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君を愛するために~花より男子二次小説

当サイトは原作者様&出版社とは無関係です。個人的趣味の為、職業等の詳細は適当です。その他矛盾、誤字脱字等ご容赦を。又、版権以外の文章の著作権は管理人にあります。無断転載、複製、二次使用、配布等はご遠慮下さい。なお、更新情報他は『こ茶子の日常的呟き』及びツイッター『こ茶子@Kochako00をご利用のこと。※現在連載途中の作品完結以降、花男の執筆予定はありません(新作終了)。

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愛してる、そばにいて1019

第10章 贖う⑤

 今日、ニューヨークを発つ。
 ヨーロッパ…とりあえずは、東ドイツ有数の経済都市ライプツィヒにある道明寺ホールディングスのドイツ支社長として赴任する司の転勤に同伴してのこと。
 ドイツ統合でだいぶ復興が進んでいて、海外資本も入っているとはいえまだまだ西欧諸国に遅れをとり、ドイツ国内でも経済格差の大きな地域だ。
 大学出たてのホヤホヤの司が支社長という身分で派遣されるのは、それだけ御曹司としての彼に期待がかかっているからというには、あまりにも難しい人事。
 ‘Take care! (※お元気で)若旦那様と若奥様のお幸せを、遠くからでもいつも祈っておりますよ’
 愁嘆場にしたいわけではなかったけれど、……この屋敷につくしがやってきた時とは異なり、多くの使用人たちに心から惜しまれる別れとなった。
 ―――もちろん、そうではない人々もいたが、それでも、いま送迎車の前に立つ彼女を取り囲んで涙ぐんでくれている人々と、まるで自分の娘のように彼女を抱きしめてくれる目の前の黒い肌の女性だけは間違いなくそうだ。
 …メアリのおかげで、私は、ここでもなんとかやっていくことができた。
 そして、おそらくこれからの………道明寺家若夫人としての自分もまた、彼女に支えられたことによって、逃げ出すことなく前を向いて、司の後をついてゆくことができるのだろう。
 ‘若奥様、お元気で’
 ‘お幸せに!’
 ‘若奥様……’
 ‘…………………っ’
 ‘ありがとう、メアリ。ありがとう、みんな’
 ‘さあさあ、涙を拭いて。……そんなに泣いてしまったら、目や顔が腫れてしまって、あなたにメロメロな若旦那様を心配させてしまいますよ’
 司が心配するのはともかくとして、メアリの『メロメロ』発言に、カッと赤面してしまう。
 ‘な、何言ってるのよっ’
 いつまでそんなことで一々狼狽えまくっているつくしを失笑し、豪快な仕草でバンと彼女の背を叩いて、メアリがつくしを迎えの車へと押し出す。
 ‘いたたたた。……メアリぃ’
 ‘ほんとうのことじゃありませんか。あのデレデレの暴れん坊は、若奥様がちょっとご気分が悪いだけでオロオロ大騒ぎしだして。若奥様がご自分のそばいらっしゃらなければ、夜も日も明けないなんて、いったいいつまで新婚のおつもりなんでしょうね’
 ‘……………’
 呆れたように言われ、大袈裟ではないだけに、自分のせいでもないのになんとも居た堪れない。
 …あう。
 ‘ほら、そんなことより早く車に乗って。若奥様がいつまでもグズグズしてたら、一足先に空港で待っている若旦那様がヤキモキして、また煩く電話してきちゃいますからね’
 ‘もうっ、メアリはすぐ、司のことを引き合いに出すんだから’
 ‘そりゃそうですよ、大事な私の雇い主ですからね’
 茶目っ気たっぷりにウィンクしているところを見れば冗談なのだろうが、そうした率直な物言いは、やはり曖昧な日本人とは異なるアメリカンなお国柄というヤツなのかもしれない。
 そうしたところにかつてはなかなか馴染めず、苦労させられたものだが、4年をこの地で過ごし、今はもうつくしも少しは慣れることができた。
 それなのにこの地を離れ、またあらたな、まったく言葉も習慣も考え方さえも違う人々の住む地へ転居する。
 …司はどこでも、人間なんて同じだって言うけど。
 この先、どんな人々との出会いが待っていて、自分や司にはどんな運命が待ち受けているのだろう。
 …いつまで自分は彼と共にいることごできるのか。
 ふいに思い浮かんだそんな想いにドキリと胸が動悸打った。
 何をバカなことを…、と頭をゆるく振り、道明寺邸を最後に振り仰いで、彼女を見送る人々へと軽く会釈をして、今度こそつくしは自分を待つ車へと乗り込んだ。




