君を愛するために~花より男子二次小説

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愛してる、そばにいて1015

第10章 贖う⑤

 「お前はここでちょっと待ってろ」
 「あ、うん」
 二人でデートして、ホテルに泊まって―――久しぶりの甘い時間を過ごした次の日の朝。
 いや、寝入った時にはすでにもう午前を過ぎていたはずだったが。
 いつもは朝食の準備をして、司を起こすつくしだったが、さすがに今朝はすっかり寝過ごしてしまった。ll
 司の方はといえば、すでに一日の規則正しいスケジュールが体に刻み込まれているのか、早めとはいえなかったが、それでも出社時間に遅れるほど寝過ごすこともなく、むしろ朝っぱらから疲労困憊なつくしの方が司に起こされてしまう始末だ。
 …なんかいつも以上に、凄い元気だし。
 司の方は昨夜までの疲労をすっかり拭い去り、いつも以上に精気に溢れ精力的だ
 …うぅっ、まだ体が怠い。こんなんでこの先、大丈夫かな、私。
 セックスレスはセックスレスで気に病んでいたが、いざ夫婦生活を再開してみれば、してみるでそれはそれで悩ましいことこの上ない。
 有り体に言えば、体が持つだろうか、という、他人様に言えば逆に羨まれてしまうか、生ぬるい視線をしかもらえないだろうけれど。
 …いや、誰にも言えるわけないから、いいんだけどさ。
 ヨタヨタと歩くような醜態は晒してはいないはずだし、司も気を使ってくれたはずなのだが、やはり体格差か、あるいは単なる体力の差なのか、どうしても司と過ごした次の日はカラダがキツく、少なくても午前中いっぱいはそうした影響を拭い去ることができなかった。
 もっとも夫婦とはとはいえ、激務で家を空けがちの司とそう毎日夫婦生活を営めるものでもなかったので、そこまで心配するほどもないかもしれなかったが。
 昨夜の予定では、迎えに寄越させたリムジンに二人で乗り、途中、道明寺邸でつくしを降ろし、そのまま司は出社する予定だったのだが、予定より遅い起床に、どうやらそれは無理だということになって、結局別々の車で帰宅へと予定変更になっていたのだが。
 どうもトラブル発生のようで、2台のリムジンの到着が遅れていた。
 …どうしよ。司も朝一で会議だって言うし、私の方もミス・チャーチルの授業入ってるから、あんまりのんびりしてられないんだけど。
 厳しい家庭教師たちの中でも、特に厳しい教師の顔を思い浮かべ、内心つくしは顔を顰めてため息をつく。
 一般人ならそれはそれでタクシーなり、交通機関を利用しての帰宅も可能だったが、司の場合は諸事情あり、SPたちが乗ってきた車に同乗して司だけ会社に向かうか、あるいは別の方法をとるかと、それほど深刻なことではなかったがその対応に司があれこれSPたちとやり取りしていた。
 そんな彼の姿を目の端に止め、ホテルのエントランスロビーの椅子から、見える範囲の人々をつくしはなんとはなしに眺めていた。
 道明寺家の経営するザ・メイプルとはまた違う雰囲気だが、訪れる人々の階層にそう変わりはない一流ホテルの内装を堪能し、どこかで見たような人々を興味深く観察する。
 あまりあからさまなのも非礼だが、通り過ぎる人々が立ち話をする司をチラリと横目で見て行くのをさらに自分が眺めているのも、それはそれでなんとなく楽しい。
 …あ、あの人、絶対司のことカッコイイとか思ってるよね。
 …あれ、あれってもしかして、まさかハリウッド俳優の?
とか。
 「なにしてんの?」
 背後から聞こえた男の声に、ビクリと体が震えた。
 …日本語?
 ―――はなしてあげなよ。いいから離せって言ってんだよ。
 どこからか、……心の奥底から聞こえた声に、体が小刻みに震える。
 おそるおそる振り返った背後、司の方を見る男女二人のカップルの横顔が見えた。
 おそらく日本人の観光客だろうが、そのどちらの人物にもつくしは見覚えがない。
 当然のことだったが。
 それなのに、なぜか男性の方、おそらくまだ20才前後、あるいは学生だろうか。
 そちらの男性の声が、どうにも聞き覚えがる気がして、どうにも視線を外すことができなかった。
 …どうして?
 いったい自分でもなにが起きたのかわからない。
 けれど、何かが琴線に触れる。
 「いや、あの人って、芸能人じゃないかな、って思って?どっかで見たことある気がするんだけど、雑誌だったかな。…テレビだったかも。ねえ、知らない?」
 「どうでもいいよ、そんなの」
 ―――興味ない、他人のことは。
 「なによ、それぇ!」
 ―――誤解しないで、おれ、こーゆーのキライなだけなんだ。
 興味なさげに冷たくそんな風に言う誰かを知っている気がした。
 冷たいのに、優しくて、けれど……やっぱり、冷たくて。
 助けてくれたと思ったら、彼女を突き放した誰か。
 …誰?
 ふいに、ロビーで流されていたクラッシック曲の曲調が、オーケストラ演奏からバイオリン独奏へと変わる。
 凪いでいた心がなぜか、漣のように波立った。




