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「昏い夜を抜けて…全483話完」
第六章 固執③

昏い夜を抜けて285

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 「…べべ」
 驚くつくしの困惑をよそに、別れた時より少しだけ大きくなった犬がつくしの膝へと飛びついて、ちぎれんばかりに尻尾を振り喜びを表していた。
 「どうして、ここに」
 茫然と呟き、類を振り返る。
 けれど彼は、懐く犬の頭を撫で、犬をまとわりつかせたまま居間へと入ってゆく。
 遅れてつくしが居間へと入ると、タイに指をかけ、ソファへとだらしなく腰かけ背もたれによりかかった類が、仰向けたまま目を瞑って、膝に乗せた犬の頭をゆったりと撫でていた。
 そんな一枚の絵画のような美しい構図に魅入って、何度となく彼に見惚れた自分をつくしは振り返る。
 「こいつは誰にもあげないよ」
 「…え」
 「あんたにあげたつもりだったけど、あんたがいらないというのなら、仕方がないね」
 吐息のような息を零し、目を開けて立ち尽くすつくしを見た類の目は、今まで彼女が見たことがない色を湛えていた。
 …いや、本当に見たことがなかっただろうか。
 痛みを堪えて、陰ったその色は…。
 静がフランスに行くことをただ黙って許容し、諦めてた時によく似ていた。
 けれど、目を瞬いて再び見返したその眼にはもう弱々しさの欠片もなく…見慣れたいつもの彼だった。
 やはり、つくしの気のせいだったのだろうか。
 口を開いた彼の声音には、なんの狼狽もなく、つくしの先ほどの宣告にまったく動揺していなかった。
 少なくても、つくしにはそう見える。
 「座れば?」 
 「…いらないんじゃないわ」
 「でも、他人にあげるつもりだったんでしょ?」
 口調は静かで、詰っているようではないのに、つくしが疚しいのはなぜなのだろう。
 「…ここを出るつもりだったから」
 「……」
 「あんたが結婚して…あたしがここを出て行くことになったら、とてもペットを飼う余裕なんてない。この子を飼えるようなところに住むのは、無理だって思ったのよ」
 借金を抱えて、以前と同じ最低限の生活を営む。
 その中に、ペットを飼う余裕などあるはずもなかった。
 べべのつぶらな目の信頼を見る度に、苦しかった。
 類と二人…偽りであっても確かにそこにあった一つの桃源郷を惜しんで、未練を募らせたくはなかったのだ。
 どうせ手放さなければならないのなら、べべがまだ成犬になりきらないうちの方がいい。
 つくしや類を愛して、他の誰かを想えなくならないうちに…手遅れにならないうちに手放してやりたかった。
 けれど、それが自分の心に重ねていた想いなのだと、もうつくしにはわかっていた。
 …類を愛したくない。

 いや、もうすでに愛していることを自覚していたが、いまならまだ間に合う、別れることができるのだと信じていたかったのだ。
 「なんで、俺が飼うって思わないかな」
 …あんたが出てゆけるはずがないだろう?
 もう、そうは言わない類に、つくしは無意識に唇を噛みしめた。
 膠着状態だった二人の関係が、今、変わろうとしている。
 平行線だった言葉が噛みあう。
 だが、それは同時に互いの齟齬に向き合って、破綻へと…別離へと向かう当たり前の道筋だったのだろうか。
 「だって…」
 愛人の残した犬なんて迷惑だろう、とか。
 自分を縛るために飼い始めた犬など必要でなくなるだろう、とか。
 そんなことじゃなくって…。
 ただ。
 「あんたに似合わないもん」
 不釣り合いであることは、不幸を呼ぶ。
 司とつくしの関係がそうだったように。
 そして、類とつくしの関係もまた―――――。
 呟きは弱々しいのに、あまりに確信に満ちて。
 類は犬の頭を優しく叩くと、長い足をソファの上で抱え込み、膝に顔を突っ伏してしまった。
 「類?」
 「…書斎の本棚」
 「え?」
 「俺の好きな詩集があるあたりの、上の段の奥を探ってごらん?」
 突然の話題転換に、つくしは戸惑って類を見つめる。
 「…なに?」
 「……」
 「なんなの?」
 けれど、類は沈黙したままつくしの呼びかけに答えようとしない。
 彼女が動くまでそれ以上何も話さないつもりなのかもしれなかった。
 「ねぇ、なんなの?」
 「……」
 「類ッ!」
 眠っているはずはないのに、後はつくしがどう呼びかけても応じてはくれなかった。
 「…わかったわよ」
 沈黙に耐え切れず、つくしは仕方なく彼の指示通りに居間を出て、書斎の本棚へと向かう。
 普段、類とは読書の傾向がまったく違うつくしには、馴染みのない背表紙が並んではいたが、彼が好んで読んでいる本のタイトルくらいは見憶えていた。
 つくしの背では届かない位置にあるので、椅子を押してその上に乗って手を伸ばす。
 ゆらゆらと揺れるキャスターの動きと存外の高さに苦労しながら、指示されたあたりの本を取り出し、机の上へと積み上げる。
 どの本も、難解な科学雑誌や哲学書ばかりで、特につくしの目を引くようなものはなかった。
 「…なんだっていうのよ、もうッ」
 誤魔化されたのだろうか?
 口惜しさがこみ上げる。
 彼女の決死の言葉さえ、またも類に無視され、一顧だにされなかったのだ。
 じんわりと滲んできそうな涙を手の甲で拭い、溜息を呑み込む。
 そして椅子から降りるための支えにしようと、再び本棚に手を伸ばした。
 「…あ」
 ふと目の端に触れたものはなんだったのだろうか。
 本棚の背板にビニールのテープで貼りつけられた3cm四方ほどの小さなチップ。
 「これって…」
 それは、デジタルビデオカメラなどの記録に使われるSDカードだった。





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ハンル様

こんにちは。
リンクサイト様へのご連絡の件ですが、申し訳ないのですが、当該サイト様が類つく中心サイトであることへの理解についての一文がございません。

http://daytodaykochako.blog.fc2.com/blog-entry-197.html

を参考の上、改めてご申請ください。
よろしくお願いいたしますm_ _m

なお、ご返信が遅れたことをお詫びいたします。

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