*****




 「ふわぁ、凄くいい匂い」
 「気に入ったか?」
 手渡された香水瓶を傾け、かすかに擦りつけた手首をクンクン嗅いで、うんうん、とつくしは頷いた。
 「俺はお前のそのまんまの匂いの方が好きなんだけどよ」
 ソファに腰掛けた司の膝の上に、横抱きに腰掛けさせられ、……それこそクンクンとうなじのあたりを嗅ぎ回られる。
 以前はこういうことをされるのがえらく恥ずかしかったものだが、人間慣れとは恐ろしいもので、今やつくしもそう抵抗感を感じなくなってしまっている。
 …まあ、人前なわけじゃないし。
 結婚して何年もたち、こういう男である司と過ごしていればイヤでもなれざる得ない。
 とはいえ、うっかりしていると人前でも平気でされてしまうので、そこまでは達観と言うべきか、恥知らずにはなれていなかったから、油断できないところではあるのだが。
 「でも、この前に作ってもらったヤツもまだけっこう残ってたのに」
 「…あれか」
 司が顔をムッと顰める。
 「あれも悪い匂いじゃなかったけど、……お前のイメージじゃなかったんだよ」
 基本、つくしもあまり匂いのキツイ香水をつけるのは好きではなかった。
 …司の匂いは好きなんだけど。
 もともとの習慣ではなかったのか、鼻先で臭うとどうにも気になってしまって仕方がないのだ。
 しかし、ヨーロッパではかなり香水をつける習慣が普及していて、必ずしもつけなければおかしいというわけではなかったが、それでも化粧品はなくても香水はいくつももっているという女性がいるくらいにオシャレの基本だった。
 …やっぱりね。
 そこは世に名高い大財閥の御曹司の妻としては、ファッションリーダーの役割もあったから、それなりに気遣わなくてはならない部分がある。
 ましてや、ほとんど屋敷内に閉じこもっていたニューヨーク時代―――2年前とはまるで事情が違っていた。
 「こっちに来て、もうかれこれ2年かぁ」
 「……なにシミジミ言ってんだよ?」
 「ん~。最初は右も左もわからなくて、馴染めるんだろうかとか不安ばかりだったけど、案外なんとかなるもんなんだなとか思ってさ」
 「そうだな。そもそも慣れるほどいないうちに、あっちだ、こっちだ、と転々とさせられてんしよ」
 「………うん」
 ヨーロッパはアメリカ以上に多種多様な人々が住まい、言語も異なる人々で犇いている。
 日本国内を移動するよりも、短時間で移動できる地域では全く違う言葉を話していることも当たり前。
 ヨーロッパ圏の人々は、母国語の他にも数カ国話せる人も珍しくないくらいだ。
 「お前も、ニューヨークにいる頃は、なるべく日本語できるヤツ見つけて日本語で話したがってたけど、今じゃ、俺と会話する時もなるべく現地の言葉で話してんもんな」
 「……そりゃあね」
 やはり基本的なことだ。
 馴染む姿勢がなければいつまで経ってもなれることができず、また、郷に入っては郷に従えの手始めは言葉ではないだろうか。
 「お前って、案外順応性高いよな」
 「そ、そう?」
 …ちょっと嬉しいかも。
 そんな些細なことで喜んでいたら、面白そうな顔で自分を見ているイタズラっ子みたいな司の顔に出くわした。
 「……なによ?」
 「いや、国や人種どころじゃねぇよな、とか思ってよ」
 本当にそうだ。
 手の上げ下ろしから、歩き方、生活習慣に始まって、生活のレベルまで、本来の彼女の世界ではなかった場所ーーー上流階級という1つの別の社会に突然放り込まれて、……それでもいつの間にか、なんとか息ができるようにいなっていた。
 つくしにとってはむしろ、肌や目の色の違う人たちに馴染むよりも、根本的な価値観の違う人々に馴染むことの方が辛かったかもしれない。
 「そうだね、ホント」
 「で?そんなことを思ったら、ついでにいろいろと?こっちに来て、お前がやらかしたアレコレが思い出されちまったわけ」
 「げっ」
 「言うか?」
 「わぁ~~っ、いい、いい!やめて~言わないで~」
 「ぶっ!」
 つくしにしても、忘れたというにはまだ生々しく記憶に残っている恥かきの歴史だ。
 彼女の恥じらいが大好きないじめっ子の夫に、滔々と語られてしまうことを危惧して、慌てて両手で司の口を抑えた。
 「くくく」
 が、すぐに手を口から引き剥がされ、片手で両手を押さえつけられる。
 「もう!なんでそんなこと一々覚えてるのよっ!よけいなことは全部忘れてくれていいから!」
 「はは!………まったく、以前はずいぶんしおらしくしてやがったが、お前こっちに来てすっかり元通り?俺にもずいぶん遠慮会釈ない女になったよな」




