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「アネモネ…全171話完+α」
第四章 Glass Heart

アネモネ164

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 ひとしきり涙にくれて、類の珍しくスムーズな運転に身を任せながら、窓ガラスにポツンポツンと雫の痕を作る水滴を見るともなく見守る。
 滲む視界の向こうに通り過ぎる傘をさす人々は、誰も彼も忙しなく歩みを進め、悩み事などないように思えた。
 けれど10人いれば10人、100人いれば100人だけの悩み事も悲しみもあるのだろうと妙にシリアスに考えてしまう自分を小さく笑う。
 外の景色を眺めながら、けれどその目に映るのはいつの間にか目の前の悲喜交々な赤の他人の人間もようではなく、今目の前にはいない一人の男の面影。
 …そういえば、あいつと再会する直前にも類が迎えにきてくれたっけ。
 と思い起こして、それさえも懐かしい。
 どんな人波にも人混みに埋もれても、司の姿は彼女の目に鮮やかで、ひと目で見つけることができた。
 12年ぶりに再会した道明寺HDのエントランス。
 たくさんの人に囲まれ、心の奥底で自分を見てと願った彼女の視線に気がついたように彼がこちらを見てくれた。
 けれど、ふと流された司の視線が彼女を撫で、けれど無表情に何も感情も浮かべずに通り過ぎて落胆した。
 西田との会談に突然現れた司。
 彼女に警察の犬は去れと冷然と言い放った。
 たかが女と嘲る顔が、つくしの拳を受け、意外さに目を瞬かせた。
 まるで人形から人間へと。
 ただ冷たいだけで感情のなかった顔に、少しづつ表情が戻ってゆくのに心が震えていたのを彼は知らなかっただろう。
 まるで走馬灯のように、司との再会からこの三ヶ月が思い出されては通り過ぎてゆく。
 
 ニヤリと笑うセクシーな眼差し。
 彼女をベッドで翻弄した淫らな指先と手技。
 不思議に思い出すのは高校生の時の司ではなく、現在の…再会してからの彼の姿ばかりなのはなぜなのだろう。
 あれほど過去の彼にこだわっていたというのに、なぜか逢いたいのは今の彼で。
 雨に濡れた彼女をバスタオルで包んで、甲斐甲斐しく世話をしてくれた真剣な顔。
 命懸けで彼女を守ると言ってくれた。
 二人で見た星空は本当に綺麗で、きっとあれ以上に綺麗なものなんて、もう二度と見たりできない。
 少しづつ彼が笑うようになっていたのが本当に嬉しかった。
ムカつくくらいに傲慢で勝手なオトコなのに、彼の甘える仕草が可愛くて、触れてくる温もりに涙が出そうなほど愛しいと何度も何度も思った。
 …好きよりも愛してる。
 …愛してるよりも、逢いたい。
 別れたばかりなのに、逢いたくて逢いたくて、本当に逢いたくて。
 「…牧野」
 「ん、…な、に類」 
 答えた声が湿っていたのに気がつかれただろうか。
 あんなにも泣いて泣いて、泣きじゃくったのに、ホンの少し油断するだけですぐに涙が溢れてくるなんて。
 まるで涙腺が壊れてしまったんじゃないか。
 それでも、きっと、この優しい人は見て見ぬふりをしてくれることはわかっていた。
 「俺さ、ずっとお前を待ち続けられるよ。だから、もし今のままで辛いのなら、俺と一緒にフランスに行かない?」





 1週間のNY出張は、特になんの滞りもなく終えた。
 あれほど面倒だった渡航だったが、いざ行ってみれば特に日本に居ても、アメリカに居ても大して違いはないことに気がつく。
 いや、思い出した、というべきだろう。
 …あたりまえじゃねぇか。
 この12年かずっとそうだったのだから。
 どこにいても司の日常にはなんの変化もなかった。
 ただ仕事をして、眠って、仕事をして。
 ただ生命を維持するためにだけ、最低限の食事を摂取して。
 そこに楽しさも喜びも、幸せなんて考える余地もない。
 時折カラダが必要としているから、適当に性欲処理の女を調達するだけ。
 それでもスリルがそんな彼の日常に僅かな刺激を与えてくれて、まるで悪夢の世界にいるような曖昧な苦痛を緩和してくれていたのだ。
 だがやがてはスリルにも慣れてゆき、多少のスリルにも尖った神経を麻痺させることができなくなっていた。
 もしそれでさえも苦痛を耐える縁にできなくなってしまえば、どうやって生きてゆけばいいのだろうかという心配さえどこか遠かった。
 生きているのが辛いのに、それさえもどうでもいい。
 ずっとそうやって生きてきたのに、それがなぜ、今こんなに耐え難いのだろうか。
 仕事を終え、息を抜いた瞬間、部屋の広さに愕然とした。
 適度に整えられた空調は寒くも暑くもなく、不快に感じる余地など絶対にありえないことなのに。
 どこにも、あの女のいた痕跡がない。
 あたりまえだ。
 NYであの女がいたことなど一度もなかったのだから。
 だが、たとえ日本に戻ったからといって、あの女がいた証がどこにあるのだろう。
 …くっ、とうとう俺もイッちまったのか。
 あの女は司の作り出した妄想だったのかもしれない、そんなことを思う。
 そうでなければ説明がつかない。
 この道明寺司を拒む人間がいるなんて。
 …俺が足元に額づいたんだぞ。
 そうだ。
 あれは全面降伏だったのだ。
 お前が欲しいと。
 何度も何度も、伝えたのに突っぱねられた。
 ただ一人生まれて初めて自ら欲しいと望んだ女が、彼を捨て、彼を顧みなかった。
 …そんなわけねぇか。
 だが、すぐに思い直す。
 自分もまたああいう女がただ物珍しくて、血迷ってしまっただけなのだと。
 人間は、スリルが過ぎると勘違いをする生き物なのだ。
 ただの衝動と生物の本能が、『恋』だの『愛』だのと妄想を生み出しただけにすぎないだ。
 熱情が覚めて冷静になったら、どうせすぐに飽きてしまったに違いないのだ。
 そう思う端からお馴染みの虚無感が蘇ってくる。
 どこまでも底がない深い深い闇へと引きずり込まれてゆく既視感。
 手のひらの中から、大切なものが零れ落ちる恐怖に身を震わせた。
 「…は、バカバカしい。あんな女の代わりなんていくらでもいるさ」
 これまでの人生でそんな人間なんて現れなかったのに、うそぶいて強がりを言って、脱いだジャケットをソファへと無造作に投げ捨てる。
 白い手がそのジャケットを拾い上げる幻視から目を背けて、使用人に酒の用意をさせておいた酒のグラスを掴む。
 手の中の琥珀色の酒が、すべての憂いを押し流してくれるのを期待して。
 『バカね、そんな無茶な飲み方して。明日、辛くなっちゃうよ』
 呆れたような女の声が、耳元で心配そうにたしなめた気がした。






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