FC2ブログ

「昏い夜を抜けて…全483話完」
第七章 裏切①

昏い夜を抜けて298

 ←アネモネ059 →アネモネ060
◇更新情報他雑文 『こ茶子の日常的呟き』へ
【君を愛するために】オススメ作品!?
ランキングもよろ(・ω-人)
ブログランキング・にほんブログ村へ
いつも応援ありがとう♪
**************************************

 『彼女とは、どうなっている?』
 「どう、とは?」
 父親の質問の意図など、もちろん類にだってわかっている。
 けれど、聞きたことがあるのなら、ハッキリと口にせよと、無言で促す。
 気を回して、言わなくても良いことを言って、言質をとられるのは真っ平だ。
 それ以前に、この父親が『花沢の後継者』としてしか見てこなかった息子が、自分と同じ道を選んだことをどう思っているのか知りたい好奇心が勝る。
 …同じじゃないか。
 自分の中で類は小さく訂正した。
 『今も交際しているのかということだ。…彰の秘書へと移動してもらっていたと思うが、お前がその人事を変更したそうだな?』
 「元々、俺のところへ来てもらうつもりでしたから。…どうせ、何もかもご存知なのでしょう?」
 父親のスパイだった元の第一秘書は追い払った。
 だが、社内にはいまだ二重三重に父の目や耳が光っているのを類も知っている。
 それがわかっていて、類は特に彼らを排除しようとはしてこなかった。
 どうでも良かったからには違いないが、それでも一応の対策は水面下では立てていた。
 それがかつての第二秘書であり、現在の第一秘書の三田村であったし、各所に配置した類自身の目や耳。
 けれど、父親を追い落とすほどではない。
 絶対的な力を得るにはまだまだ時間が足りない。
 がむしゃらにやってこなかったツケがここで回ってきている。
 それでも、父親の言うとおり、まだ挽回の余地がある。
 第一ここで諦めてしまえば、すべては水泡に帰す。
 つくしは手に入らない。
 …牧野にとってはその方がいいのかもしれないけれど。
 つくしのためじゃない。
 彼女と一緒にいたいのは、自分のエゴゆえだと、類は開き直っていた。
 『それでも、外から見たものと実際は違うこともままあるものだ。お前の口から聞きたい。牧野さんとは今、どうなっている。お前はこれからどうするつもりなのだ?』
 「…今は、距離を置いています」 
 『マンションを出たそうだな?』
 「ええ」
 隠すことではないが、父親の真意を推し量りつつ、自分から渡す情報は最低限に抑えたい。
 『お前が彼女と別れたというのなら、私からは何も言うまい。お前が後継者として自覚を持ったと…そうとっておこう』
 父親の言葉の中には、明らかな含みがあった。
 だがもちろん、『自覚』などというものが、逆さに振っても類の中にあるはずがないことを、父親もよく知っているに違いない。
 『だが…万が一、彼女との将来を考えているのなら、私はやめておくのが利口だと忠告しておく』
 「…脅迫ですか?」
 淡々と返す類には何の動揺もないし、まったくの予想外の言葉ではなかった。
 そして、次に父が言う言葉もあらかた予想している。
 父は志保子とは異なる。
 政略結婚が全てだとは思っていない。
 だが、そこには確かな力を伴わなければならないのが絶対条件だった。
 政略結婚を捨てても、つくしをとるのなら、花沢物産にとっての利を証明して見せなければならない。
 『脅迫ではない。少なくても私からは。だが、私はともかくとして、花沢を取り巻くほとんどの者たちは、彼女をけっして認めないだろう。…お前にとってではなく、これは牧野さんへの警告になる。そして彼女も、おそらくそのことは十分に思い知っていることだと思う』
 …司君との経験を通じて、嫌が応でも。
 父の心の声が、類にも聞こえるようだ。
 「その急先鋒がお母さんだと言いたいのでしょう?」
 『すでにアプローチをしているのではないかな?』
 「ええ。…あの人に、牧野をとうてい受け入れられるはずがない」
 そんなことはとっくにわかっている。
 後は、それならばどうするのか、その一点だけで。
 「今度の件で…」
 『……』
 「あなたが俺ではなく彰をとったことで、母は、あなたが彼女ではなくまたも七生叔母さまを選んだと受け取ったことでしょうね」
 『彰を選んだわけではない』
 目を伏せた父親の顔がわずかに影を帯びて、不思議に老人のように見える。
 馨はまだ初老に差し掛かったばかりで、見た目だけで言えば実年齢よりも若々しいくらいなのにも関わらずだ。
 「同じことですよ、お母さんにとっては。七生叔母さまが憎い。あなたが恨めしい。坊主憎けりゃ袈裟まで憎い、で彰を憎悪している」
 『牧野さんに…一応警護の者をつけたほうがいい』
 「…ご自分の経験からですか?」
 父親の後退を感じても、類は追求を緩めない。
 『………』
 「あなたは俺に、自分の過去の過失と同じ愚を犯せとおっしゃっている。根を立たずして、本当の意味での勝利はありえない」
 『どういう意味だ?』
 「欲張りは、昔から何も手に入れられないと相場が決まっている」
 類の言葉は暗喩に満ちて。
 だが、馨が危惧する類の性質が、彼の胸に更なる不信と不安を抱かせる。
 『…何をするつもりだ』
 「俺はあなたや彰と同じ失敗を重ねて、彼女を失うのはごめんですよ。七生叔母さまのことだけでもうたくさんでしょう」
 普段は怜悧で感情を揺らすことがない馨の鉄面皮が剥がれる。
 剥がれたように、類は感じた。
 ただ一人…父親の感情を揺らすことができるただ一人の女の名前。
 飢えるほどにその場所を望んで、悲嘆と絶望が志保子を変えて多くの不幸を生んで今もなお続く。
 …別に誰がどうだろうと関係ない。
 たとえそれが自分の両親であろうと。
 そう思っていたのに、冷血漢の父親のうちしがれた様に罪悪感を抱くのは、お人好しのつくしの影響なのかと、類はぼんやりと思う。
 『…私は……、いや、そうだな』





