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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第七章 裏切①

昏い夜を抜けて300

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 「え…あ、その」
 まり子の問いに、言葉につまってつくしが口ごもる。
 よもや自分がその『お好きな方』だとも言えず、また本当に類にとってのそういった人物に自分があたるのか、それさえも躊躇する。
 「…どんな方なのかしら」
 自嘲的に呟いて、伏せた目の横顔がひどく静に似ていて胸が痛んだ。
 「藤堂さんは…」
 ガチャッ。
 言いかけたところで、いきなりドアが開き、つくしとまり子の二人は驚いて背後を振り返る。
 昼前に出たはずの類が、怪訝に二人を見て、後からついてきた三田村を憮然と振り返って戻ろうとした。
 「ちょ!専務!」
 とっさに呼び止めたつくしに、類がため息一つ、振り返る。
 「…なんで、また出ようとされるんですか?来客です」
 「なんで、ってこっちこそ聞きたいよ。なんで、部外者が勝手に俺の執務室にいるわけ?」
 普段から愛想がいいわけではなかったが、それでも社内では社交辞令くらいは心得て、せいぜい無表情でいるくらいの男が、不機嫌に顔を顰めていた。
 「それは…」 
 「あ、すいません、私ったら、図々しく」
 実際は、遠慮するまり子を強引に専務室に引き入れたのはつくしの方だった。
 …だってね。いくらなんでも、もの見高い社員がわんさと出入りするエントランスロビーになんかで、待ちぼうけさせられないよぉ。
 そんな言葉は心の奥底に留めておいて、
 「私がお待ちいただいたんです。…その、専務とお約束されていたそうなのに、黙ってスッポかすなんて酷いですよ」
 「…ハア、誰が約束なんてしたの?ていうかさ、あんたどういうつもり?自分と俺の立場わかってる?」
 あんた…はつくしにではなく、まり子に向けて放たれた言葉で。
 類が『あんた』呼ばわりしたのは、つくし以外にほとんど聞いたことがなく、せいぜい学生時代か、親友たちが連れている女性たちの無作法に不機嫌になったの時くらいのことで、つくしも驚く。
 「ごめんなさい」
 まり子の方は特に驚いたふうもなく、ただひたすら謝り、意気消沈していた。
 「確かに、昼前に母が訪ねてくるようなことを一方的に言ってたけど、俺は仕事中だし、いちいちあの人の気まぐれに付き合ってられないって断ったはずだ。だいたい、あんたが来るなんてこと、一言も聞いてない」
 「……」 
 けんもほろろな類に、まり子も怖じけたように黙り込むだけで何も言えないでいた。
 その場に流れる気まずい空気に、つくしもさすがに黙っていられれず、
 「あの…専務」
 「…牧野、抹茶ミルク」 
 「はい、え?」
 返事をしかけて、目を剥く。 
 「下のスーター○ック○で、買ってきて」
 「下の…って、会社から出て、5分もかかる場所にあるお店じゃないですか!?」 
 「いいじゃない、あんたも好きでしょ?…三田村も飲むよね?」 
 「…はあ。私はカフェラテでお願いします」
 戸惑いもなくアッサリ頷く三田村に目を見開き、つくしはこめかみを引き攣らせた。
 …こんなデカい会社、下に行くだけでも手間かかるっていうのに。
 その上、並んでまで列ができる人気店。
 超高級志向の類だったが、つくしに連れられて以来、あそこの抹茶ティーラテの虜になっていた。
 もちろん、その依頼がつくしを遠ざけるための方便なのはわかっている。
 けれど、よりによってそんな用事を言いつけることもあるまいに。
 …普通に、席を外してって言ってくれればいいのに。
 「はい、これで買ってきて。あんたの分も、三田村の分…あと江島の分も俺が奢るからさ」
 その場にいない眞子の分までとは気が利いていたが、そこにまり子の名前がないことに含みが見える。
 ため息をついて、類の財布をそのまま突き返した。
 「…あとで請求します」
 類の財布などいくらはいっているのか触れるのも怖い。
 一緒に暮らしていた頃も、触ったことなどなかった。
 基本、類がすべての支払いを持っていたし、同棲していればそこはなあなあになる。
 「そ?砂糖いらなないから」 
 「…はい」 
 殊勝に口を挟まず控えているまり子に小さく会釈して、つくしは踵を返して執務室を出る。
 そのつくしに随伴して三田村も、今戻ったばかりなのに執務室を出たから、やはりそういうことなのだろう。
 …何の話をするつもりなんだろう。
 興味を持つつもりなんてなかったのに、遠ざけられたことでむしろ気になって、つい背後を伺ってしまったつくしへと、三田村が声をかける。
 「…何も心配されるようなことはありませんよ」
 「は?」
 「いえ、まり子嬢も静様同様、あの方にとって幼馴染みであるというだけのことです」
 「…はい」
 三田村は何を知り、何を言いたいのだろう。
 怜悧な男の横顔はもう何も語らず、三田村もすでに手に持った書類を片手に、秘書室にもある自分のデスクへと引き上げる。
 「…外出してきます」
 類とまり子がいる執務室を振り返りたい誘惑を振り切り、つくしは階下へのエレベーターへと踵を返した。





 「…で?いったい、どんな用があったら婚約破棄された元婚約者の仕事場に顔を出せるわけ?」
 「ごめんなさい。おばさまに御用を言いつかって」
 恐縮しているわりに、席を立つ風情もないのは相変わらずだった。
 一見従順な女で、実際に表立って誰かと対峙することなどまずはない。
 そこが気に入って志保子など、類に勧めてきた婚約者だったが、類は見解が違う。
 じっとりとした頑固さをもつ女だ。
 腹黒いとまで言わないが、ひっそりと清楚に微笑むその顔に感情が見えたことがない。
 おそらく自分でもどこまでが演技で、どこまでが本心なのかわかってはいないのだろう。
 けれど、時折見せる強情さが彼女の本性なのではないかと類などは思っていた。
 だが、それでどうだとか彼女自身に興味がなかった。
 別段、親友たちや母が穿つように彼女の容姿に静の面影を見ているわけではなかった。
 あまりに違う人格に、皮一枚のことなど類にはなんの価値もない。
 ただ、彼女自身の不気味さが、彼の嫌悪を掻き立てただけだ。
 「…あんたもご苦労なことだね」
 「何がです?」
 「別に俺本人に興味があるわけでもないのに、母におもねって何が目的なの?」
 「…あなたが」
 「……」 
 「花沢類という方に興味があります」
 ぷっと笑う類の顔に、照れでも嫌悪でもなく、嘲りがある。
 「あんたが執着してるのは俺でもなければ、花沢物産でもないじゃん。あんたのナルシズムを満たす方便に俺を利用されるのも、いい加減迷惑なんだけど?」





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祝300話!

次々と脇役の方々にスポットライトが当てられていますが、ここからどんな展開になるのかと毎日楽しみにしています^^
日々浮き彫りになっていく人間模様、もう夢中です(笑)

文字量を減らされたとはいえ、300話という量を毎日書き続けるのはとても大変なことだと思います。
内容も深くて濃いですしね。
大変かと思いますがアネモネ共、更新を楽しみにしています!

先読みできない方なので、今ある謎が紐解ける日が待ち遠しい(笑)



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