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「夢で逢えたら…全207話完+α」
第二章 私は誰?②

夢で逢えたら062

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 結局、病人相手に一度で終わらず二度も行われた情交は、つくしの体力も著しく奪い、人目を気にして共寝を拒絶していたつくしを司のベッドに押し留めた。
 …信じられない、どこが病人よ。
 適度?な運動と汗で、だいぶ熱が下がったらしく、ベッドに仰向けに横たわる男の顔に疲労の色はない。
 完全には解熱しきれてはいないようで、普段は冷たい男の指先も、かつてのように温かかったが、断固として3回目は拒否している。
 さっきまでの弱々しく、可愛らしかった面影はなく、だが、やはり悪夢の余韻は残っているのか、どこか沈鬱で普段のこの男から信じられないほど痛々しい。
 …何が、いったいこの男をこんなに苦しめ、哀しませているというのか。
 すべての物や人を手に入れ、かつて豪語したように望むすべてを手にしているこの男が。
 肉体だけとはいえ、この自分さえも手中に収め、今や支配している。
 それだというのに、何を嘆き慟哭することがあるというのだろう。
 さっき、男は泣いていた。
 夢の中で、誰かを求め、そして誰かを失った哀しみに啜り泣き、苦しんでいた。
 『…マキノ、行くな』
 まさか…っ?
 「俺は昔、心底惚れた女にひでぇことしちまったんだ」
 自分の物思いに沈んでいたつくしは、突然かけられた言葉に一瞬反応できなかった。
 瞬きを繰り返しながら司を見返すと、男はつくしを見てはおらず、白く高い天井を茫洋と見つめ、淡々と語りだす。
 「愛してたのに裏切った。惚れてたのに忘れ去って、置き去りにした」
 まるでその場に誰もいないかのような独り言のような呟き声に、つくしはビクリと肩を竦ませた。
 「あげくに、一人で死なせちまった。痛かったろう、辛かったろう、苦しかったろう。俺のことを恨んでいたかな。それとも、もうとっくに忘れちまってたか…」
 「…道明寺」
 男の言葉には何の感情も込められてはいなかったが、それだけによけいに悲痛で、彼の心からの苦痛が感じ取られた。
 昔のように怒鳴り散らせば、少しは楽になるだろうに。
 昔のように感情のままに暴れ回れば、少しは気も晴れたのではなかろうか。
 そう思うのに、男はひたすら自らの苦痛を呑み込み、もがき苦しむのみだ。
 「俺は昔、事故にあってよ、惚れた女のことだけ物の見事に忘れちまった。他の人間のことや自分のことは憶えてるのに、命よりも大切だった女のことだけ忘れるなんて、とんだ記憶喪失だよな、笑っちまう」
 笑えなかったのは、司の顔を見れば一目瞭然だった。
 まさか…いまも、この男は私に対する罪悪感を持ち続けている?
 類が確か、道明寺は私のことをすべて思い出しているって、言っていたけれど。
 驚きに見開いた目で、司を凝視するつくしの視線の意味を司は図ることができない。
 「あげく、あいつを捨てて置いてきちまったんだ。惚れた…あいつ以外の女を抱かないはずの俺が、腐るほど女を抱いてきた。愛情じゃなく、単なる動物的欲求ってやつでだ」
 「…その人のこと、思い出したんだね。いつ?迎えにいかなかったの?」
 「あいつと別れて5年くらいしてからかな。もちろん、迎えに行ったさ。あいつが例え許してくれなくても、他の誰かに惚れてても俺はあいつをもう一度取り戻すつもりだった。でもよ、さすがの俺様でも手の届かない場所ってやつに行かれてちゃ、どうにもならねぇよな。死んでたんだ」
 司は、表情を隠すように片腕を目の上に置いた。
 「そう」
 乾いてしまった喉を唾を呑み込むことでかすかに潤し、喉に貼りついたような声を絞り出す。
 「…でも、それはあんたのせいじゃない。きっと、そのことはその人も許してる。あんたが、他の誰かを愛して幸せになってくれれば…」