*****




 「ああ、悪いな。じゃ、それで頼む」
 「かしこまりました」
 とりあえずホテル側に適当な車を2台用意させて、SPを運転手がわりにすることで話はまとまって、司はつくしを待たせているソファを振り返った。
 しかし、当のつくしは何を見ているのか、司ではなく熱心に別の何かを見ていて、彼の話が一段落ついて、自分の方へと歩み寄って来ているのにまるで気が付いていない。
 彼をまったく見ていなかった。
 子供でもあるまいに…と、自分でも思うが、つくしの関心が自分に向いていないことが気に入らない。
 もちろん、かつてのようにそれを全面的に表に出してつくしを咎めるほど愚かではないつもりだったが、しかし、つくしが何を見ているのかわかってそんな分別も吹っ飛び、頭にカッと血が昇った。
 「おいっ!」
 「……………」
 声を荒らげた司に驚いて飛び上がったのはつくしではなく、むしろ彼女が見ていた男の方だった。
 司のように特に人目をそばだてる特徴的な人物というわけでもなく、もちろん女の目を引きつける美男というわけでもないごく平凡な男。
 おそらく日本人、観光客だろう、司やつくしよりも何歳も年下らしい若い男。
 …ガキじゃねぇか。
 しかし、それがわかったからといって、司の頭に昇った血を下げる効果はほとんどなかった。
 ―――つくしが自分ではない男を見ている。
 つくしが呼びかけている司を無視して、その男をジッと見つめたままだったから。
 「どこ見てんだ、てめぇはよっ!」




