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「アネモネ…全171話完+α」
第四章 Glass Heart

アネモネ156

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 「…マジかよ」
 一礼する運転手に頭を下げ、 去ってゆくリムジンを見送って、ぼやく司へとつくしが片手を差し出す。
 「?」
 「手。デートじゃなかったっけ」
 珍しいつくしからのアクションに司が目を瞬かせ、顔を赤く染める。
 そんな男が珍しくて、マジマジ覗き込んでくる視線に、よけいに照れまくって片手で口元を抑えて横を向いてしまった。
 「…てめぇ、何見てんだよ」
 クスッと笑うつくしが、妙に余裕があってムカつく。
 「いや、こんなことであんたがテレたりするんだなあ、って」
 「誰がテレたよ。なんだ!その顔はッ。勘違いすんじゃねぇよっ」
 「はいはい。別にどっちでもいいよ」
 うるさくなりそうだったので、さっさと先を行く。
 だが、一歩、二歩進んだだけで、腕を掴まれ、振り向けば…、
 「手、繋ぐんじゃねぇの?」
 「ああ、うん」
 嬉しそうに微笑むつくしが可愛い。
 …なんだよ、こいつ、今日は随分積極的じゃね?
 服を買ってやってる時にはそんなに乗り気な感じでもなかったのに、車を降りてからのつくしはニコニコといやに素直で可愛い。
 「あ、ねぇねぇ、今日はどこでランチするの?」
 キョロキョロと視線を彷徨わせていたつくしの視線が、おしゃれなイタリアンの店で止まってキラキラしている。
 つくしにしては珍しい司好みのそれなりの高級店だ。
 「あそこにすっか?」
 「いいの?」
 「ああ」
 嬉しそうに笑う彼女に満足する。
 本当は服を買った後は、貴金属を買い与えるつもりだったのに、つくしが難色を示したのだ。
 『今日はあたしが選んだ場所に連れて行ってくれるんでしょ?』
 確に、そういった手間、我を張って彼女の気持ちを害したくなかった。
 司が女の気持ちを慮るなど初めてのことだったが、不思議に嬉しそうな彼女の顔を見ているだけで不満は消えた。
 …選ばせたいもんもあったが、まあ、NYの方が品揃えもいいか。
 今度は以前買い与えた時のような、単なる作り置きなどではなくデザイナーズの一点ものをつくしの為に作らせるつもりだった。
 たかだか庶民の女にという気持ちと、そういう趣向も面白いという気分と、本当はそんな建前ではない甘酸っぱい想いと。
 欲しいものを手にいれるのに、これまで努力などしたことがなかった。
 結果はわかってはいたが、それでもそれまでの過程を楽しむという経験が面白い。
 ふと自分を見上げるつくしの視線に気がついて、見返す。
 「…なんだ?」
 「いや、あんたがスーツ以外っていうのが珍しくてさ」
 「お前がカジュアルなのにしろつーたんだろ?ランチくらいは、まあいいが、これじゃあ、ホテルで飯食うのは辛いから、一度部屋戻って着替えてからだな」
 まあ、司の場合顔パスなので嫌がられるということはないだろう。
 だがメンツというものがある。
 司自身、日本に戻るまでオフというものとは縁遠かったので、カジュアルスタイルも本当に久しぶりだ。
 …たいていの女は、贅沢好みなもんだけどな。
 司とのデートといえば、物を買わせるのがメインで、後は美味い食事に雰囲気のあるバーでアルコール、後はせいぜい綺麗な夜景で雰囲気のあるセックス。
 間違っても女の為に、自身で車を運転することなどなかったのだ。
 そもそも司が気を遣うような女など、仕事が絡む以外には滅多にいないが、どちらにせよ、どんな女だろうと望むこと、やることに差異はなかった。
 …ホント、変な女だぜ。
 「なによ?」 
 「いや、飯食ったらどこ行きたいって?」
 「ん~、あんた嫌がりそうだからな」
 「………」
 不穏な前置きに、思わず黙り込んでしまったが、
 「天下の道明寺司様に二言はないよね?」
 ニッコリ笑う顔に陥落してしまったのは、やはり自分もまたどこかトチ狂ってしまったのだろうと、司は溜息をついた。