 それは本人だからこそ言える心情だったが、司は何も知らない他人のおためごかしのように感じたようで、唇の端に嘲笑を浮かべる。
 そして、目の上の腕をどけ、真っ直ぐな冷たい目でつくしを睨んだ。
 「そりゃ、生きてる人間の方便だ。死者は永遠にその時のまま囚われてるんだ。あんたはそうやって、自分を誤魔化してきたのか?あんたの死んだ旦那は、あんたが他の誰かに惚れて自分を忘れ去っても許してくれると?」
 それは誰かを愛したい弱い自分に対する言い訳だろう、と男は皮肉った。
 つくしは、遠い昔、彼女に死者への愛情を語ってくれた一人の女性を思い起こす。
 ただ一人恋し愛した夫をガンで亡くし、その夫の忘れ形見と生きる美しく、生気に満ちていた女性…セリ・キャサリン・マーベル。
 セリは言っていた。
 愛情は増えるのだと。
 増えて膨らんで、永遠に続いてゆく。
 生きてる誰かを愛することは、時に死んでしまった愛する人への裏切りに思えることもあるけれど。
 誰かを愛することは、死んでしまった愛する人を忘れることではなく、愛した記憶を抱いたまま愛を無限に広げてゆくことなんだと。
 『つくし、恋をしなければだめよ?今は、私もこの子を愛して育ててゆくので精いっぱい。でも、いつかはまた愛する人を作って、人生を楽しもうと思っているの。ミッシェルも、私が生きながらに死ぬことなんて望むような
人じゃあなかったもの』
 愛することをやめてしまえば、人間は生きたまま死んでゆくしかなく、成長できないのだ。
 そんな哀しい人生を、どこの誰が愛する大切な人に強いたいなどと思うものだろうか。
 「あんたを愛した人は、本当にあんだがそうやって苦しんで、生きたまま死んでゆけばいいと思っていると思っているの?あんたが愛したのはそういう女だったの?」
 つくしは、過去に囚われた哀れな男にそっと諭す。
 かつて愛して、幸せにしたかったたった一人の男に。
 もう自由になって、過去の幻影を抱いて生きたまま死んでいるのではなく、新しい人生を愛する誰かを得て幸せに歩んでほしい。
 それが、昔愛され愛した恋人への、つくしの密かな願いであり餞別だった。
 …男はつくしの言葉にも特に感銘を受けた風はなく、ただ眠ったように目を瞑り、溜息を一つ零した。
 「まあ、あんたは旦那を裏切ったわけじゃねぇからな。…あいつは。俺はもう、あいつを裏切ったらあいつを永遠に失ってしまうんだ」
 後ろ向きな人間に、他人が何を言ってもそう簡単には響かない。
 つくしはわずかに感じた胸の痛みを自覚しつつ、平行線な会話に見切りをつけた。
 それでも、あんたは、洲崎さんを愛したじゃない。
 要のママと結婚して、一度は家族を作ろうとした。
 そして、今は要を愛している。
 気分を変えようとつくしは軽く頭を振り、ベッドに横たわった司の裸の胸に布団を掛けなおす。
 そして、起き上がって傍らにあった司のガウンを素肌に羽織った。
 大きすぎるが仕方がない。
 「…帰んの?」
 無感動に聞いてくる司に内心怯みながら、再び司の横に入り、寝ずに自分の頭を横向きに肘で支え、男を見守るようにクルクル巻き毛の形の良い頭をなでる。
 驚きで目を見張った司の無防備な顔に、笑いがこみあげて、実際に笑ったら何をされるかわからないので、口元にあてた手でとっさに隠す。
 「寝入るまでこうしていてあげるから、さっさと寝ちゃいなさいよ」
 「ガキか俺は」
 「怖い夢見て飛び起きちゃうんだから、ガキよガキ。さ、寝て?きっと起きたら、もう熱も完全に下がっているわよ」
 「運動したしな」
 揶揄ってくる男の言葉に、赤面しかけた顔をわざと怒ったようにしかめて、男を睨む。
 「寝るの?寝ないの?あんたが寝ないのなら、私はもう自室に引き上げるわよ」
 ふんと、男は鼻を鳴らして、大人しく目を瞑った。
 「お休み、道明寺」
 つくしの声掛けに、薄らと笑った司の顔は、いつになく穏やかで。
 「…ああ」
 やがて静かな小さな寝息が、司から立ち始めた。