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愛してる、そばにいて1014

第10章 贖う⑤

 司が怪訝に目を瞬かせるのをジッと見つめて、何度となく心の中で問いかけた問いを言葉に乗せる。
 「私のどこが好きなの?」
 「……なんだよ、突然」
 司が戸惑っているのもわかる。
 けれど、それをこそつくしは聞きたいと思った。
 ずっと聞きたかったのだ。
 「突然じゃないよ」
 「いつも言ってんだろ?」
 「聞いてないよ」
 「そうかぁ?」
 いつも、『好きだ』、『愛してる』、『そのままのお前でいい』と何度となく、惜しみなく愛情を伝えてはくれていたが、どこどこが好きだからだとか、なにがきっかけで自分を好いてくれるようになったのかなど、そうしたことを聞いた憶えがない。
 そもそも結婚をして何年も夫婦でいて、同じ部屋で寝起きをしているとはいえ、二人には絶対的に時間が足りなかった。
 毎日顔を合わせているとは言っても、大概、つくしが眠ったあとに司は帰ってきて、朝こそ彼女に起こされ、彼女の作った朝食を食べてゆく司だったが、それも毎日のことではないし、食事の時間ですら仕事人間の司がゆっくりと食事に専念することはない。
 …さすがに新聞を読みながら、食べてるってことはないけど。
 少しでも時間があれば、その時間を仕事にあてるのが当たり前の司の生活。
 つくしもそのことに文句を言うことはなかった。
 彼がどれだけの責任と責務を負い、毎日懸命に走り続けているのかよくわかっていたから。
 ただ、彼の体が心配だっただけ。
 ―――時には、やるせない寂しさに襲われることも少なくはなかったけれど。
 それでもニューヨークに連れて来られた当初のように孤独に蹲ることもなく、それなりに自身も日々やらなければいけないことに精を出し、屋敷の人間たちともそれなりに上手くやっていた。
 それもこれもすべては司のおかげだ。
 最初の一年目こそ、屋敷内の誰とも馴染めず孤独に苛まれ、そこから抜け出すことさえできなかったつくしだったが、司の乳母的な存在だという女性の口利きで、よそにある道明寺邸を統括する役割を持っていたメイドのメアリがやってきた時から事情は好転した。
 彼女も道明寺家の使用人である以上、楓やその夫である総帥の意に逆らうことはできなかっただろうが、どうやらつくしに冷たかった家政婦長の場合は、たぶんにその主人の意向を慮ったものではあっても、特に舅姑の指示で冷遇していたわけではなかったらしい。
 メアリ自身の人柄もあっただろう。
 彼女につくしが馴染むにつれ、司もメアリを重用し、少しづつ家政婦長の意向ではなく、司やつくし自身の意を重んじる使用人たちを増員していた。
 やりにくいこともあっただろうとは思う。
 だが、道明寺家はもともと質実剛健、能力第一主義的なところがあったから、彼らが道明寺家の妨げにならなければ、楓も私情を持ち出すことなく、特に冷遇するといったこともなかったのだ。
 「えっと……今の私の良いところとかは思いつかないんだったら、前の私のことでもいいんだけど」
 妥協というわけではなかったが、どうしても聞きたかった。
 いつもは気後れすることが多くて、聞きたいことも飲み込んでしまうことが多いつくしだったが、やはり肌と肌を触れ合い、体の奥底で交じり合うような濃厚な体験の後だからだろうか、……以前よりも、ぐっと司が近づいた気がする。
 いや、むしろ彼が、というよりも、彼女自身の心が、なのかもしれない。
 夫婦として当たり前の交流なのだから、いまさらと言えば今更なのだが、それでも、昨日までの自分―――夫である彼との肉体交渉の有無に悩んで、どこか遠慮していた自分とは違った。
 「全部」
 「……へ?」 
 「だから、全部だよ、全部。顔も体も声も性格も、全部好き。まるごとのお前に惚れてる」
 思わずポカ~ンと、司の顔に見入ってしまっていたつくしだったが、徐々に彼の言葉が頭に浸透するにつれて、自分が質問したことなのに絶句してしまう。
 …だって、全部が好きだなんて、そんな。 
 「き、嫌いなとこ、って?」 
 「ねぇよ」
 「……………」
 司ばりに超絶美形で、スタイルもよくて、なにがしかの才能もある、どこかの大富豪の令嬢やお姫様だとでも言うのならともかく、あまりに予想外なセリフに何を言っていいのかわからない。
 …本気で言ってたりするわけじゃないよね?
 しかし、司の表情はウソや冗談を言っているようにはとても見えない。
 「なんだよ?」
 「ホントのことだからしょうがねぇだろ?」
 薄らとわずかに頬を赤く染めた司が、見つめ合っていたつくしからツッとわずかに視線を反らす。
 司は普段からイタリア人張りに臆面もなく「愛してる」を言える男だが、それでも多少なりとも気恥しかったらしい。
 「えっと、それって昔の―――記憶をなくしちゃう前の私のこと?」
 それだけ、以前の彼女は今の彼女とは違ったのだろうか?
 とてもそうも思えなかったが、案の定、
 「は?今のお前も、昔のお前もねぇだろ」
 「でも、私なんてどこにでもいる……普通の女なのに」
 謙遜しているつもりもないし、卑下しているわけでもない。
 それでもそれが世間の客観的な評価だと自分が一番よくわかっている。
 誰に何を言われるまでもなく……。
 だが、視線を戻した司の顔はどこまでも真剣で、……甘く切なく彼女の目を見つめて掻き口説く。
 「お前はどこにでもいる普通の女なんかじゃねぇよ。この世でただ一人、どこにもいねぇ最高の女なんだ。俺はお前の全部が好きだ。愛してる。この先どんなことがあって、なにがあったとしても、その気持ちは、たとえお前にだって変えることはできねぇ。……俺にさえできねぇんだからな」