 「美味しい~」
 相変わらずつくしの顔は美味しい食べ物で笑み崩れ、実際の年齢よりずっと無邪気だ。
 そんな彼女を眺めながらする食事はいつものことで。
 しかし…。
 「…落ち着かねぇ」
 「ああ~」
 美味いものを食べ慣れた司にしても味は悪くはなかったが、さすがに明らかに只者ではない彼の佇まいに、ド庶民というほどではないはずの客たちの視線がチラチラと注がれ、彼の機嫌を損ねていた。
 「ごめん、やっぱ個室にしておけば良かったよね」
 最初、もちろん司はそのつもりだったし、彼を知っていた店側も二人を一目見て案内しようとしたのだが、つくしが渋ったのだ。 
 遠慮がちにだったが、珍しい我侭に司の方が折れた。
 「…しかし、懐かしいな」
 「ん?」
 「お前も来たことあんのか?ここって、俺が高校生の頃、けっこう来てた店だぜ」 
 「……そうなんだ」
 ふと、目の前の女がその高校生の頃、付き合っていた女だったことを思い出す。
 「もしかして、お前を連れてきたことあったか?」
 「うん、一度だけだったけどね」
 「……」
 なんとなく、それが面白くなくって、司も黙り込む。
 時々、馬鹿なことだと思うが、こうして昔の自分を懐かしむような言動をするつくしにイラつきを感じる。
 別に昔であろうと、今であろうと司は司で、惚れてるのはこの女の方なのだから、そんなつまらないことに気分を害する必要なはないと理性では思っているのに、なぜか面白くなかった。
 「まさか、ガキの頃にデートした場所をなぞろうっていうんじゃないだろうな」
 「…あ~、バレた?」 
 …冗談じゃない。
 「ふざけんな」
 さっきまで機嫌が良かったのに、顔を顰めて不機嫌になってきた司の様子につくしがシュンとする。 
 「ごめん、さすがに遊園地や動物園に付き合わせようとは思ってなかったんだけど、せっかくいい天気だから公園をお散歩くらいはいいかなって」
 遊園地…、動物園、そこらへんでギョっとして、内心はともかくとりあえず否定されたのにホッとする。
 だが、明らかに寂しそうに笑うつくしの様子に、そもそも今日は好きなところに連れて行ってやると言ったのは自分だったのを思い出した。
 「…仕方ねぇな、公園なんか練り歩いて何が楽しいのかわかんねぇけど、それくらいは付き合ってやるよ」
 「ホント?」
 「ああ、その代わり遊園地やら動物園なんていうのは勘弁な」
 「うん」
 それでもつくしは嬉しかった。
 司には縁遠い場所であることは昔にもわかっていたことだったし、怪我人だということも忘れてはいなかった。
 ただ…昔、夢見た続きを、最後にもう一度だけ見てみたかっただけなのかもしれない。
 …未練だな。
 そう思う。
 でも、あと少しだけ。
 コチコチと壁の時計が刻む時間の音が、まるでカウントダウンのようにつくしには思える。
 …本当にあと少しだから。今日を終えれば。





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アネモネ(o^-')b

もうすぐ終わりとかいう噂をちらほら聞きますが・・・
「アネモネ」もっと読みたいですね。
どなたかもおっしゃってましたが、ついにやっとお互いの想いが通じ
これからがイチャぶり発揮の展開だ♪やりぃー♪
っと、なるところがサクッと終わってしまうケースが過去多いです(泣)。
「初恋は靴底の感触」とか凄く凄く二人のその後が読みたかった・・・。
「夢で逢えたら…」も無事に結婚したのだろうか、高齢出産したのだろうかと
色々と妄想したり
生まれた子供は、整形していない頃のつくしに似た女の子だっりしてとか(笑)。

出来る限り長~く読みたいです♪
頑張って下さいませ。

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