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愛してる、そばにいて1018

第10章 贖う⑤

 「バイオリン?」
 「うん。今日ね、ホテルのロビーにいる時に―――あ~、えっと、そ、そう、流れていた曲が何か聞き覚えがあったんだけど」
 連想がボウッと日本人観光客の若い男性を見ていたことにまで飛んでしまい、またも司の機嫌を損ねてはと、サラッと流して本題を話してしまう。
 「ホテルのロビーで流す曲つーたら、バッハやモーツァルト、ショパンあたりだろうけど、特に気にしたことねぇな」
 つくしにしても同様だったし、クラシック曲は教養の一環として家庭教師たちからかなり厳しく教え込まれているから、別にホテルのロビーに限定せずとも聞き覚えがあっても当然だった。
 …それでも、何の曲だかパッと思い浮かばないところがまだまだだよね。
 軽く落ち込みかけて、いやいや、今はそんな話じゃなかったと思いなおす。
 「それが授業で聞いたとかそういうんじゃなくって、誰かが弾いているのを聞いた気がするのよ」
 今時、上流階級の人間でなければバイオリンを習っているとは限らない。
 もしかしたら、つくしの家族の誰か、あるいは友人、そうでなくても、彼女が通っていた学校自体が司のようなセレブの子女が多く集まっていた場所だったのだから、誰かしらが練習していたのをたまたま耳にしただけだったのかもしれない。
 けれど、つくしはそうではない気がした。
 いや、あるいは、彼女の為に成された演奏ではなかったのかもしれなかったが、そのバイオリンの音に、どこか甘酸っぱいような切ない想いがこみ上げ、ただそうして何気ない日常の中で洩れ聞いたものではないと思ったのだ。
 …私にとって、何かとても大切な思い出だった?
 だとすれば、そうした感情を思い起こす場面にいてもおかしくない相手といえば、今目の前でつまらなそうにあまり興味を示してくれない司しかいない。
 「司が練習してたり、演奏してるのを聞かせてもらうこととかがよくあったのかなって」
 そのわりには今の司が楽器を演奏しているところを見たことはない。
 しかし、ただでさえ多忙な男だ。
 いくらそうしたものが上流階級の嗜みの一つで、常日頃の鍛錬が欠かせないとはいえ、呑気に楽器を弾いていられる身の上ではない。
 「……俺が?」
 「うん」
 「ピアノよか弾けないことはねぇけど、………俺じゃねぇよ」
 「そっかぁ」
 …うーん、残念。
 たとえ司だったとしても、だからどうしたということもないのだが、もし自分にバイオリンを聞かせてくれたのが司で、そのことを懐かしく思ったのなら、それはもしかしたら自分の失われた記憶の欠片の一つではないかと期待したのだ。
 期待するにはあまりに囁かで、些細なものにすぎなかったけれど。
 …でも、なんか他にも何か思い出したような気がしたんだよな。
 誰かの声が聞こえた気がした。
 司が過剰な反応をしたので、司に確かめることができなかったが、彼女が注目していた日本人観光客の男性の言葉が妙に耳の残って、記憶の琴線に触れた。
 …ううん、違う。たぶん、声だ。
 誰だかわからない、けれど、心をザワつかせる誰かを思い起こさせる声。 
 「………思い出せそうな気がしたんだけどな」 
 「………」
 司が彼女へと視線を向けたのと、何気なく彼女が顔を上げたのはほとんど同時だった。
 バチッと交わった視線と、予想外に鋭い眼差しで自分を見つめている司の顔に出くわして内心で仰け反ってしまう。
 「司?」
 「何を思い出せそうだって?」
 「え?」
 「今、言ってたろ?」
 「……あ、う、うん」
 ゾワリと背筋が総毛立つ思いがした。
 「お前は何を思い出したんだ?」
 「………」
 喉が渇く。
 「言えよ?」
 ゴクリと唾を飲み込もうとしては、乾いてしまった口内に少しも唾などなくって、それでも自分を睨み据える司の眼光が怖くて、上手く言葉を発することができない。
 …なんか言わなきゃ。
 そう思うのに、ここのところ影を潜めていた彼への恐怖感が蘇る気がして、つくしは小刻みに震え出すのを堪えることができなかった。
 しかし、司はそんな彼女に気がつかない。
 いや、気がつかないのではなく、それ以上の何かに囚われ、気にしようともしていないだけだったか。
 『―――司様、社屋前に到着しましたが?』
 インターフォンから聞こえてきたSPの声に、ハッとつくしが周囲を見回すと、司も彼女を見据えていた視線を外し、それでその場を支配していた緊張が解けた。
 告げられたとおり、いつの間にか車は目的地に到着していたらしく、しかし、没個性的な地下駐車場の意匠に、パッ見ここがどこなのかつくしには判断がつかない。
 けれど、司にはもちろんわかっていたのだろう。
 小さく吐息をつき、視線を落とすと、………ポツリと呟くように、彼女へと質問した。
 「お前、記憶を取り戻したいのか?」 
 「え?」
 「前の記憶」
 咄嗟に何を言われたのかわからなかったつくしだったが、しかし、司の問はあまりに意外なものだった。
 …記憶を取り戻したいのか、って。
 「そ、そりゃそうだよ!」
 当たり前のことだ。
 自分が誰なのか、どんな風に今まで生きてきたのか、それらすべてを失ったまま……欠落したままで平気な人間などいるはずもない。
 もしかしたら、自分は犯罪者なのかもしれない。 
 ―――あるいは、やはりこれは誰かの夢で、その人物が夢から醒めてしまえば、一夜にして消え去ってしまう、自分はそんな儚い存在なのではないか、そんなことさえ思う。
 それでも、これまでの彼女は自分の記憶を取り戻すことにそれほど熱心ではなかった。
 それは、
 …私には司がいたから。
 生きることを心配する必要がなく、過去がなくてもなんら困ることがなかった。
 いや、おそらく、それもまた彼女がある意味異常だったからに違いない。
 自分自身のことなのに、そうした心配さえもどこか間遠く現実のものとして受け入れられない状態をけっして正常とはいえまい。
 「俺は必要ねぇと思ってる」
 「……え?」
 さっきからつくしは「え」ばかりだ。
 …どうして、そんなことを司が言うの?
 恋人に自分のことさえ、それまでの二人の歴史を忘れ去られてしまった男が。
 「お前が記憶を失ったのは、その必要があったからだ。……医者も言ってたろ?むしろお前が記憶を戻すことで、逆に精神状態を悪化させて、今度こそお前自身が損なわれる可能性がある。忘れちまったのは、―――それだけお前にとって辛くて苦しい、不必要な、いや、あるべきではない記憶だったからなんだよ」