*****




 「ん~」
 ふっと意識が浮上して、身体を拘束していた温かさが離れてしまったのに寂しさを覚えて、つくしは思い瞼をそっと開けた。
 …あれ?まだ、朝じゃないのかな?
 あれから―――、司ととりとめもない雑談を交わして、しばらくしてまた、司に乞われて、何度となく抱き合ってしまった。
 3年ぶりの行為であったこともあるが、さすがに司の体力に付き合いきれるものではなく、いつの間にか意識を失ってしまっていたらしい。
 …つ、司って、相変わらずっていうか。
 以前も悩ましく思っていたことだが、かなり夜の生活が激しいタチのようだ。
 それを空恐ろしいとも、逆に、そんな男が3年もの長き間彼女の心を慮って耐えてくれていた思いやりを思う。
 流産による心の傷はけっして消えるものではなかったが、だが、それでも彼を愛しいと素直に思えた―――癒やされた。
 スースーという規則正しい寝息を立てる司を振り返って、彼の美しい寝顔をじっくりと眺める。
 こうしてシミジミと彼の寝顔を眺めるのも、もしかしたら初めてのことかもしれない。
 …ホント、綺麗だよね。
 わずかに迷って、けれど、ぐっすり寝ているような司の様子にソロソロと手を伸ばして、そっと彼の目元にかかった前髪をかき上げよけてやる。
 いつもは強く巻いて短くなってしまっている髪も、まだどこかしっとりとして、ウェーブを描く程度に落ち着いていた。
 もしかしたら、まだ寝入ってしまってからそんなに時間が経っていないのかもしれない。
 …私の、旦那様。
 熱く激しく彼女を愛して、全力で彼女を守ってくれる人。
 「……ん」
 再び小さなうめき声を洩らした司が、顔を顰めて何かを捜しているように手を彷徨わせ、彼女へと腕を伸ばした。
 「あ……」
 抗う間もなく、引き寄せられて抱き込まれてしまう。
 正直、いくら肌寒いこの時期とは言え、こうまで密着して抱き込まれては暑いし、寝苦しいのだが。
 それでも、トクントクンという規則正しい司の心臓の音を聞いていると安心する。
 心地よくて瞼が重くなってくる。
 誰も見ていやしないのに、わずかに視線を右左にと落ち着きなく動かして、つかの間の逡巡の後―――、チュッと司の胸元にキスを贈る。
 …いっひぃ~、な、なんか私変態みたい?
 いつか、たぶん、本当に近い日のいつか。
 自分も彼のように、彼を「好きだ。愛してる」と曇りのない気持ちで言ってあげたい。 ―――言いたい。
 本当にそう思う。
 それがつくしの寝入る前の最後の思考だった。




