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「アネモネ…全171話完+α」
第四章 Glass Heart

アネモネ158

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 車が乗り入れたホテルは、司の定宿のメイプルではなく、成田空港直近の4ツ星ホテル。
 メイプルよりもわずかに格式に置いて劣るが、つくしの目から見て十分比肩する豪華さ。
 司が今晩の宿に選んだのは単純に、明日NYに発つための利便性からだっただろうが、腰を抱かれて人々の間を闊歩するつくしにしてみれば、いつ道明寺楓に会うかと戦々恐々とした気分にならないだけ、ずっと気楽だった。
 …いまさら、道明寺のお母さんに会ったからと言ってどうということはないだろうけど。
 それをいえば、道明寺邸に滞在すること自体プレッシャーだったが、なぜか楓に会う可能性がある場所は邸よりもホテルの方がありえそうな強迫観念がある。
 「なんだよ?」
 「え?」
 「ずいぶん堂々としてんじゃん。メイプルだとやたらとキョロキョロしてやがるくせに、さすがにド庶民のお前もこういうところに慣れたかよ?」 
 「…まあ」
 司がホテルのエントランスに足を踏み入れたとたん、あらかじめ連絡を受けていたのだろう総支配人が出迎え、恭しく自ら部屋へと案内する。
 まるでその場を支配する権利を行使する王者のような堂々とした佇まいで、周囲を圧倒する男を惚れ惚れと見つめ、比して自分の平凡さに苦笑する。
 誰が何を言わなくても。
 たとえ、肩を叩き合い噂し合う人たちの、視線がなくてもわかっていた。
 …彼にあたしはそぐわない。
 …そしてあたしには彼はそぐわない、のだと。
 「行くぞ」
 ぼんやり佇むつくしを怪訝に見下ろし、司が首を傾げた。
 「…うん」





 部屋はさすがにロイヤル・スウィートルーム。
 「…ちょっと、埃っぽいな」
 どうせすぐディナーに出るというのに、珍しく司が一人でシャワルームにこもったので、つくしは空港側に開かれた巨大な窓に歩み寄った。
 「すごい」
 すでに日は傾いて、夕焼けが美しい。
 次々に戻ってくる飛行機の誘導灯が、まるで一筋の光の川のように点灯しだす様に見惚れる。
 司と出会うことがなければ知ることがなかっただろう眺め。
 彼と出逢うことでさまざまなことを知った。
 熱い恋も、身を振り絞られるような想いも、哀しい別れも…。
 「なんだよ?まだ着替えてなかったのか」
 「…うん」
 「すぐに飯食いに行くんだろ?」
 急かされても動く気になれなかった。
 「うーん、どうしようかな」
 「珍しいな、お前が飯食うのに二つ返事で応じないの。まだ腹減ってないなら、プールでも行くか?」
 「プール?」
 あまり心惹かれない。
 かといって、何をしたいでもない。
 ただまだ、もう少し、この時間を引き伸ばしたかっただけなのかもしれない。
 「何見てんだ?」 
 「…ん、綺麗だなって思って」
 ガシガシとバスタオルで髪を拭きながら、司が窓に張り付くように景色に見入るつくしの横に立つ。
 「ふん、別に珍しくもねぇ」
 四六時中、世界中を仕事で飛び回っている司には、確に感慨深いものではないのだろう。
 彫刻のように美しい横顔。
 伏せられた睫毛の濃い影。
 すでに体臭になってしまった懐かしいコロンの香り。

 大人になった証のように、彼が身にまとうようになったタバコの匂い。
 同じ人間であることが信じられないほどに整ったスタイル。
 ふいに…。
 本当になんの前触れもなく、唐突に湧き上がった想い。
 突き上げるような愛しさに駆られて、込み上げてくる涙をそっと飲み込む。
 気がつけば、日が落ちて幻想的なイルミネーションを展開する景色ではなく、司を見上げ見つめていた。
 「どうした?」
 「…道明寺」
 彼の名を呟いたのは無意識で、そこにある意図を読み取ったのは司で。
 伏せた瞼にビッシリと生えた長い睫毛が綺麗だといつまでも眺めていた。
 チュッと軽く触れるだけの口づけ。
 現実味がないそれを、つくしがもう一度すがり付くように追いかけ、口づけを交わし合う。 
 「……ハァ」
 溢れた吐息はどちらのものだったのか。
 ただ、これだけはわかった。
 今二人が求めているものを。
 「あんたと寝たい」
 「…つくし」
 「あんたとセックスしたいの」





 キスをしたまま、ひざ裏を抱き上げられ横抱きにベッドに運び込まれ、のしかかられる。
 顔の両脇に両手を付いた司が、彼女の髪を撫で目を見つめ、何度となくキスをくれた。
 司の濡れて真っ直ぐになった髪から、ひと雫の水滴がつくしの頬を伝い落ちて、ふと目を瞬かせる。
 「…あ、そうだ」
 首筋に吸い付いていた男の唇に手を当て、静止する。
 その手さえも捕らえられて、チュッ、チュッと軽いリップ音を立てて口づけを受けた。
 「ん……ちょっと、待って」
 唇が手のひらから手首、肘を伝って脇の下に潜り込む。
 「だから、ちょっと待ってって」
 「なんだよ」
 今度こそ両手で顔を持たれ、阻止されて不機嫌に睨みあげられる。
 「シャワー…、あたしまだ浴びてない」
 「は?いまさらだろ?」
 「あんただけシャワー浴びてとかって、……ぁ…あん…ダメ…んん」
 言葉の途中で、服の中に潜り込んできた唇に邪魔される。
 「いい。後でまた一緒に浴びようぜ」
 「…はぁ…………ぁ……」
 「お前の汗の匂い、すげぇ萌える」
 器用な指先が一つ一つボタンを外してゆき、現れた素肌を隙間なく口づけ、イタズラに赤い花を落とす。
 「ぁ……痕…んん……」
 「…見えるところにはつけねぇよ。それでいいよな?」
 頷きながら、でもつくしは制止ではなくつけて欲しいと願いたかっただけ。
 司の証。
 いずれ消えてしまう。
 けれど、今はただ彼のものになりたかった。
 彼の手を憶えていたい。
 彼の熱い吐息を憶えていたかった。





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