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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第七章 裏切①

昏い夜を抜けて301

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 「…牧野さん、牧野さん」
 呼びかける声に、ふと顔を上げると、普段あまり付き合いのない他の役員付き女秘書たちが手招きしていた。
 さすがにいつだかいちゃもんをつけてきた伊藤はいなかったが、類と噂のあった女ということでつくしを敬遠していたはずの彼女たちの当たりが柔らかくなってきていることは確かだ。
 「えっと、ちょっと専務の御用で外出…」
 「いいの、いいの、そんなことじゃないのよ」
 言い訳しようとするが、途中で遮られる。
 それどころか…、
 「ねえ!そんなことより、今、いらしてるのって、専務の元婚約者さんよね?」
 「え?あ~」
 なんと答えて良いのか困って口篭っていのたのだが、
 「あ、そっか。牧野さんって、あの人と専務が婚約してらした頃いなかったから知らないんだっけ?」
 「そうよ、…婚約前から恋人がいたとかで婚約破棄した人と婚約してた頃のことしか知らないんじゃない?」
 「……」 
 「信じられないわよね~、あーんな素敵な専務より、違う男性選ぶなんて」
 「専務、もしかして女運が悪くてらっしゃるのかしら?」
 「やだぁ、あははは」
 女の噂話は姦しい。
 「でもほら、専務も一般人の女性と、とか」
 「そっか~、そうだったっけ。やーん羨ましい。婚約破棄した人とも案外後悔してたりして」
 「かも?持病が悪化したとかで入院しちゃったけど、案外、女性の方は専務の方に惹かれちゃってた?」
 真偽取り混ぜ、美也子のことは概ね類が示唆した方向で収まっているらしく、スキャンダルといった捉え方はされていないようだった。
 呼び止められたものの、すっかり忘れ去られたカンがあったのだが…。
 「じゃなくって!今いらしてる方って、その前に専務が婚約されてた方なのよ、牧野さん」 
 「そ…そうなんですか」
 今更、知っているとも言えず、曖昧に頷く。
 「そう。専務のお友達のどなたかとお付き合いされてたとかなんとかで破談になったけど…」
 さすがに言いづらかったのか憚る同僚に、もう一人の秘書が、違う違うと手を振り否定した。
 「でも、その後訂正記事出てたじゃない?確かお相手って西門流のお家元の御曹司とかで、あの方に限らず特別にお付き合いしている方はいません、って厳重抗議したって」
 「なのに…破談は復縁ならずかぁ、お気の毒~」
 「本当ね」
 「…うん」
 「……」
 「……」
 しんみりした空気に、
 「あの…私」
 「あの人となんの為にいらしたの!?」
 「え?」
 ズィ~ッと三方から迫られ、つくしが仰け反り目を瞬かせる。
 「だって、おかしいじゃない?破談したはずの元婚約者が専務を訪ねて会社に来るなんて」
 「そうよ、ちょうど専務も婚約解消したばかりだし!」
 「もしかして復縁!?」
 「…いや、あの…その」
 もうすっかりしどろもどろだ。
 何を言い出すかと思えば、答えられないことばかり。
 かといって、何事か返事を返さないことには、解放されそうになかった。

 「…えっと、専務のプライベートのことは、あたし、ちょっと」
 「誰にも言わないから。ね?」
 「あたしたちにだけ!?」
 「……」
 女の誰にも言わないから…ほど信用ならないものはないと、女として生きてきて二十数年余り、よくよく熟知していた。
 …小学校の時、誰にも言わないからって、無理やり聞き出された男の子の名前を言いふらされたっけな。
 好きな子は?という初歩的芽生えに、『いないよ~』と答えた自分。
 それでも諦めない子に延々と問い詰められ、仕方なしに当時仲の良かった和也の名前を出して、『つくしちゃんが好きなのは和也くん』と言いふらされた過去を思う。
 …まあ、あの時は、囃したててきた男子をタコ殴りにしたのを見てビビッられて、噂はそこで終わったけど。
 「あたしはあくまでもお仕事を言いつかってるだけなんで…」
 「本当に知らないの?」
 「……はい」
 疑わしげだったが、大真面目に頷くつくしに、みんな『な~んだ』と落胆も顕に引き下がってくれて、ホッと安堵した。
 「でも、普通、婚約破棄した元婚約者のところへなんて来ないよね」
 「うん。でも、噂だと、専務のお母様の親戚だとか、なんとか聞いたことあったような?」
 「親戚かは知らないけど、お母様一押しの方だって、当時の雑誌とかでよく書かれていたよね」 
 「……」
 「そうだね。まあ、お似合いだものね」
 …お似合い。
 「あの…じゃあ、あたし、行きます」
 「あ、ごめんね~、引き止めて」
 聞きたいことを聞けなかったからだろう。
 引き止めた時の勢いとは裏腹に、アッサリと見送られ、会釈もそこそこにその場を離れる。
 「…復縁するのかな?」
 「シンデレラは?」
 「そんなの専務の立場で許されるはずがないじゃない。しょせんセレブはセレブ同士。一般庶民となんて、お付き合いくらいはできるのかもしれないけど、いずれは別れる運命なのよ」
 遠ざかる声が、不思議によく耳についた。