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愛してる、そばにいて1013

第10章 贖う⑤

 「へぇ、そんなによく見えるんだ?」
 「……派手は派手だな」
 「綺麗なんでしょ?」
 「まあな」
 嵐のような情熱的な一時が過ぎ、汗ばむ素肌にこもる熱と荒いでいた息が収まり出した頃、なんとはなしにポツリと呟いた話に司も応じてくれて、思いつくままに雑談していた。
 「私からしたら羨ましい環境だけど、感動薄いよねぇ。ホント司ったら、贅沢者なんだから」
 「……ふっ」
 ボヤくつくしの言葉に、司が失笑する。
 しかし、もちろんそれは馬鹿にしているとか、嘲笑しているというわけではなく、彼女がそんなたわいなことでも大げさに驚いたり、大真面目に反応するのが面白いと思っているのがよくわかる柔らかな笑み。
 「俺にしてみれば、景気は景色だからな。第一、いくら夜景がイイって言ったって、こっちは仕事してっし、毎日のことだからそんなに感動もねぇよ」
 「それもそっかぁ」
 …こういうのをピロートークって言うのかなぁ。
 司はおしゃべりな男ではないが、かといって意外にも無口というほどではなく、つくしが話しかければ、うるさがらずに遮ることなく話を聞いてくれたし、ポツリポツリとでも返事を返してくれる。
 また、気が向けば、自分から思いついて話してくれることもあったが、やはり日頃の多忙から、どうしてもゆっくりと雑談を交わす暇などなく、性的交渉のなかったこの数年間、ベッドに入ればすぐに寝入ってしまうのがほとんどの常で、こうしてたわいない話をするのも本当に久しぶりのことだった。
 抱き寄せてくれる司のたくましい胸に手を置き顔を伏せて、その温もりに酔う。
 以前はどこか居た堪れなかったこうした時間も自分の心持ち一つでこうも違うものなのかと驚かされる。
 …司はずっと優しかったけど。
 それでもどうしても自分が望んではいない関係を強要されていると、といった被害者意識をどうしても拭うことができず、かといってそんな自分の気持ちを正直に彼にいうことができない自分の意気地のなさと優柔不断を、自己嫌悪に陥ったり。
 けれど、彼の体温が心地よいと素直に感じることのできる自分が嬉しい。
 ドクンドクンと力強く鼓動打つ司の心臓の音と、彼の低くゆったりとした声を聴いていると気持ちが落ち着いた。
 …それに、司って凄くいい匂いだし。
 いつものコロンの香りはすっかり汗に流され、いつもはそれほど濃くはない司の体臭がいつもより強く香る。
 けれど、その匂いさえ、イヤだとはもう思わなかった。
 …不思議だよね。
 もともと不快な臭いなどではなく、彼にぴったりのその甘い香りを奇妙に嫌悪していた時があったのは、どうしてなんだろう。
 その答えを突き詰めるのは、どこか空恐ろしいような何かを呼び起こしてしまいそうで、つくしは小さく首を振り、そんな思いを振り払った。
 「なに?」
 「え?……あ、いや。ここの居間の夜景も凄く綺麗だったんだろうなって」
 おそらく‘夜景’も、司が彼女との今日のデートの為に、用意してくれたプランの一つだったのだろう。
 …恋人とかじゃなく、夫婦なのに。
 司にはそんなところがある。
 美形ではあるが、野性味溢れ、硬派な見かけや性格とは裏腹に、愛している女をどこまでも甘やかしたがるロマンチストな部分。
 つくしの言葉に横たえていた身体を、彼女ごと司がわずかに起こす。
 「今から、見てくるか?」
 「……ええ?」
 「行こうぜ?」
 今にも手を引かれて、連れて行かれそうだ。
 「……ん、でも、ちょっと今はまだカラダが怠いし」
 ちょっと…というには、かなり控えめな表現だったが。
 しかし、司も言葉を濁したつくしの状態を察してくれたらしい。
 「抱いて行ってやるよ」
