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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第六章 固執③

昏い夜を抜けて286

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 「…類、これ」
 つくしが戻ると、もちろん、類は眠ってなどいなかった。
 先ほどの姿勢のまま蹲っていた顔を、つくしの声かけであげる。
 とてもそんな可愛らしい男ではないことはよくわかっているのに、そうしているとまるで寄る辺ない子供のようでつくしの胸が痛む。
 「あんたがずっと欲しがってたもの」
 「……」
 「あんたと俺の情事を撮影した動画のマスター」
 そうではないかと思っていたが、改めて言われて手の中の小さなチップをジッと凝視する。
 こんなものが、つくしと類との歪な関係を作りだし、彼女を怯えさせ彼へと隷属させる元凶となっていたのだ。
 「どう…いう風の吹き回し…?」
 聞いておきながら、その答えをすでにつくしは予想している。
 …もう、いらなくなったからなんだ。
 つくしへの不可解な執着を類は失っている。
 「あんたバカだね」
 けれど、類が口にした言葉はあまりに意外すぎて、つくしは唖然と忍び笑う彼を見守ってしまった。
 そう…類は笑っていたのだ。
 ちっとも楽しそうではなかったけれど…。
 「ホント、お人好しで、迂闊だよ」
 「…あたしをもっと貶めたいの?」
 女々しさを見せたくなどないのに、類の言葉が刃のように胸を刺し貫いた。
 「違うよ。よく思い出してごらん?」 
 「……」
 「俺があんたを2度目にレイプした次の日をさ」
 レイプ…あれは確かに強姦だった。
 卑怯な手段でつくしを囲いこんだ男だったが、それだけは以前から誤魔化そうとはしなかった。
 この上なく卑劣で冷酷な男なのに、つくしを見る頼りなげな眼は不思議に透明で…いつものように感情がなく冷たいとは思えない。
 何を言おうとしているのか。
 どういうつもりだというのか。
 恐怖と…期待と、悲哀と寂寥と様々な感情が入り乱れて、つくしは混乱していた。
 「マスターは俺が持っているにしろ、あんたは複製を一度は手にしたんだ」
 思い起こせば、つくしへの脅迫に使われた画像を再生していたDVDは自ら粉々に粉砕してしまっていたのだったか。
 「…それをネタに俺を脅し返すことだってできたはずだよ?」
 「だって、あたしの顔は映ってたけど、あんたの顔は映ってなかったじゃない」
 今となっては後の祭りだったが、もし残っていたとしてもそんな手を使おうと思えただろうか。
 「声でわかる。マスターもそうだけど、特に手を入れてないから、一発だよ」
 「……」
 「それに第一、あんたの立場だったら、いくらでも俺を窮地に陥れる方法なんてあったんだはずなんだ。それこそ、その気なら、あんたの仕業だとわからないように俺の弱点やスキャンダルを政敵に売ることだって可能だったんじゃない?それをする手段だって、あんたならあったのに」
 ぼんやりと類のいう言葉を考慮する。
 言われてみれば、そうなのかもしれない。
 自分の胸の中で無防備に眠る類を裏切って、陥れる。
 けれどそもそも、つくしを陥れたのは類だったのだ。
 それなのに…。
 けれど…。
 「…あんたが、そんな女だったらどんなに良かっただろうね」
 ぽつりとつぶやく類の言葉に、胸を締め付けられるような痛みを憶えてつくしは涙をのみ込み顔を反らす。
 「だから、もうあたしに飽きたってわけ?」
 「……」
 「簡単にあんたの言いなりになるような女だから、もういらないって?」
 けれど、感情的になりかけているつくしとは裏腹に、類はあくまでも冷静だった。
 「間違わないで。俺ともう一緒にいれないと言ったのはあんたの方だよ」
 「…っ。そ、そうだけど」
 「俺がいま、あんたに何を言っても信じないんでしょ?」
 信じる…。
 類の何を信じればいいのかわからない。
 何度となく彼女を裏切り、騙して…そして雁字搦めに縛り付けて。
 「だから、いったん手を…離してあげる。まさか、総二郎の忠告を聞くハメになるなんて、俺もヤキが回ったかな」
 最後の呟きはつくしの耳には届かなかった。
 自嘲の笑みを浮かべて、類はソファから立ち上がる。
 そしてそのまま玄関へ向かう彼を、つくしはぼんやりと見送った。
 「もう、どちらにせよ、あんたを縛るものはない。出て行きたければ出て行けばいい。会社を辞めたいなら辞めてもいい。けど、ここの持ち主、すでにもうあんただから」
 「は?」
 聞き捨てならない類の言葉に、玄関で靴を履く類の背中を慌てて追いかける。
 「…俺からあんたへの慰謝料。あんたのことだから、どうせ、俺のこと強姦犯だって訴える気もないんでしょ?」
 「訴えるって」
 その通りだ。
 というか、そもそも経緯はどうであろうと、契約を交わした関係だとある程度納得して受け入れていた以上、そんなつもりは最初から毛頭なかった。
 初めてレイプされた時はショックなばかりで、犬に噛まれたと思って忘れる努力をすることしか頭になかったのだ。
 「最初からそのつもりだった。うちの母親はなんか勘違いしてたみたいだけど、ここの名義変更の手続きはあらかたすんでるし、気しないで」
 「なっ!そんなの了承できるはずがないでしょッ!?」
 それではむしろ類の母親が誤解していたように、つくしが金目当てで類の傍にいたと思われても仕方ないではないか。
 けれど、類は感情の伺えないひんやりとした笑みを浮かべるだけで、自分の言葉を撤回しようとはしない。
 「元々俺の稼ぎで購入したマンションだから、何をどういわれる筋合いもないしね。必要書類その他は、後日弁護士を通じて説明させるよ」
 「あたしをお金で買ったつもりなのっ!?」 
 もし、そうなのだとしたら…。
 屈辱に震える体を抑えて、つくしが類を睨み付ける。
 だが、それは本当に屈辱からだったのか、背筋から抜けてしまいそうな力を必死でかき集めて、足を踏ん張り続けた。
 「…いっそ金で買える女だったらって思うよ。でも、あんたはそういう女じゃないってわかってる。金にも地位にも、権力にもひれ伏さない…だから」
 「花沢…類」
 「マンションくらいは正当なあんたに対する精神的慰謝料だろうし、それが胸糞悪いっていうんなら、好きにしてよ。売りたければ売ればいい。放置して出て行きたければ出て行けばいい。…俺はもう、あんたに対して何も拘束するつもりはない。…これで、お終いだよ」





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