 
 再び眠った司が見た夢は、寂しそうに微笑む高校時代のつくし。
 『あたしを見つけてよ、道明寺。あの時のように…』


 健やかに眠る司の様子を確認し、つくしはそっとベッドを抜け出した。
 ガウンを脱ぎ、脱ぎ散らかした服に着替える。
 そして、司のパジャマと下着も畳んでベッドの脇に置き、改めて眠る司の額の熱を手のひらで確認した。
 さすが野獣、もう熱は完全に下がったわね。
 「…子供みたいに無邪気な寝顔しちゃって。俺様男のバカのくせに、昔のことなんていつまでもグチグチ憶えてんじゃないわよ」
 つくしは小さく溜息をつく。
 弱っている司に哀願されたとはいえ、自分から司に抱かれてしまった。
 そして、司の心の闇を知り、自分ゆえの彼の苦悩を図らずも知ってしまった。
 だが、どうしたらいいというのだろう。
 もう彼女は司を愛してはいない。
 そして、司も『牧野つくし』という過去の幻影に取り込まれ、いつまでも後悔しても詮無いことに囚われ苦しんでいる。
 もう、この世のどこにも司の愛した『牧野つくし』はいないのに。
 もし、彼女がマーベルとしての人生を歩んでいなかったとしても、これだけは言える。
 あの日から17年という歳月が流れ、司が知っていた『あの少女』はもういないし、ここにいるのもつくしが知っていた司ではないのだ。
 「あんたには、あんたの選んだ人生があるように、私には私の人生がある。もう、どうしようもないよ」
 それでも、熱く火照った体に、苦しげに歪められる美しい顔に、哀しげな眼に、どうしても無視することができないのはなぜだろう。
 …脅されたり、耳を切られちゃったり、レンの大事なネックレスを捨てられちゃったり、私結構、ひどいことされてるよね。
 ホント、こいつってそういう意味では変わらないっていうの?
 つくしは、部屋を出しな、もう一度ベッドに眠る男の顔を見やり、そっとドアを閉めた。

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tomo様^^

体はすでに、記憶がない頃に穢れまくって(女抱きまくって)、記憶が戻っても人肌がないと寒すぎて眠れない。
かといって、一緒のベッドで朝まで過ごせる女はおらず。
これで、心まで他の女に奪われたら、もうつくしちゃんに合わせる顔がないのですよ、司的に。

つくしはつくしで、やっぱり司を忘れなければというよりも、とても恋などに気持ちを費やせるような
余裕がなかった。そしていざ余裕が出てきたころには、もう、遠い思い出すぎて、現実にあったことのような
感じがなかったのかもしれません。
でも、もともとが嫌いで別れたわけではないですしね。
しかも、一度は惚れたくらいだから、つくしちゃん的にも司に惹かれる要素があったわけだし。
さらに、普通に見て司君は魅力的!(なはず。たくさんの女が寄ってくるんですから)
体の関係までできて、何にも感じないってことはないですよねぇ。
しかも、甘えられたりしたらw

添い寝良いですよね~^^!

ふにゃろば様^^

こんばんは^^
ご予想どおりでしたですねw
実は、土日に向けて、今日のお話はすでに、2日ほど前に予約投稿しているので、コメいただいた時は、
おお!さすが!みたいな?^^
やっぱり野獣は、〇倫じゃないとね!w

コンちゃんは!?してませんwやはり、みなさん、突っ込んでくださいましたねぇ~w
だって、ほら、避妊注射もしてるのあるし、司君的につくしちゃんには直に包まれたいのですよw(て、うっは、何言ってんでしょ、私///)
つくしちゃんは…もう諦めて、自衛ですよ^^;勤めていた病院で山ほどピルもらって飲んでいるはず!
たぶん、病気は心配してて、普段は注意してるんでしょうけどねぇw(司君への信頼度0てか?w)

お人よしがやっぱり、つくしちゃん、て感じですよね~。

司君がマーベルに牧野つくしの話をしたのは、やっぱり、マーベルへの気持ちの自覚があって、自分の苦悩を話さずにはいられなかったんでしょうねぇ。無意識のうちに救いを求めてるっていうのもあるのかな。ただ、認めないというより、認めたからこそ、そんな自分を許すわけにはいかないんですねぇ。つくしちゃんへの想いと罪の意識は以前以上に高まっているので。司が押せ押せになるのは3章半ば以降かな。それまでは、ちょっと、反対方向に^^;;

ゆうん様^^その2

やっぱり人間一人を育てるのって、お腹を痛めた子ではないとはいえ育てる人間にとっても大きな成長を促すのでは?という感じで、つくしちゃんも成長したかな^^
ただ、やっぱり、鈍感!が彼女のデフォルトのような気がしますので。

身に余るお褒めのお言葉ありがとうございますm_ _m 照れちゃいます///

つくしちゃんの場合は、いろいろ押し込めて諦めて、レンを常に第一に生きてきた人生なので、気が付いてはいないでしょうけど、やはり、司に無関心ということはないと思います。
嫌いで別れたのではない、惚れまくった過去もあるのだし、なにせ、普通じゃないアプローチの仕方で毎回インパクト強いですからね^^;元からそういう性格の司を許容できるくらいですし、そもそももとより鈍いので、大人しいアプローチじゃ通じない。そこへ、司君。焼き付いてますw…たぶん。

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Izumko0502 様^^

初めまして^^

嬉しいお言葉ありがとうござますm_ _m

司君もどん底でしたが、つくしが生きていた、あるいはマーベル(=つくし)を愛するようになったことで、
そのどん底は上向きになったかな?

これからもどうぞ、よろしくお願いいたします^^!
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