 彼女の返事しだいで、本当に抱き抱えて連れて行かれてしまいそうだ。
 しかし、つくしは今こうしている時間が失われてしまうことの方が惜しかった。
 ヌクヌクと二人で温かな布団にくるまって、たわいない話をする時間。
 ごく平凡なようでいて、彼ら二人にはそれこそめったに訪れることのない貴重なもの。
 「ん~、……夜景かぁ」
 「なんだよ?見たくねぇの?」
 「そうじゃないけど、……でも、司がいつも見ている景色とは違うわけだよね。司がいつも見てる会社からの夜景だったら、そりゃあ見てみたいとは思うけど、今はこうして司と話してたいかなぁ」
 正直な気持ち。
 いつもは気後れしたり、遠慮してしまってどうしても彼の意に逆らうようなマネをするとができないつくしだったが…。
 「そ、そうか?」
 つくしの言葉の何にか、妙に司がテレテレと照れて、顔を赤らめ、再び彼女を抱えて布団へと潜り込む。
 チュッ、チュッと顔中に振らされるキスの雨がくすぐったくて、クスクスと笑ってしまう。
 「もうっ、なぁに?」
 「……お前が、ずいぶん可愛いセリフ吐くからよ」
 「ええ?」
 「俺がいつも見てる景色じゃねぇんなら、それほど見る価値もねぇ……俺が見てるものをお前も見たいっていう意味なんだろ?」
 「……………」
 そんなつもりではなかったけれど。
 …でも、た、たしかにそんな意味かも?
 「可愛いヤツ」 
 ギュウギュウと抱きすくめられて、裸の胸に押し付けられて、息苦しいくらいなのに笑ってしまう。
 「やだ、そんなふうにギュウギュウ抱きつかれたら苦しいよ」
 自分でも甘ったれた声が出ている自覚がある。
 …恥ずかしい。
 でも、幸せで。
 「なんだかくすぐったいし」
 「うるせぇ、もうしばらく黙って可愛がられてろ」
 「え~?」
 さすがに力は緩めてくれたが、言葉のとおりひとしきりつくしを抱きしめて、キスをして、つくしを笑わせて……。 
 「もうっ、司ったら」
 しかし、司もそれで満足したのか、抱きしめたままの彼女の髪を撫で、優しく素肌の背を撫でて、話を再開した。
 「それでも……」
 「うん?」
 「それでもな、真夜中にふっと何かの拍子に、書類から顔をあげて窓の外を見ることもあんだよ」
 「……うん」
 再び身体を横たえた司が、その景色を思い浮かべるように遠くに視線をやり、つくしの頭のてっぺんにチュッとキスを落とす。
 「全然、普段は気が付いたりしねぇけど、なにげに真昼間よりすげぇ明るいんだよな」 「へぇ?」
 「空港から見た夜景だけでも感動してたお前だからな。会社から見下ろす夜景も一度くらい見せてやりてぇって、いつも思ってたんだよな」
 昼間よりも明るい電気の明かりなどつくしには想像もつかないが、かすかな微笑みを浮かべ、優しく微笑んでくれる司の顔をこうして見上げている、二人で同じ夜景を想像しているだけで十分、その景色を眺めている以上に満足だった。
 「けど、会社にはババアもいるし、お前こっちに来るのイヤがるだろ?」
 「………」
 姑である司の母親に会うことを忌避しているのを、察せられていることに居た堪れない。
 …わかられてないはずはないけど。
 それでも、楓は司の生みの母親なのだ。
 どれほど彼自身は、自身の母親を悪しざまに言っていようとも、そのことをつくしは忘れるつもりはなかった。 
 「ニューヨークを離れる前に、一度くらい見せてやりたかったよな」
 「……司」
 彼の優しさがくすぐったくも、……なぜか切ないのはなぜだろう。
 愛にストレートな彼はいつも彼女を愛していることを隠さない。
 愛情を惜しみなく与えてくれていた。 
 それでも、つくしにとって彼は謎の多い男だった。
 その最たるものが―――、
 「ね、司」
 「……?」
 つくしの背を撫でていた司の手が止まって、彼女の顔を無言で見下ろす。
 「司は、どうして私が好きなの?」