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愛してる、そばにいて1017

第10章 贖う⑤

 和気藹々とは言えないが、それでもホテル側の用意した車に乗り込み、一息つくと先ほどの諍いにもならないあれこれの気まずさはだいぶほとんどなくなっていた。
 いつまでも引きずっていても仕方がない。
 つくしに関しては自分は嫉妬深い男だと、開き直られてしまっては、つくしとしてもどうしようもなかったから。
 …たぶん普通は、司にそこまで言ってもらえたら、逆にうっとりしちゃうんだろうな。
 女は熱烈に自分を愛してくれる男性を一度は夢見るものだ。
 しかも、司のような男にそこまで言われては女冥利に尽きるだろう。
 実際に、そうして男性に愛情を示されて、戸惑わずにはいられないかと言えば別の話なのだが。
 「なんだよ、まだ怒ってるのか?」
 「え?……ん~、別に怒ってないよ」
 まだ、と言われたが、最初から最後まで、戸惑っていただけで、つくしとして怒っていたつもり自体がない。
 バツが悪そうなところからして、むしろこだわっているのは司の方だ。
 そうした様子を見てしまえば、逆に怒ることなどできるはずもない。
 「腕、痛ぇ?」
 「あぁ、大丈夫、大丈夫」
 たしかに真っ赤な手形はついてしまっていたが、そこは司も多少なり気を使っていたのだろう。
 鬱血するほどではなかった。
 「でも、ハァ………、ミス・チャーチルになんて言おう」
 「なんだよ?家庭教師には俺から連絡して、後日に変更させたって言ったろ?」
 「……そりゃそうなんだけどね」
 本来なら、司とは別々の車に乗って、朝一の授業にはつくしも屋敷に帰りついている予定だった。
 しかし、予定していた送迎の車が事故に巻き込まれたとかで、幸いどちらの車にも被害はでなかったが、現在、秘書に西田とともに道中足止めをくらってしまっているらしい。 ホテル側と交渉して代車を用意させたが、仕様等の問題でとりあえず道明寺財閥御曹司夫妻が乗るに耐える高級車を一台しか用立てることができなかったからとかで、司と同乗して会社経由で屋敷に帰宅することに。
 おかげで朝一の授業はキャンセルせざるえず。
 「家庭教師はあくまでもこっちが雇ってんだ。雇い主のお前が、たかが一度授業をキャンセルしたくらいで気に病んでどうする?第一、お前がイヤならドンドン合うヤツに当たるまで変えればいい話なんだし、なに遠慮してんだよ?」
 「うーん」
 司の言うとおりなのかもしれなかったが、教えを乞う身としてはどうしてもそういう考え方はつくしにはできなかった。
 「会社寄るついでに、俺の部屋見てくか?夜じゃねぇけど、そこらの展望台行くより、よほど遠くまで見えるぜ?」
 「いやいやいや」
 たしかにめったに『イイ』ということがない司が言うくらいだ。
 一望の価値はあるのに違いなかったが、司はあくまでも仕事に行くのであって、いくら経営者一族に連なる身分とはいえ、会社と無関係な自分がおいそれと就業時間中の社屋をウロついていていいはずがない。
 …私だけだったら、別に普通のレンタカーか、タクシーで十分だし、どうせ授業を休まなきゃならないなら、ホテルで時間を潰して送迎車が来るのを待っていてもいいんだけどな。
 しかし、司は基本、つくしだけで外出させるのをあまり好んでいないのをつくしも承知していた。
 もちろんあらかさまにそうしたエゴを表には出さなかったし、SPを連れて歩けば好きに買い物なり気晴らしに出かけても構わないと言われてはいたが。
 どちらにせよ、道明寺家の事情的にも、彼女を表に出したくないのが、彼の実家の意向であることもわかっている。
 「ま、しょうがないことだし、諦めるから気にしないで。それより司は車の中でもやることあるんでしょ?」
 「別に、お前と雑談するくらい片手間で出来るからかまわないぜ?」
