形容詞が思い浮かんで嘲る気持ちになれなかった。
 …食わしてやれば良かった。
 好きなところへ連れて行ってやれば良かった。
 そうすれば、今も彼女は自分の傍で笑っていたのかと埒もないことを考えて。
 つくしの顔が脳裏から消え去ってくれない。
 彼が与えたものを否定して、彼ではなく過去の彼だけしか見ていなかった女なのに。
 生まれた時から馴染んだ邸がどこかよそよそしかった。
 つくしと過ごした部屋がまるで見知らぬ部屋のように冷たくて。
 …全部置いていきやがった。
 何もかも、彼からは受け取らないと言ったとおりに、何一つ受け取ることなく、未練もなく去っていった女。
 それなのに、彼女の素肌の感触が消えてくれない。
 彼女の声が。
 彼女の微笑みが。
 彼女の温もりが忘れられない。
 …寝れねぇ。眠れねぇんだよ。
 お前のいない世界は暗くて、冷たくて…寂しいのだと言えない司は、ただただ虚ろな眼差しで虚空を見つめていることしかできないでいた。





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