 …お似合い、か。
 エレベーターの回数表示を見るともなく見ながら、昇降する感覚に身を任せ、類とまり子が二人で会話していた姿を思い浮かべる。
 別に思い出したいわけでもないのに、気がつけば思い浮かべていた。
 類は愛想が良かったわけではなかったが、やはり子供の頃から知っている気安さなのか、まり子への態度は、見知らぬ他人に対してではない無遠慮さがあったように思える。
 …静さんにやっぱり似てたな。
 そして、在りし日、類と静が二人でいた時を彷彿とさせる。
 静に向ける類の顔は、いつでも蕩けるようで彼の精一杯の愛情と憧れのすべてを顕に見つめていた。
 …静が好き。
 …静と一緒にいたい。
 …静しか見えない。
 そんな彼の声が、いつでも聞こえるかのようだった。
 それでも、静への報われぬ想いに焦燥とイラだちを抱き、不機嫌だった頃の彼の顔もつくしは知っているのだ。
 『…復縁するのかな?』
 耳元で聞こえた気がして、ドキッとつくしは周囲を見回す。
 他にも何人かエレベーターに乗り合わせている人間はいたが、当然そんな噂話をしている人間などいるはずもない。
 なのに、
 『セレブはセレブ同士。お付き合いくらいはできるのかもしれないけど、一般庶民となんて、いずれは別れる運命なのよ』
 誰に言われなくてもわかっている。
 何度も何度も…思い知らされたことだったのだから。
 そして、それを理由に司の手を話した自分が今更何を傷つくことがあるのか。
 ポーンという到着音とともに、ドアが開く。
 「……つくしちゃん?」
 他の乗客と一緒にエレベーターから排出されたところで、社食に行っていた眞子に声をかけられた。
 「江島さん」
 「何?どこに行くの?」
 怪訝に首を傾げられ、苦笑する。
 「えっと、ちょっと専務の御用で買い物に」
 「専務?外出じゃなかったけ?」
 「…はあ、なんか急な予定変更でもあったのか、戻してらして」
 別段珍しいことではなかったが、そんなにすぐに戻ってくるのなら、初めからまり子を待っていれば良かったのに、と非難する気持ちもなくはない。
 まり子はわりに気さくで応対するのも苦痛ではなかったけれど、それでもなんとなく気持ちが塞いで、類に八つ当たりしたい気持ちが湧き上がる。
 「あの女の人は?」
 「あ…、いま専務と…」
 「ああ、そっか。でも、なんだろうね。あの人って、専務の前の前の婚約者だよね?」 
 ジッとつくしを見る目が、何かを見透かしているようで、つくしは落ち着かない。
 眞子は前の会社の同僚・香帆同様、情報通で、社内の女子たちに疎まれ、そうでなくても噂話に疎いつくしに何かと世間の噂というものを教えてくれる得がたい同僚でもあったのだが…。
 「どうして、破談した婚約者のところになんか来たんだろうね?」
 皆が抱く疑問。
 他の人間に問いかけられた時には誤魔化した問いかけを考える。
 「…なんだろう」
 確か、類の母親がどうのと、話題に出ていた気がする。
 「専務って、あの人のこと…」
 「……牧野」





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