 そうは言っても、彼女が話しかければどうしても、手元の小型ノートパソコンから視線を外してチラリとでも彼女に視線を向けてくれているし、足止めを食らっている西田の不在で、いつもはスケジュールに確認や出社前に事前の打ち合わせも済ませられるだろうことができずに、司もいつもとは買ってが違って滞ってしまっていることもあるだろう。 
 小さく曖昧に笑んで、特に否とも応とも答えず、つくしはパソコンに見入っている司から視線を外して、車の窓から流れてゆく外の景色へと顔を横向ける。
 それで司も特に何を彼女に話しかけるではなかったから、やはり正直なところ彼女が黙っていた方が仕事に集中できて都合がよかったに違いない。
 …大変だな。
 本当にそう思う。
 司はたびたび、激務の自分がつくしをかまってやれないことを気に病んでくれているが、彼がどれだけ頑張っているのか、同じ年頃の青年が成し得ぬことに立ち向かっているのか、ごく身近で見ているだけに、そんな不満を持つこともできなかった。
 もちろん寂しさは否めないし、彼以外の身内がこのニューヨークに、いやある意味、この世に誰もいないのだから、ふっと孤独感や閉塞感を感じることもあったけれど。
 …ワガママなんてとても言えないよ。
 たくさんの誰かと繋がっていたい。
 ―――知り合いたい。
 もっと広い世界を見て、自分の可能性を試してみたい。
 誰かと一緒にいたい。 
 司と普通の夫婦のように、もっとたわいない話をして笑い合って、互いを労わり合い、彼の役に立ちたい。
 司の妻としての自分の存在意義をたしかめたい。
 今の生活に満足したかった。
 そして、時々は、恋人同士のようにデートして、日々の大変さを慰撫しあって、明日の英気を養う。
 …でも、全部しょうがないことだよ。
 司はそうしたことを普通とできる普通の男ではないのだから。
 そして、自分はそういう男である司の妻なのだから。
 道明寺司の若夫人。
 名前のないそんな称号が、今の彼女の立場であり呼称だった―――たとえ司以外の道明寺家の誰一人として認めてはくれていなかったにしても。
 いや、司の姉の椿は歓迎してくれていたか。
 あの司に似て美しくもパワフルな女性を思い浮かべると明るい気持ちになれる。
 …またお義姉さんとおしゃべりしたいなぁ。
 やたらと買い物好きで、つくしにあれこれと司以上に買い与えたがるのは閉口してしまうが。
 そういえば、先日もどうしてもバイオリンが上手くならずに音楽の教師に叱られてしまう話を彼女にした時に、バイオリンのサイズが合わないのでないかと心配されて、オーダーメイドで作ってあげると提案されてしまった。
 『別にプロになるわけじゃなくって、教養の範囲なんだから別にフルサイズにこだわらなくてもいいじゃない?楽に弾けるならそれに越したことはないし、叱られて弾くなんてストレスもいいところだわよ』
と。 
 そういう椿はバイオリンどころかピアノやフルートも卒なくこなし、音楽のみならずあらゆる分野で並ならぬ腕前や才能を持つ完璧な女性だった。 
 生まれながらの血統や富、地位だけではなく、美貌、才知、人格、すべてにおいて同じ人間であることが信じられないくらい。
 …すっごく優しいし。 
 憧れることさえ、恐れ多い相手なのだ。
 そんな女性が義姉。
 そして、そんな彼女の弟である司もまた、並ならぬ男性だった。
 「あ、そうだ」
 司の仕事の邪魔にならないように、もう雑談はふらないつもりだったのに、つい口に出してしまっていたらしい。
 「なに?」 
 「ご、ごめん、気にしないで」
 「いいよ。仕事に行く前からガッツリ集中して仕事なんてしたくねぇし、せっかくお前といるんだから、できるならお前になんか適当な話でもしててもらった方が俺としてはリラックスできていい」
 「そ、そう?」
 うんうん、と頷く司の言葉はどうやら社交辞令ではないようだ。
 そもそも妻であるつくし相手に司がおもねる必要もない。 
 「じゃ、お言葉に甘えて。そういえば聞いたことなかったけど、司も楽器を演奏できるんだよね?」
 「あ?」
 「バイオリン。私って、以前……記憶をなくす前に、司にバイオリンを弾いてもらったことがあるのかな?もしかして」




