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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第七章 裏切①

昏い夜を抜けて288

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 「ふ~ん」
 緊迫した空気の中で、当の類の第一声はそれだった。
 驚かない類に、さしもの高階の眉根が寄る。
 「ね、悪いけど、俺たち以外みんな席外してくれない?」
 みんなと言いつつ、その場にいるのは、類と高階、三田村とつくしのみで、三田村とつくしに席を外すように言っているのは明らかだった。
 依頼形だったが、命じられれば三田村やつくしに逆らえるわけもない。
 肩を竦める高階へと敵意の視線を送り、三田村がつくしを促し、退出する。
 執務室を出しな、つくしが類を伺ったのは無意識だった。
 期待していたわけではないのに、類にニッコリと微笑みかけられ、不安だったつくしの心がわずかに緩まる。
 バタン。
 二人が退出すると、高階が勝手にソファへと腰を下ろして寛ぎだした。
 いつもとは反対の構図。
 類ではないので、ソファで寝はしなかったが、たった今宣戦布告したたばかりというには、高階にもあまりに緊張感がない。
 「…そういえば、お前、そろそろ江島さん、引き取れよ」
 「江島?」
 「もういい加減ほとぼり覚めて、お前んとこに戻しても牧野さんは不審に思わないだろ?」
 類の方も何事もなかったかのように、手元の書類を眺め、淡々と決済を済ませながら、小首を傾げる。
 「なに?なんか俺に知られて疚しいことあるんだ?」
 平然とした返しに、高階が笑う。
 「そりゃそうだろ。お前、さっき俺が言った言葉聞いたんだろ?…その様子じゃ、予測してたみたいだけど」
 「まあね。けっこう大胆に動いてるな、とは思ったけど。お前のおかげで、社長に俺の方が疑われて、痛くもない腹探られたかな」
 「…痛いところだらけだろうが」
 高階だとて、類が何もしていなかったとは思っていない。
 だが、ダミーの会社やら、さまざまな人間模様の思惑が入り混じっていて、一概に類の動きを掴めていない。
 「三田村引き戻して、それこそお前もよくやるよ」
 「全部ツーツーのスパイ飼ってるほど、俺も酔狂じゃないから」
 「じゃあ、俺も同じ。江島さんはどちらにせよ、SPであって、俺に探りを入れるために俺んとこに潜り込ませたってわけじゃあるまい」
 そこで、類がやっと高階へと視線を戻し頷く。
 「まあ、そうだけど。こうなってくると悪くない配置だったかと思ったりもするかな」
 「バーカ、どこの世間に、どうどうとスパイを置いておく奴がいるんだよ」
 「…俺?」
 「お前も追放したんだから、俺も追放。で?俺からの申し出はどうする。おとなしく左遷されとくか?お前のことだから、別に東南アジアだろうが、アフリカの奥地だろうが、気にしないだろ?」

 ずいぶんな言い草だったが、少し前ならそのとおりだった。
 面倒臭い。
 彼の行動原理はそれがすべてだったから。
 「ん~、それも悪くないとは思うんだけどね」
 「俺としては、お前を捨てるのは惜しいという気持ちもある」
 それは本心だった。
 ただ、半分だけ。
 いや、たぶん、ホントは何割かにすぎないのだろう。
 高階の中にわずかに残る甘い感傷だ。
 「よく言うよ。獅子身中の虫を飼っていてお前が安心できるって言うんだったら、やめておけって、俺は忠告するよ。そんな奴が、花沢を奪取するのも維持するのも無理でしょ」
 「お前ならできるって?」
 「…さあ?」
 母親に言われなくても、高階の存在が自分にとって最大の障害であることは類もわかっていた。
 ただし、それは花沢物産の後継者の地位に執着するという前提の下でだ。
 人にはいくつもの分岐点が存在する。
 何を選び、何を捨て、何を目指すか。
 「お前の下についたところで、あの人が諦めるとは思えない。うっかりお前の下に留まって変な旗頭にされるのも俺はごめんだよ」
 「…あのあたりは日差しがキツイからな。昼寝の場所には気を付けろよ」
 あっさりドライに切り捨てる高階のジョークにくく、と笑う。
 とても敵対しているとは思えない緊張感のなさだったが、それが二人の関係だった。
 いつの日か来る決裂を知りながら、その瞬間まで互いへの親しみを失えない。
 類にとって自分の地位も進退さえもどうでもいいことで執着がなかったからだ
 そして、そんな類を理解している高階にとっても、油断ならざる相手だとわかってはいても、類を憎むことができなかった。
 目的のためには、いつか来るこの日を覚悟しながら、それでもいざその時が来ても、やはり憎しみや嫌悪はなく、ただ残念な気持ちがあるだけだ。
 …あの女の息子でなければ。
 「お前はいいわけ?彰」
 「何が…」
 わかっていて恍けて…その無益に、苦笑する。
 類にも知らせてはいなかったが、彼が類を理解し、知っている程度には類も彼を知っているのだろう。
 「お前がそれでいいなら、俺は何も言わない」
 「……」
 「もしお前が花沢と…自分の幸せってやつも両方手に入れようとしてるなら、虫が良すぎると言っておくよ」
 「…高階も手に入れるつもりだと言ったら、お前は無理だとそう言うか?」
 「ん~」
 ガリガリと頭をかき、類が肩を竦める。
 「高階に関しては、頑張ればお前ならなんとかできるんじゃないの?」
 「…お前が邪魔しなければという前提じゃなくってか?」
 「俺は必要なものも、大切なものもたった一つでいい」
 「……」
 「さて、俺はいつまでここの椅子に座っていられるわけ?」
 サバサバと立ち上がって、類が伸びをする。
 「…とりあえず、今月末の株主総会には今のまま出てもらう」
 「ふぅん?のんびりだねぇ。じゃあ、東南アジアなんたらっていうのは、7月か8月って?その間に、俺が動いたら、お前どうするつもりなのさ」
 「…子会社からうちの株を買い漁っているのはお前か?」
 父親が聞いてきた質問と似たような問いかけに、類はあいまいに微笑み、答えはしない。
 「答えろよ、類。何をするつもりだ」
 「俺?…なんで、社長といいお前といい、俺を疑うかな。むしろ、疑われてもおかしくないのはお前の方だろ?」
 揶揄る類からは薄笑いは消えない。
 対して、勝ち組のはずの高階の表情は険しくなってゆく。
 「資金源豊富に持ってる連中に近づいてやりすぎると、本体乗っ取られるよ」
 「M&Aが動いている」 
 高階の険しい顔から視線を反らし、類はふと思う。
 …今日は一日晴れるだろうか。
 高階の唸るような言葉には答えず、類は窓から下界を覗き下ろした。
 こんな日は芝生の上で、昼寝もいい。
 つくしと高校時代一時を共有した非常階段を思い起こす。
 …あそこはけっこう寒かったな、と。
 夏場は日差しがきつくて、それはそれで辛かった気がする。
 「類ッ!」
 「…俺は知らないよ。でも、俺には俺の思惑がある。お前と敵対することがないといいな、とは思うけどさ。大事なものをなくさないためだったら、俺はなんでもするよ」





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