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愛してる、そばにいて1012

第10章 贖う⑤

 R18です。
 パスなし、隠しなし(通常版では隠せてますが、テンプレート的には隠せず)ですので、18歳未満の方、苦手な方ご注意をm_ _m
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愛してる、そばにいて1011

第10章 贖う⑤

 ビクッと体が咄嗟に怖じけてしまったのは、単なる条件反射だったと思う。
 唐突に司に腕を掴まれ押し倒されて、気がつけば、真上に彼を見上げていた。
 …司が怖いからじゃない。
 つくしの顔の脇に両肘をついて、彼女を見下ろす司の顔は、辛そうに引き歪んで自嘲の笑みを唇の端に刻んでいた。
 …ああ。
 こんな顔をさせたいわけじゃないのに。
 「ほらな。俺がちょっとのしかかっただけで、ビクついて、身体なんてガチガチに強張っちまってんじゃねぇか」
 「………それは」
 自分でもどうしようもないことだ。
 けれど、司に誤解されたくない。
 彼が望んでいるように、まごう事なき愛情で愛しているとはまでは言ってあげられなくても、個の胸の奥に息づいている想いがある。
 「私も、……幸せになりたい」
 「っ」
 「今でもたぶん十分幸せなんだと思う。司が私を大事にしてくれて、愛されて。でも、守られるだけじゃなく、私も司を守りたいし、大事にしたい。愛して、あなたにも幸せだと感じて欲しいの」
 愛されたからといって、必ずしも愛せるものだとは限らない。
 けれど、少なくても、つくしは思ったのだ。
 彼を愛してあげたい。
 いや、あげたいなどとはおこがましい。
 愛したい。
 彼を愛して、彼にも幸せを感じてもらいたい。
 誰かを愛したのなら、幸せをその相手にも感じてもらうことこそ幸せというもので、彼にそう感じて欲しいの願っているのなら、それは……。
 躊躇する気持ちを叱咤して、頼りなげに切れ長の目を揺らす司の頬へとそっと手を伸ばす。
 …本当に綺麗な人。
 この世にこれほど美しい人がいるなんて、それもそんな人がこんなにも平凡で普通の女である自分を熱愛してくれていることが信じられない。
 だから、時々今この時この瞬間が、誰かの見た夢なのではないかと思うことがあるのかもしれない。
 それでもただそれを甘受して、揺蕩うだけでは本当の意味で幸せなのだと言えないから。
 「いつも気持ちをハッキリと言葉や態度で伝えてくれる、愛していると言ってくれる司みたいじゃなくて、………曖昧なままでの私でごめんなさい。でも、私も、このままじゃダメだと思うから。司に甘えているばかりで、司を幸せにしてあげられていない自分じゃイヤなの。司のことも幸せにしてあげたい。これからも司とずっと一緒に生きていきたい」
 司の顔に浮かんだのは、いくつもの感情と迷い。
 最初は、苦しげだった彼の顔が、徐々につくしの言葉を理解するにつれ、驚きに目が見開かれ、何度も口を開いては閉じることを繰り返し、いつも傲慢なまでに自信に溢れた男の顔が期待と不安に揺れ動き、半信半疑だったものが、徐々に喜びに満ちてゆくのがつくしの目に映ってた。
 美しい人が幸せそうに微笑む顔の、なんと美しいことか。
 ともすれば魂を抜かれ、見惚れたまま言葉を失ってしまいそうな危惧に、司の顔から視線をわずかに反らし、懸命に自分の心の中から自分なりの言葉を探した。
 「待っててくれてる司の気持ちは嬉しいけど、でも、司にも私にもう遠慮しないで欲しいって……その、……えっと……それで」
 …抱いて欲しい。
 不安も迷いも―――疑いもなにもかも、司の情熱と温もりですべてを塗り替えて、今ある現実を実感させて欲しい。
 そう口に出そうと決意を決めていたはずなのに、いざ、そう口に出すことがいかにも難しい。
 気持ちの抵抗感からというよりも、照れと恥ずかしさから。
 …わ、私ったら。
 結婚して何年も経っていて、それどころか二度も妊娠した経験があるというのに、何をいまさらカマトトぶっているのかと自分で自分に呆れてしまう。
 …ちゃんと、言わなきゃ。
 すべてはそこから始まるのだから……きっと。
 「ちゃ、ちゃんと自分の気持ちを言わなきゃっって。……だから、う~、そのぉ、わ、わ、私を…私を」
 何度も言葉につまり、結局は言えずにわけのわからない前置きへとまた戻って、だが、このままでは拉致があかないと自分じ自分に焦れったくなってしまう。
 …うひぃ~、どうしたらいいの?
 自分自身でさえ、何を言っているのかわからないのだ。
 短気な司では、焦れったいなどというものではないだろう。
 今、彼がどんな顔をしているかわからない。
 それでも、エイヤっと、気持ちを奮い立たせ、司へと視線を戻す。
 「だ、抱い……んっ」
 しかし、言葉を継ぐ前に、いきなり降ってきた唇に唇を塞がれ、言葉を遮られた。
 「つか…さ」
 「…いい、もう何も言わなくて」
 「でも……」
 「いいんだ。お前の気持ちはわかったから」
 唇を離した司が、つくしに顔を見せることもないまま、彼女に覆いかぶさったまま彼女のうなじへと顔を埋め、ささやき声にも似た小さな声で呟く。
 「愛してる」
 「……司?」 
 「たとえお前がまだ俺ほどに俺を愛してくれてはいなくても、それでもいいんだ。……どんなお前でも、俺はお前を愛してる。俺がお前に惚れてんだ」
 3年前、……あの日、二人だけの結婚式で、司が彼女へと誓ってくれた言葉。
 ―――お前を愛してるから離してやることができない、と。
 そして、その言葉通り、司はけっして彼女を離すことがなかった。
 生まれながらの自分の運命から弾かれ、本来なら辿るべきではない逆境に立ちはだかれても、その誓いのとおり、彼は誰よりもつくしを優先し、愛し続けてくれた。
 ずっと。
 動物のオスとしての、当たり前の衝動さえ押し殺し、ただ彼女に笑って欲しい、傍にいてくれればそれでいい、と。
 これほどまでに美しく、魅力的な男性にこれほどまでに愛され、大切にされて、それで彼を愛さずにいられる女はいるだろうか。
 こんなにも求められ、激しい愛を向けられて。
 「それに、お前もけっこうもう俺に惚れてるんじゃね?」
 冗談めかした言葉に目を瞬かせ、つくしもクスリと笑う。
 こんな時なのに楽しくなってしまうなんて、初めてのことだった。
 …そうかもしれない。
 心で肯定して、つくしが返事を返す前に司が真面目な声音に戻って。
 「好きだ。愛してる」
 司の唇が、まるで消えない焼印を押すように、彼女の顔中にキスの雨を降らせ、ゆっくりと大きな手が彼女の全身を這う。
 けれど、かつてのように、つくしが身体を固くするたび、身震いするたびに、司は手を止め、彼女の怯えを気遣い、ゆっくりと彼女の心と身体を解して蕩かしてゆく。
 「ずっとお前だけ」
 まるで厳かな誓いのような愛の言葉とともに、司の熱い求愛が全身に降り注ぎ、つくしの目尻から悲しみや苦悩ではない涙が、一筋ぽろりと零れ落ちた。