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愛してる、そばにいて1016

第10章 贖う⑤

 「きゃっ!」
 いきなり腕を掴まれたと思ったら、強引に立ち上がらされ、文字通り引きずられて……ボンヤリしていたつくしはそこでやっと我に返った。 
 「つ、司?」
 あきらかに何かに腹を立てた司が、まるで彼女を引っ立てるようにしてつくしの腕を掴んだまま、どこかへと連れてゆこうとしているその状況に、つくしは混乱していた。
 「え?な、なに?どうしたの?司」
 しかし、司はつくしの問いに応えることなく、いつもは彼女が歩く速さに合わせてゆっくりと歩いてくれるというのに、彼女が半ば小走りになってしまっているのにも一顧だにしない。
 背後のSPたちは、当たり前に二人を追従しているが、視線を彷徨わせ、目で彼らに質問を投げかけても、顔を見合わせて首を傾げて肩を竦めるばかりで、誰もつくしの問いに答えてくれなかった。
 そのままエントランスロビーを闊歩し、一度エレベーターホールにまで戻った司がつくしを引きずったままエレベーターに乗り込むと、SPたちを視線で押しとどめ、彼らを待つことなく扉を閉じてしまう。
 大きく肩を怒らせていた司だったが、余人の視線が途切れたことで、多少なりとも気持ちが落ち着いたのか大きく息を吐き出し、骨も折れよとばかりに強い力で握り締めていたつくしの腕からゆっくりと手を離す。
 相当強い力で握り締められていたのか、長袖越しにも関わらずおそらく赤い手形がついているのではないか予想できるほど、ジンジンと痺れたような痛みを訴えていた。
 いつも蕩けるように甘く彼女を甘やかして、大切にしている司らしからぬ暴挙。
 …でも。
 どこかでそんな司を見たことがある。
 いや、めったにないことではあるが、こうした司を何度となく見たことがなかったか?
 記憶を失う前の曖昧の過去などではなく、ごく直近というにはかなり以前だが―――、どこだかのパーティ会場で、なんとかいう国連大使だか、外務省高官だかに、つくしが司の妻として伴われて挨拶に出向いた際に、紹介されたイタリア系企業の経営者に、挨拶としてのキスというにはどこか下心を覗かせた挨拶をされた。
 さすがに司と結婚して4年近く。
 つくしも彼の性格はかなり把握してきていて、本来の彼がかなり直情的で激情型タイプであることはわかってきていたが、ビジネスの世界にいる司はどこまでもクールで、つくしといる時の彼も、言動は荒くても大概彼女に優しくそうした面を見せなかったが、その時はあわや一悶着起こすのではないかという剣呑な空気を醸し出していた。
 あからさまに威嚇する司に、さすがの伊達男もタジタジで謝罪していたが、それでももし相手が悪びれない態度で、なおもつくしに迫ろうという風情でも見せていたのなら手が出てもおかしくはないといった雰囲気だったのだ。
 司の妻とはいえ、ほとんど屋敷に押し込められるようにして存在自体を半ば隠され、限られた機会にしか司と外で一緒にいることがなかったし、プライベートで出かける時も常にSPが追従し、ほとんど司に張り付かれている状態なので、そうして彼以外の男性と接触する機会自体がないことから、そうした場面は度々あることではない。
 けれど、思い起こしてみれば、その片手で数える機会のたび、こうした司を見た覚えがある。