 その後、いくつかの業務事項を交わし、
 『派手に動きすぎて、インサイダー取引を疑われるようなマネはやめておくんだな』
忠告をして、父親は電話を切った。
 「……よろしいのですか?」
 電話の間中、まるで類自身の影であるかのように、画面に映らない範囲で控えていた三田村が、気遣わしげに問いかけてきて、類はそれに微笑み返した。
 三田村は忠臣だ。
 個人的な理由で類に付き従い、仕えている。
 野心もあるだろうが、そのほとんどは過去への恩義が大半で。
 後は類自身の資質への傾倒もあるだろうが、正直、類には重すぎて鬱陶しいこともある。
 それでも三田村の忠義はバランスがとれていて、変に幻想を抱いていない分、類も信頼していた。
 「社長の誤解をそのままになさって」
 「いいよ。あの人は俺と彰だと思っているんだろうし、それもあながち間違いじゃないしね。いまのところは、それでいいよ」
 「…はあ」
 三田村は聡明なだけに、いろいろなものが見えて気苦労も多いのだろう。
 そして、類にとって花沢物産は二の次で。
 「四つ巴の戦いっていうのもゾッとしないだろう?」
 「ええ…」
 まだ三田村は、合点がいかないようだ。
 類は執務椅子をクルリと回転させ、窓の外へと視線を流す。
 「別にあいつもうちを乗っ取りたいわけじゃない」
 「……大丈夫でしょうか?」
 「あいつがもし本気なら、うちも死にもの狂いにならざる得ないけど。あっちだって無傷じゃいられないからさ」





◇更新情報他雑文 『こ茶子の日常的呟き』へ





ブログランキング・にほんブログ村へ 💛 
いつも応援ありがとうございます^^!

web拍手 by FC2






関連記事


総もくじ 3kaku_s_L.png イベント
総もくじ 3kaku_s_L.png だから今日も I'm so happy…百回分の花をあなたに
総もくじ 3kaku_s_L.png ******【司×つくし】******
総もくじ 3kaku_s_L.png 愛してる、そばにいて
総もくじ 3kaku_s_L.png 百万回の微笑みを愛の言葉にかえて
総もくじ 3kaku_s_L.png 陽のあたる処でシリーズ(短編集)
総もくじ 3kaku_s_L.png Fly me to the havenシリーズ…36話完
総もくじ 3kaku_s_L.png アネモネ…全171話完+α
総もくじ 3kaku_s_L.png ******【類×つくし】******
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編+
総もくじ 3kaku_s_L.png パッション…①24話②22話完
総もくじ 3kaku_s_L.png 陽だまりの詩シリーズ(短編集)
総もくじ 3kaku_s_L.png ****【総二郎×つくし】****
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編-
総もくじ 3kaku_s_L.png ****【あきら×つくし】****
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編^
総もくじ 3kaku_s_L.png ***【その他CP】***
総もくじ 3kaku_s_L.png 中・短編'
もくじ  3kaku_s_L.png 倉庫
総もくじ  3kaku_s_L.png イベント
総もくじ  3kaku_s_L.png だから今日も I'm so happy…百回分の花をあなたに
総もくじ  3kaku_s_L.png ******【司×つくし】******
総もくじ  3kaku_s_L.png 愛してる、そばにいて
総もくじ  3kaku_s_L.png 百万回の微笑みを愛の言葉にかえて
総もくじ  3kaku_s_L.png 陽のあたる処でシリーズ(短編集)
総もくじ  3kaku_s_L.png Fly me to the havenシリーズ…36話完
総もくじ  3kaku_s_L.png アネモネ…全171話完+α
総もくじ  3kaku_s_L.png ******【類×つくし】******
もくじ  3kaku_s_L.png 拍手小話+
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編+
総もくじ  3kaku_s_L.png パッション…①24話②22話完
総もくじ  3kaku_s_L.png 陽だまりの詩シリーズ(短編集)
総もくじ  3kaku_s_L.png ****【総二郎×つくし】****
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編-
総もくじ  3kaku_s_L.png ****【あきら×つくし】****
もくじ  3kaku_s_L.png 拍手小話^
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編^
総もくじ  3kaku_s_L.png ***【その他CP】***
総もくじ  3kaku_s_L.png 中・短編'
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png ストック
もくじ  3kaku_s_L.png R短編集
もくじ  3kaku_s_L.png アネモネ R
もくじ  3kaku_s_L.png 恋愛の品格 R
もくじ  3kaku_s_L.png 愛妻生活 R
  • 【アネモネ059】へ
  • 【アネモネ060】へ

~ Comment ~

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

NoTitle

昏い夜を抜けて

面白いところになってきました。
道明寺からM&Aかけられてますか?
つくしを救い出すか、奪還をかけてるのでしょうか?
道明寺が無傷ですまないではなく、花沢の方がボロボロにされると思います
が、類がどのようにして権力奪取し、道明寺から守るのか今後の展開が興味津々です。
しかし花沢は株式公開会社ではないんですね。
類の権力闘争詳しくお願いします。
フレーフレー頑張ってください。 
次がとっても楽しみです。

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【アネモネ059】へ
  • 【アネモネ060】へ
にほんブログ村 小説ブログへ💛
スポンサーリンク