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※更新通知メール配信希望の方は更新通知メールについて
をご参照ください。

みなさん、いつも応援ありがとうございますm_ _m
2016/02~現在未完結の『愛してる、そばにいて(司×つくし)』、
『言葉はいらない(和也×桜子)』、
『百万回の微笑みを愛の言葉にかえて(司×つくし)』、
他サイト様献上の
『恋愛の品格(司×つくし)』
以上4作品以外の新作執筆は無期延期となっております。

また、今まで開催しておりました『こ茶子DAY』こと大量更新も終了いたしました。
毎日基本一日一回am.6:00~更新(ただし、更新できない日もあるかと思いますが、ご了承ください)。

詳しくは、以下【こ茶子の日常的呟き】をご参照ください。
http://daytodaykochako.blog.fc2.com/blog-entry-341.html

上記4作品を公開後は、以前に公開しておりました拍手小話他、他サイト様への献上作品の再公開を最後に当面更新を終了する予定です。
とはいえ、まだまだ続くよ、連載は…という状況ですので、予定では2018年くらいに更新終了(倉庫化)となるかと思いますが、それまでどうぞよろしくお願いいたします。


また作品に対する意見交換などは、こちら【君を愛するために を語ろう!SNS】
http://toloveyou.sns.fc2.com
へどうぞ。

経緯は、
http://toloveyou.blog.fc2.com/blog-entry-2069.html
をご覧下さい。


※警告…当サイトコメント欄にて、他サイト様への誹謗中傷、悪意を煽るコメントを公開にて書き込むことは厳禁です。
その場合は、当該コメントを迷惑コメントとして非公開処理及びIP公開などの処置を取らせていただきますのでご注意ください。
詳しくは『警告』
http://toloveyou.blog.fc2.com/blog-entry-1894.html
にてご確認ください。

スパム報告(IP等)
http://toloveyou.blog.fc2.com/blog-entry-1930.html


※『詐欺画面が出てしまう!』というトラブルに見舞われた方は、まずはこちらをご参照くださいm_ _m (2017/10/)
http://toloveyou.blog.fc2.com/blog-entry-2871.html

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現在は、花男の他にも、オリジナル、韓国ドラマ二次(休止状態ですが^^;)の執筆をしています。
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