 しかも、ただ不機嫌になるだけではなく―――。
 …まさか、だよね?
 「あの……」
 「他の男なんか見てんじゃねぇよ」
 「…………」
 やっぱりと、笑い飛ばしたり気安く苦情を言うには、まだ不機嫌さを収めきれていない司の眼光は鋭く、表情は氷のようにあまりにも冷たかった。
 あきらかに怒りを孕んだ声音の昏さに怯んで、つくしは息を飲み、言い訳する言葉さえ失ってしまう。
 怖じけて、片手を掴まれていた方の腕に回したまま、縮こまって一歩司か後退った彼女の様子に、司にも彼女の今感じている怯えが伝わったのか、今度こそハッキリと顔を歪めて再び彼女から視線を反らし、チッと舌打ちした。
 そして、何度も深呼吸を繰り返して、それでもなんとか怒りを逃すことに成功したらしい。
 わずかに口調を緩めた司が、チラリとつくしを振り返ってボソリと呟いた。
 「俺以外の男のことなんか見るなよ」
 今度の声音は、どこか拗ねたようなものだっただけで、先程までの陰惨な怒りの放射はかなり控えられていた。
 司の顔を見つめたまま、固まってしまっていたつくしも、それでなんとか気を取り直すことができて、ハ―――ッと大きく息を吐き出す。
 …怖かった。
 正直な気持ち。
 けれど、悪さが見つかった子供のように気まずげに、チラチラと自分を見ている司の様子を見てしまっては、そんな恐ろしさも半減してしまう。
 まだ、さきほど感じた恐怖と拒絶感を完全に拭い去ることはできていなかったけれど。 それでも―――、
 …迫力がありすぎるってだけで、いくら怒ったって、司が私にひどいことをしたりするはずがないもの。
 無意識の信頼がある。
 ―――本当に?
 なのに、心の奥底から、またも真逆の問いが湧き上がって、ドキリと心臓が音を立てた。
 なぜ、こうして彼を疑う気持ちを未だに克服することができないのか。
 …司にひどいことされたりしたことなんてないのに。
 「おい?」
 いつまでも黙ったまま、うんともすんとも言わなかったからだろう。
 先ほどまでのつくしを怖じけさせるような剣呑さは含まれていなかったが、唇を尖らせた司に、再び不機嫌にジト目で睨まれてしまう。
 その顔が本当に子供のようで―――、
 「ぷっ」
 「……あ?」
 今度こそ強張っていた体と心が解放される。
 けれど、
 「司に掴まれて引きずられた腕が痛い」
 「あ……」 
 苦情はしっかりと言わねば気がすまない。
 「それに、他の男の人を見るなって、そんなことで怒られても、ただボンヤリ見てただけでしょ?」 
 「……ジッと見てたじゃねぇかよ」
 「ん、まあ、日本人の観光客なんだなぁ、ってなんとなく見てたけど」
 ほとんど景色や無生物を見るのと感覚的には違いがない。
 それを咎められるても困ってしまうだけで、つくしにしたらなぜそれくらいのことで怒られてしまうのかわからないし、言い訳のしようもない話だ。
 ―――たとえそれが司のヤキモチからだとしても。
 「ボンヤリとだろうが、なんとなくだろうが、俺以外の男をお前が見てるとめちゃくちゃムカつくんだよ」
 「……え~」
 「たしか前にも言ったことあったろ?同じ空気吸わせてるだけでも、ホントは許せねぇくらいだって」
 「だって…、だって、それって……無理な話だよ」
 言っただろ?と言われれば、言われた気もする。
 …でも、普通本気だと思わないよね。
 だが、司の顔や、彼のこれまでとった言動を思い起こせば一概に冗談だと流せない。
 それこそ子供じみた言い分に呆れてしまうが、彼の本気が十分に伺えた。。
 どうやら彼が並々ならぬヤキモチ焼きで、ある意味異常なくらいな独占欲の持ち主であることは、つくしもだいぶわかってきているつもりではあったのだが。
 …同じ空気を吸うなとか言われても、そんなの不可能なことだよね?
 「さすがにそこまでの無茶は言わねぇけどよ」
 「……よろしくお願いします」
 妙に神妙な顔で頼むつくしに、司もさすがにおかしかったらしい。
 苦笑して、自分が掴んで痛めてしまった彼女の腕をとり、優しく撫で、
 「乱暴しちまったのは悪かったよ。でも、さっきの話はマジだから。以前お前にそう言った時より、今の俺はもっとお前に惚れ込んじまってる。たとえお前にその気はなくても、お前にちょっかいかけるヤツは、どんなことをしてでも排除するし、……もし俺からお前を奪おうとする男がいたら、俺はたぶんそいつを殺すぜ?」




