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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第七章 裏切①

昏い夜を抜けて297

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 「…優紀ちゃん?」
 まるでその名が出てくるのが意外すぎて思いつきもしなかったというように、総二郎はキョトンとあきらを見返す。
 だが、この男は自分の中の踏み込まれたくないところを指摘されれば、20数年来の親友にですら、シラッとした顔で恍ける。
 友を追い詰めたいわけではないので、そこであきらは諦めた。
 だが…。
 踵を返して先を歩き出したあきらの耳元に、小さなつぶやきが届く。
 それはあるかなきか。
 本当はあきらに語るのさえ迷って、聞こえなくてもいいという思いで紡いだ言葉だったのだろう。
 「…彼女を好きになれたら、と思ったこともある」
 反射的に振り向いたあきらの目に、俯いた総二郎の表情は見ることができない。
 「けど、無理なんだよ。ああいう子を俺は恋人にはできない。愛せないわけじゃない。けど、俺には無理なんだ」
 軋るようなその声には、自分の怯懦を歯噛みする想いと、様々な複雑さを帯びて、あきらでさえ何も言えない。
 「牧野に会っていかなくって良かったのか?」
 唐突に変えられた話題に、それでもあきらは抗うことなく、頷いた。
 「すでにフられた身だからな」
 「……」
 「もう少しほとぼりが冷めるのを待つさ。どちらにせよ、一時帰国だ。時間がない」
 つくしのためにならいくらでも時間をひねり出そう。
 だが、彼女の顔を見れば押し殺した気持ちが溢れ出し、自分のエゴを曝け出してしまうかもしれない。
 …愛してくれてなくてもいい。
 …今お前が不幸なら、俺を利用しろ。
 …傍にいてくれるだけでいい。一生涯でも待つことができるからと、彼女のお人好しに付け入ってしまうかもしれない。
 だが、それではダメなのだ。
 歩き出そうとしている彼女の成長を阻んではいけない。
 今、彼女に逃げる道を示して、攫ってしまえば今度こそ彼女らしい輝きが失われてしまう。
 結果的に司を置き捨ててしまったことを、長年悔いて苦しみつづてきた彼女の不幸を再び繰り返させてしまう愚を犯すことなど出来はしないのだ。
 本当に彼女を愛しているから…。
 …それ以前に、俺を選ぶことはないかもしれねぇが。
 それとも、目の前の友ならば自分とは違ったアプローチで彼女を救ってやれるかもしれないと、僅かな嫉妬と…小さな期待に苦笑をこぼす。
 「牧野の方もまだ気まずいだろ」
 「…かもな」
 「もう少しゆっくりと時間がとれるようになったら、会いにいくさ」
 「そうだな。また皆で会おうぜ。今度は…仲間皆で会いたいものだな」
 「…ああ」





 久しぶりにテレビ電話の画面越しに、顔を合わせた父親の顔に疲れが見える。
 長年日本を離れて、一人巨大企業を支えてきた男の真実は、本当はどこにあったのだろうと、いままで欠片も気にしたことなどなかったというのに、ふと疑問に思って類は首を傾げる。 
 だが、その中には実の父親だというのに、情愛も少しの思慕も含まれず、まだまだ働き盛りのはずの男の疲弊と孤独が見えて、ただ憐憫があるだけだった。
 『…再来週の株主総会までには間に合うように帰国するつもりだ。そこで、彰の副社長職就任、および私に代わるヨーロッパ統括本部を任せる話を発表することになるだろう』
 「俺の東南アジア地区への移転の話も同時に発表されるのでは?」
 そうなれば花沢物産内で揺るぎない事実だった、類が唯一無二の後継者であるという認識は覆され、株主たちの間でも大きな衝撃が走るだろう。
 いかなる材料を持って、その認識を塗り替え、正当な後継者を追い払い、海のものとも山のものともしれなかった男を着任させようというのか。
 …おてなみ拝見?
 他人事のように、父親と高階の手腕に興味を抱く。
 『新規開拓の余地が大いにある市場だ。特にマレー半島横断石油パイプラインの参画に失敗した、我が社のあの地域における事業スキームは後退傾向にある。それなのに、一度や二度の失敗をいつまでも悔いて手をこまねいては、10年後、20年後のビジネスモデルはますます縮小してゆくことになるだろう』
 「まさか、たかだかビジネス社会に飛び込んで数年の、ひよっこに過ぎない俺に、その花沢の失態を取り戻すことなんかを期待されているわけじゃありませんよね?」
 呆れたように返す類に対し、類の父親である馨の顔はあくまでも大真面目だった。
 『私はいつでも、可能性を否定しはしない』
 ようは、彰に遅れをとった自分をまだ父親は諦めてはいないのだ。
 片や彰の実力を認め、半ば左遷人事に近い類の東南アジア統括への移動を黙認しながら、一方では発破をかける。
 『彰は取締役会の主要メンバーの何人かを取り込んでいる。高階のお義父さんも力を貸した節があるようだ。…あの人は、昔からお前を欲しがっていたからな。花沢には彰をあてがって、お前を引っ張りたいのだろう』
 …それはそうだろう。
 父親も薄々感づいているかもしれなかったが、それを示唆したのは類自身なのだから。
 「なるほど。で?それでなんの問題があるんです?今の花沢はあなたで一枚岩だ。そのあなたが認めた後継者ならば、多少の波乱はあっても俺でも彰でも構わないはずですよね?」
 『…彰は情がありすぎる。優しさは、時には大きな失態を招くものだ』
 実際、もし類が彰の立場なら、まず彰を追い落とすのに類の身辺を綺麗なままで放置したりはしない。
 何がしかの汚泥をすすらせ、徹底的に追い詰めて、二度と立ち直れないように完膚なきまでに叩き潰す。
 そんな手段など、類でなくとも彰だとて十分に熟知しているだろうに。
 なのに彼はそれをしない。
 正攻法で類に勝とうとしている。
 「バカだな」
 呟いた言葉は、父親には届かなかったようで、眉根を寄せ類の反応を伺っていた。
 『まだ、お前にも巻き返しのチャンスはある。彰はフランスのジャン・ルノーの伝を使って、ヨーロッパ市場におけるキーマンの一翼であるバルビエ家の娘と縁組を画策しているらしいが、欧州連合理事会の昨年度の委員長も務めたベルツ氏がお前を買っていると聞いている』
 「政略結婚ですか?道明寺クラスならともかく、世界規模に展開しているとは言え、極東アジア発祥の一企業にすぎない花沢に娘を嫁がせると思ってらっしゃるんですか?」
 『すべてはお前次第だ。ただ単に私はそういう手段もあると示唆しているだけで、強制しているわけではない』
 父親のやんわりとした圧力に、類は苦笑する。
 「あなたは強欲ですね」
 『この花沢を担っているからな。あらゆる可能性を模索する。花沢にとってもっとも適した後継者を…、方策を』
 父親にとって、花沢とはなんなのだろう。
 若き日、彼にも愛した女がいたはずなのに。
 彼女を失い、そこに何を見たのだろうか。
 一人の女の狂気を呼び寄せ、その罪に感情を殺した男を今までとは別の感慨を持って見つめ返す。
 『牧野さんだったか…』
 馨の口からつくしの名が出て、初めて類の顔に僅かな感情が浮かんだ。





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