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愛してる、そばにいて1015

第10章 贖う⑤

 「お前はここでちょっと待ってろ」
 「あ、うん」
 二人でデートして、ホテルに泊まって―――久しぶりの甘い時間を過ごした次の日の朝。
 いや、寝入った時にはすでにもう午前を過ぎていたはずだったが。
 いつもは朝食の準備をして、司を起こすつくしだったが、さすがに今朝はすっかり寝過ごしてしまった。ll
 司の方はといえば、すでに一日の規則正しいスケジュールが体に刻み込まれているのか、早めとはいえなかったが、それでも出社時間に遅れるほど寝過ごすこともなく、むしろ朝っぱらから疲労困憊なつくしの方が司に起こされてしまう始末だ。
 …なんかいつも以上に、凄い元気だし。
 司の方は昨夜までの疲労をすっかり拭い去り、いつも以上に精気に溢れ精力的だ
 …うぅっ、まだ体が怠い。こんなんでこの先、大丈夫かな、私。
 セックスレスはセックスレスで気に病んでいたが、いざ夫婦生活を再開してみれば、してみるでそれはそれで悩ましいことこの上ない。
 有り体に言えば、体が持つだろうか、という、他人様に言えば逆に羨まれてしまうか、生ぬるい視線をしかもらえないだろうけれど。
 …いや、誰にも言えるわけないから、いいんだけどさ。
 ヨタヨタと歩くような醜態は晒してはいないはずだし、司も気を使ってくれたはずなのだが、やはり体格差か、あるいは単なる体力の差なのか、どうしても司と過ごした次の日はカラダがキツく、少なくても午前中いっぱいはそうした影響を拭い去ることができなかった。
 もっとも夫婦とはとはいえ、激務で家を空けがちの司とそう毎日夫婦生活を営めるものでもなかったので、そこまで心配するほどもないかもしれなかったが。
 昨夜の予定では、迎えに寄越させたリムジンに二人で乗り、途中、道明寺邸でつくしを降ろし、そのまま司は出社する予定だったのだが、予定より遅い起床に、どうやらそれは無理だということになって、結局別々の車で帰宅へと予定変更になっていたのだが。
 どうもトラブル発生のようで、2台のリムジンの到着が遅れていた。
 …どうしよ。司も朝一で会議だって言うし、私の方もミス・チャーチルの授業入ってるから、あんまりのんびりしてられないんだけど。
 厳しい家庭教師たちの中でも、特に厳しい教師の顔を思い浮かべ、内心つくしは顔を顰めてため息をつく。
 一般人ならそれはそれでタクシーなり、交通機関を利用しての帰宅も可能だったが、司の場合は諸事情あり、SPたちが乗ってきた車に同乗して司だけ会社に向かうか、あるいは別の方法をとるかと、それほど深刻なことではなかったがその対応に司があれこれSPたちとやり取りしていた。
 そんな彼の姿を目の端に止め、ホテルのエントランスロビーの椅子から、見える範囲の人々をつくしはなんとはなしに眺めていた。
 道明寺家の経営するザ・メイプルとはまた違う雰囲気だが、訪れる人々の階層にそう変わりはない一流ホテルの内装を堪能し、どこかで見たような人々を興味深く観察する。
 あまりあからさまなのも非礼だが、通り過ぎる人々が立ち話をする司をチラリと横目で見て行くのをさらに自分が眺めているのも、それはそれでなんとなく楽しい。
 …あ、あの人、絶対司のことカッコイイとか思ってるよね。
 …あれ、あれってもしかして、まさかハリウッド俳優の?
とか。
 「なにしてんの?」
 背後から聞こえた男の声に、ビクリと体が震えた。
 …日本語?
 ―――はなしてあげなよ。いいから離せって言ってんだよ。
 どこからか、……心の奥底から聞こえた声に、体が小刻みに震える。
 おそるおそる振り返った背後、司の方を見る男女二人のカップルの横顔が見えた。
 おそらく日本人の観光客だろうが、そのどちらの人物にもつくしは見覚えがない。
 当然のことだったが。
 それなのに、なぜか男性の方、おそらくまだ20才前後、あるいは学生だろうか。
 そちらの男性の声が、どうにも聞き覚えがる気がして、どうにも視線を外すことができなかった。
 …どうして?
 いったい自分でもなにが起きたのかわからない。
 けれど、何かが琴線に触れる。
 「いや、あの人って、芸能人じゃないかな、って思って?どっかで見たことある気がするんだけど、雑誌だったかな。…テレビだったかも。ねえ、知らない?」
 「どうでもいいよ、そんなの」
 ―――興味ない、他人のことは。
 「なによ、それぇ!」
 ―――誤解しないで、おれ、こーゆーのキライなだけなんだ。
 興味なさげに冷たくそんな風に言う誰かを知っている気がした。
 冷たいのに、優しくて、けれど……やっぱり、冷たくて。
 助けてくれたと思ったら、彼女を突き放した誰か。
 …誰?
 ふいに、ロビーで流されていたクラッシック曲の曲調が、オーケストラ演奏からバイオリン独奏へと変わる。
 凪いでいた心がなぜか、漣のように波立った。




*****




 「ああ、悪いな。じゃ、それで頼む」
 「かしこまりました」
 とりあえずホテル側に適当な車を2台用意させて、SPを運転手がわりにすることで話はまとまって、司はつくしを待たせているソファを振り返った。
 しかし、当のつくしは何を見ているのか、司ではなく熱心に別の何かを見ていて、彼の話が一段落ついて、自分の方へと歩み寄って来ているのにまるで気が付いていない。
 彼をまったく見ていなかった。
 子供でもあるまいに…と、自分でも思うが、つくしの関心が自分に向いていないことが気に入らない。
 もちろん、かつてのようにそれを全面的に表に出してつくしを咎めるほど愚かではないつもりだったが、しかし、つくしが何を見ているのかわかってそんな分別も吹っ飛び、頭にカッと血が昇った。
 「おいっ!」
 「……………」
 声を荒らげた司に驚いて飛び上がったのはつくしではなく、むしろ彼女が見ていた男の方だった。
 司のように特に人目をそばだてる特徴的な人物というわけでもなく、もちろん女の目を引きつける美男というわけでもないごく平凡な男。
 おそらく日本人、観光客だろう、司やつくしよりも何歳も年下らしい若い男。
 …ガキじゃねぇか。
 しかし、それがわかったからといって、司の頭に昇った血を下げる効果はほとんどなかった。
 ―――つくしが自分ではない男を見ている。
 つくしが呼びかけている司を無視して、その男をジッと見つめたままだったから。
 「どこ見てんだ、てめぇはよっ!」




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